片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
170 / 882
混迷の遺跡編

episode167

しおりを挟む
 怒っているベルトルドを気にもせず、どこまでも取り澄ましているシ・アティウスは淡々と答える。そしてアルカネットの言葉も、容赦と遠慮が全くない。

「こんな傲慢でエロいおっさんでも、一応スキル〈才能〉ランクだけ、は異様に高いですから」

「性格とスキル〈才能〉ランクは、比例しませんからね」

 アルカネットとシ・アティウスに畳み掛けられて、ベルトルドは腕を組んで盛大にむくれた。何か言ってやりたいが、倍返しで戻ってくるので言いたくなく。

 この2人の前では、肩書きや権威など、無に等しいようだ。

(あんな光景、二度と見られないかもしれない……)

 メルヴィンはあまりにも貴重なものを見てしまったような気持ちになって、吹き出したいのを必死で堪えていた。ふくれっ面の副宰相など、そうそう拝めるものじゃない。

 それはこの場に居合わせた全員が、同じ気持ちだった。



 医師2人、ウリヤス、ベルトルド、アルカネットで慎重に検討した結果、出発は明日に見合わせることが決まった。熱が下がらないまま無理強いすれば、悪化する可能性が高い。キュッリッキの体力は低下する一方だし、帰還に耐えられないだろう。

 そうしてウリヤス邸には、また1人客人が増えてしまった。

「患者で大賑わいするより、遥かにマシですよ」

 そうウリヤスは笑った。マルヤーナも同じように笑いながら、新たな珍客を歓迎してくれた。

 近くの宿もいっぱいで、ライオン傭兵団のメンバーと、ハドリーとファニーは、廊下でも床でも空いてるところで雑魚寝状態だ。気温が高いこともあり、風邪をひく心配だけはなさそうである。

 いつ容態が急変しても即対応できるように、医師2人はキュッリッキの病室の外で待機が命じられた。ベルトルドとアルカネットはキュッリッキの病室に泊まることになり、ベッドを挟んで傍らに付き添った。

 室内は暑苦しくないように、アルカネットの魔法によって、適温に冷やされている。そして、魔法で作り出した氷で冷やされた水にタオルを浸し、冷たいタオルをキュッリッキの額へそっとのせた。

「冷やしすぎやしないか?」

 腕を組んで見ているベルトルドが、いつになく心配そうに呟く。

「大丈夫ですよ。身体に負担がかからない程度にしか、冷やしていませんから」

「そうか」

 ホッとして、ベルトルドは座り直す。

「それにしても、この世にあんな醜悪な化物が存在していたとは、驚きだったな」

「ええ。一体アレは、なんなのです?」

「娯楽小説でいうなら、遺跡の番人、とでも言うんだろうかな」

 今回の事件の詳細を知るために、ベルトルドはカーティスとルーファスの記憶を透視して、キュッリッキを傷つけた怪物の姿を知った。それをアルカネットにも共有している。

「しかも遺跡の内部も、思い切り変化していたらしいしな」

「仕掛けの存在を、シ・アティウスは気付かなかったのでしょうか?」

「恐らくは。そうした詳細を調べる矢先に、ソレル王国軍に乗り込まれたようだし。ただ、あの遺跡がなんであるかの見当はついているようだ」

「そうですか」

「いずれにしても、あとでお前とシ・アティウスで確認してきてもらう」

「任せてください」

「それとな」

 ベルトルドは困ったように、アルカネットをチラリと見る。

「説教するのはいくらやっても構わんが、ザカリーにした私刑は、もう誰にもするな。知ればリッキーが悲しむだけだ」

 やんわりと諭され、アルカネットは僅かに拗ねたように口を尖らせた。

「まあ、お前が先に爆発してくれたおかげで、俺が冷静になれたんだけどな…」

 そう言ってベルトルドは苦笑し、肩をすくめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

処理中です...