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混迷の遺跡編
episode166
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「よし、俺が飲ませてやろう、貸せ」
ベルトルドが手を出すと、アルカネットはコップを両手で握ったままそっぽを向く。
「私が飲ませますから、そこどいてくださいな」
「俺が飲ませるって」
「これを渡したら何をするか判りませんからね。嫌です」
突如起こったやり取りに、ドグラスとウリヤスが目を丸くする。カーティス、メルヴィンは、
(あーあ…またハジマッタ)
そう異口同音に胸中で呟いた。ヴィヒトリは、
(さっさと飲ませてやれよ…相手は怪我人だぞ!?)
と言ってやりたかった。
背景にうっすらと龍虎の画が浮かんできそうな2人の視線の間に、爆発でも起きるんじゃないかと思える程の火花が散る。
周りの冷ややかな空気にも気づかず、2人の問答は収まらない。
「お前が言うなお前が! 俺がそっと優しく丁寧に口移しで飲ませてやろうと言っているんだ。これでもキスはうまいんだぞ、さっさと寄越せ!」
「お断りします。下心丸出しでイヤラシイ。あなた、最低ですね」
前日問答無用で口移しで飲ませた当人が、そのことを棚に上げて言い張る。そして2人は失念しているが、キュッリッキの意識はあるのだ。
「あのな…」
「さあ、お水ですよ」
そこへ朗らかなマルヤーナの声がして、ベルトルドとアルカネットは口を閉じた。
マルヤーナは手にしていた器にスポンジを浸すと、キュッリッキの唇にそっとあててやる。キュッリッキは僅かにしみ出す水を口の中に含んだ。
「軽く喉を潤わせたかったのよね。熱で喉も乾いて辛いんですもの」
キュッリッキがホッとしたように頷くと、マルヤーナはにっこりと笑った。
「でも、いきなりたくさんのお水は、かえって身体によくないわ。こうして少しずつ、喉を湿らせてあげれば大丈夫ですよ」
マルヤーナに窘められるように言われて、ベルトルドとアルカネットは、気まずさMAXの顔で黙り込んだ。
大の男同士の恥ずかしいやり取りを遠巻きに見ていた一同は、軽蔑のこもった視線をここぞとばかりに注いだ。18歳女子の怪我人を前に、どんだけ恥ずかしい押し問答を繰り広げていたのかと。
片や副宰相、片や魔法部隊長官は、バツが悪そうにあらぬ方向へ視線を泳がせた。注意されたことが恥ずかしすぎて、身の置き所に困る。
気まずい空気がご機嫌でステップを踏む中、救いの神のようにシ・アティウスが病室に顔を出した。
「偉そうな声が聞こえたので来てみました。やはり、ベルトルド様でしたか」
「能面のような顔で慇懃無礼な奴だな。偉そうな、じゃなく偉いんだ、俺は」
憤然と肩を怒らせるベルトルドを無視して、シ・アティウスは無表情のままアルカネットに顔を向ける。
「我々はいつ行きますか?」
「リッキーさんが出発してからにします。この人だけだと正直不安ですが、せめて見送らせてください」
この人、と人差し指でベルトルドを示す。シ・アティウスは頷いた。
「判りました。――だいぶ具合が悪そうですね、エグザイル・システムに耐えられるでしょうか?」
「そのために俺が来たんだっ」
「ああ、そうでしたね」
ベルトルドが手を出すと、アルカネットはコップを両手で握ったままそっぽを向く。
「私が飲ませますから、そこどいてくださいな」
「俺が飲ませるって」
「これを渡したら何をするか判りませんからね。嫌です」
突如起こったやり取りに、ドグラスとウリヤスが目を丸くする。カーティス、メルヴィンは、
(あーあ…またハジマッタ)
そう異口同音に胸中で呟いた。ヴィヒトリは、
(さっさと飲ませてやれよ…相手は怪我人だぞ!?)
と言ってやりたかった。
背景にうっすらと龍虎の画が浮かんできそうな2人の視線の間に、爆発でも起きるんじゃないかと思える程の火花が散る。
周りの冷ややかな空気にも気づかず、2人の問答は収まらない。
「お前が言うなお前が! 俺がそっと優しく丁寧に口移しで飲ませてやろうと言っているんだ。これでもキスはうまいんだぞ、さっさと寄越せ!」
「お断りします。下心丸出しでイヤラシイ。あなた、最低ですね」
前日問答無用で口移しで飲ませた当人が、そのことを棚に上げて言い張る。そして2人は失念しているが、キュッリッキの意識はあるのだ。
「あのな…」
「さあ、お水ですよ」
そこへ朗らかなマルヤーナの声がして、ベルトルドとアルカネットは口を閉じた。
マルヤーナは手にしていた器にスポンジを浸すと、キュッリッキの唇にそっとあててやる。キュッリッキは僅かにしみ出す水を口の中に含んだ。
「軽く喉を潤わせたかったのよね。熱で喉も乾いて辛いんですもの」
キュッリッキがホッとしたように頷くと、マルヤーナはにっこりと笑った。
「でも、いきなりたくさんのお水は、かえって身体によくないわ。こうして少しずつ、喉を湿らせてあげれば大丈夫ですよ」
マルヤーナに窘められるように言われて、ベルトルドとアルカネットは、気まずさMAXの顔で黙り込んだ。
大の男同士の恥ずかしいやり取りを遠巻きに見ていた一同は、軽蔑のこもった視線をここぞとばかりに注いだ。18歳女子の怪我人を前に、どんだけ恥ずかしい押し問答を繰り広げていたのかと。
片や副宰相、片や魔法部隊長官は、バツが悪そうにあらぬ方向へ視線を泳がせた。注意されたことが恥ずかしすぎて、身の置き所に困る。
気まずい空気がご機嫌でステップを踏む中、救いの神のようにシ・アティウスが病室に顔を出した。
「偉そうな声が聞こえたので来てみました。やはり、ベルトルド様でしたか」
「能面のような顔で慇懃無礼な奴だな。偉そうな、じゃなく偉いんだ、俺は」
憤然と肩を怒らせるベルトルドを無視して、シ・アティウスは無表情のままアルカネットに顔を向ける。
「我々はいつ行きますか?」
「リッキーさんが出発してからにします。この人だけだと正直不安ですが、せめて見送らせてください」
この人、と人差し指でベルトルドを示す。シ・アティウスは頷いた。
「判りました。――だいぶ具合が悪そうですね、エグザイル・システムに耐えられるでしょうか?」
「そのために俺が来たんだっ」
「ああ、そうでしたね」
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