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混迷の遺跡編
episode165
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尊大さが滲みでる大声が、ソレルの町内に轟渡った。しかしその程度で動じるソレル町民ではない。この数日、小さな病院を中心に起こるハプニングのせいで、すっかり慣れっこになっている。ソレルの町民たちは、新たな珍客の登場にも、もはや動じないでいた。
晴天麗しい真昼間、湿度も高く蒸し暑い中で、きっちりとした白い軍服に身を包み、マントを翻すそのさまは、誰が見ても「暑苦しい…」の一言に尽きた。オマケに白い手袋までして腕を組み、汗一つかかずに立っている。
まさかこの傲然と立つ男が、ハワドウレ皇国でも名の知れ渡る、泣く子も黙らせる副宰相閣下その人だとは、誰も思わないだろう。自国の宰相の名前すら知らない辺境の田舎町では、どんな地位や名誉を持つ人物も、尊敬の範疇外だった。
「尊大で傲岸不遜の我らが主が、到着なさったようです」
どこまでもにこやかにアルカネットが言うと、皆口元をひきつらせるだけだった。まともに頷けるわけがない。
カーティスは慌てて部屋を出て行って、苛立つオーラを全身から滲ませるベルトルドを迎えに出た。
「遅い!!」
一喝されて、カーティスは内心「うざっ」とか思ってしまう。
「申し訳ありませんベルトルド卿。ちょっと立て込んでいました」
「俺がくるといつも立て込んでいるな、お前は」
ムッといった表情で、ベルトルドはふんぞり返っていた。時々こうした子供じみた態度が見え隠れするので、カーティスは身内の金髪格闘バカを思い浮かべていた。よく似ている。
「こんなところで大声あげていてもご町内迷惑ですし、取り敢えず中へどうぞ」
手振りで玄関を示すと、
「ご町内迷惑とは心外な! この俺の姿を拝めただけでも、ありがたさに涙するがいい!」
「呆れて誰も見てませんよ…たぶん」
「ああ?」
「いえ、なんでも。さ、どうぞ」
「フンッ」
カーティスに案内されて病室に入ると、ベルトルドは沈痛な面持ちでキュッリッキの眠るベッドに歩み寄った。
「リッキー……」
首から下は包帯で巻かれ、見ているだけで痛々しい。白い面には僅かに赤みが差しているが、それは熱からくるものだと判るほど、苦しそうな息を吐いていた。
ベルトルドはベッドに腰を掛けると、手袋を外して、両手でキュッリッキの頬をそっと包み込んだ。
頬に感じる冷たさに、キュッリッキは薄らと目を開いた。
「…ベルトルドさん」
「可哀想に。よく頑張ったな」
苦しげに、だが顔をほころばせてキュッリッキは目を細めた。
ベルトルドは額に優しくキスをしたあと、顔を上げて後ろに控える医師を肩ごしに見る。
「薬は?」
「与えてあります。ですが体力の低下や怪我の状態から、なかなか…」
語尾が尻つぼみになりながら、恐縮と恐怖を貼り付けた顔でドグラスが答えた。
「回復魔法じゃ熱までは下げられんかったな」
舌打ちするベルトルドに、アルカネットが頷いた。
そんな都合のいいものがあれば、誰も苦労はしないのだ。
「お水…」
弱々しくキュッリッキが訴えると、アルカネットはサイドテーブルにある水差しからコップに水を注いだ。
晴天麗しい真昼間、湿度も高く蒸し暑い中で、きっちりとした白い軍服に身を包み、マントを翻すそのさまは、誰が見ても「暑苦しい…」の一言に尽きた。オマケに白い手袋までして腕を組み、汗一つかかずに立っている。
まさかこの傲然と立つ男が、ハワドウレ皇国でも名の知れ渡る、泣く子も黙らせる副宰相閣下その人だとは、誰も思わないだろう。自国の宰相の名前すら知らない辺境の田舎町では、どんな地位や名誉を持つ人物も、尊敬の範疇外だった。
「尊大で傲岸不遜の我らが主が、到着なさったようです」
どこまでもにこやかにアルカネットが言うと、皆口元をひきつらせるだけだった。まともに頷けるわけがない。
カーティスは慌てて部屋を出て行って、苛立つオーラを全身から滲ませるベルトルドを迎えに出た。
「遅い!!」
一喝されて、カーティスは内心「うざっ」とか思ってしまう。
「申し訳ありませんベルトルド卿。ちょっと立て込んでいました」
「俺がくるといつも立て込んでいるな、お前は」
ムッといった表情で、ベルトルドはふんぞり返っていた。時々こうした子供じみた態度が見え隠れするので、カーティスは身内の金髪格闘バカを思い浮かべていた。よく似ている。
「こんなところで大声あげていてもご町内迷惑ですし、取り敢えず中へどうぞ」
手振りで玄関を示すと、
「ご町内迷惑とは心外な! この俺の姿を拝めただけでも、ありがたさに涙するがいい!」
「呆れて誰も見てませんよ…たぶん」
「ああ?」
「いえ、なんでも。さ、どうぞ」
「フンッ」
カーティスに案内されて病室に入ると、ベルトルドは沈痛な面持ちでキュッリッキの眠るベッドに歩み寄った。
「リッキー……」
首から下は包帯で巻かれ、見ているだけで痛々しい。白い面には僅かに赤みが差しているが、それは熱からくるものだと判るほど、苦しそうな息を吐いていた。
ベルトルドはベッドに腰を掛けると、手袋を外して、両手でキュッリッキの頬をそっと包み込んだ。
頬に感じる冷たさに、キュッリッキは薄らと目を開いた。
「…ベルトルドさん」
「可哀想に。よく頑張ったな」
苦しげに、だが顔をほころばせてキュッリッキは目を細めた。
ベルトルドは額に優しくキスをしたあと、顔を上げて後ろに控える医師を肩ごしに見る。
「薬は?」
「与えてあります。ですが体力の低下や怪我の状態から、なかなか…」
語尾が尻つぼみになりながら、恐縮と恐怖を貼り付けた顔でドグラスが答えた。
「回復魔法じゃ熱までは下げられんかったな」
舌打ちするベルトルドに、アルカネットが頷いた。
そんな都合のいいものがあれば、誰も苦労はしないのだ。
「お水…」
弱々しくキュッリッキが訴えると、アルカネットはサイドテーブルにある水差しからコップに水を注いだ。
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