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混迷の遺跡編
episode164
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ああそういえば、といった無言のツッコミが、室内にモヤモヤと沸いた。
その沈黙を破るように、アルカネットがいきなり「ブフッ」と吹き出す。
「なんで、なんて聞いたら、あのかたひっくり返ってしまいますよ。意気揚々と軍艦飛ばして準備万端で来るのに」
肩を震わせ面白そうにアルカネットは笑った。その珍しすぎる笑いっぷりに、皆目を白黒とさせた。キュッリッキもビックリしたように、目をパチクリさせている。
ひとしきり笑ったあと、アルカネットは咳払いをして居住まいを正した。
「リッキーさんを安全にエグザイル・システムに通すため、ベルトルド様のサイ〈超能力〉が必要なのです」
「ふうん? サイ〈超能力〉ならルーさんも使えるよ?」
「そうですね。ルーファスも中々のレベルですが、今回ばかりはベルトルド様の桁違いの力が必要なのです」
「ほむ…」
ベルトルドのことをあまり知らないキュッリッキには、どのくらい桁違いなのか想像もつかない。
「リッキーさんの傷では、エグザイル・システムの転送に身体がついていけません。その為サイ〈超能力〉で作った防御を張らないと、飛ばすことが出来ないのです」
「ああ…、確かにオレじゃあ、不安がありまくるなあ…」
ルーファスは納得したように、カシカシと頭を掻いた。Sランクを持つが、得意不得意があり、ルーファスはキュッリッキに必要な力を使う自信がなかった。
エグザイル・システムは転送の際に、身体に負担がかかることは立証されている。かすり傷程度は問題なかったが、キュッリッキのような怪我人を転送させると、傷口が開いてしまうため、強引に通す場合はサイ〈超能力〉による防御が必要不可欠だった。
魔法で防御を張る実験も試されたが、飛ぶ瞬間解けてしまうらしく、サイ〈超能力〉なら問題ナシという実験結果も出ている。
キュッリッキは術後間もない状態なので、より細心の注意が必要だ。
「ヘンなおっさんですが、ああ見えて凄いんですよ」
当たり前のような口調でアルカネットが言うと、”ヘンなおっさん”には皆堪えきれず、盛大に吹き出してしまい、病室に暫し明るい笑い声が広がった。
ベルトルドの到着に合わせてすぐ移動できるように、皆帰還の準備に取り掛かったが、キュッリッキの容態が急変して大騒ぎになった。高熱を出して苦しみだしたのだ。
宿で待機していた医師たちも呼ばれたが、怪我による高熱らしいことが判り、それはそれで問題となった。
「いくら副宰相様がいらしても、この状態で動かすのは、身体への負担が大きすぎます」
ドグラスは神妙な顔で、額の汗を拭う。それに同意して、ヴィヒトリは腕を組んで唸った。
「せめて熱が下がるまでは、動かしたくないよね。ただ、この地の気候は怪我人には厳しい。湿度が高すぎて、体調を悪くするだけだしなあ…」
医師2人は頭を抱えてしまった。
気候のこともあるが、設備の整っているイララクスに連れて帰りたいのが、医師2人とアルカネットの本心だった。
「アルカネットさん…」
「大丈夫ですか、ここにいますよ」
ベッドの傍らに膝をつき、そっと頬を撫でてやる。
「帰りたいの…」
熱に浮かされて、キュッリッキは囁くように言った。その時。
「誰か出迎えはいないのか! 俺が来たぞ!!」
その沈黙を破るように、アルカネットがいきなり「ブフッ」と吹き出す。
「なんで、なんて聞いたら、あのかたひっくり返ってしまいますよ。意気揚々と軍艦飛ばして準備万端で来るのに」
肩を震わせ面白そうにアルカネットは笑った。その珍しすぎる笑いっぷりに、皆目を白黒とさせた。キュッリッキもビックリしたように、目をパチクリさせている。
ひとしきり笑ったあと、アルカネットは咳払いをして居住まいを正した。
「リッキーさんを安全にエグザイル・システムに通すため、ベルトルド様のサイ〈超能力〉が必要なのです」
「ふうん? サイ〈超能力〉ならルーさんも使えるよ?」
「そうですね。ルーファスも中々のレベルですが、今回ばかりはベルトルド様の桁違いの力が必要なのです」
「ほむ…」
ベルトルドのことをあまり知らないキュッリッキには、どのくらい桁違いなのか想像もつかない。
「リッキーさんの傷では、エグザイル・システムの転送に身体がついていけません。その為サイ〈超能力〉で作った防御を張らないと、飛ばすことが出来ないのです」
「ああ…、確かにオレじゃあ、不安がありまくるなあ…」
ルーファスは納得したように、カシカシと頭を掻いた。Sランクを持つが、得意不得意があり、ルーファスはキュッリッキに必要な力を使う自信がなかった。
エグザイル・システムは転送の際に、身体に負担がかかることは立証されている。かすり傷程度は問題なかったが、キュッリッキのような怪我人を転送させると、傷口が開いてしまうため、強引に通す場合はサイ〈超能力〉による防御が必要不可欠だった。
魔法で防御を張る実験も試されたが、飛ぶ瞬間解けてしまうらしく、サイ〈超能力〉なら問題ナシという実験結果も出ている。
キュッリッキは術後間もない状態なので、より細心の注意が必要だ。
「ヘンなおっさんですが、ああ見えて凄いんですよ」
当たり前のような口調でアルカネットが言うと、”ヘンなおっさん”には皆堪えきれず、盛大に吹き出してしまい、病室に暫し明るい笑い声が広がった。
ベルトルドの到着に合わせてすぐ移動できるように、皆帰還の準備に取り掛かったが、キュッリッキの容態が急変して大騒ぎになった。高熱を出して苦しみだしたのだ。
宿で待機していた医師たちも呼ばれたが、怪我による高熱らしいことが判り、それはそれで問題となった。
「いくら副宰相様がいらしても、この状態で動かすのは、身体への負担が大きすぎます」
ドグラスは神妙な顔で、額の汗を拭う。それに同意して、ヴィヒトリは腕を組んで唸った。
「せめて熱が下がるまでは、動かしたくないよね。ただ、この地の気候は怪我人には厳しい。湿度が高すぎて、体調を悪くするだけだしなあ…」
医師2人は頭を抱えてしまった。
気候のこともあるが、設備の整っているイララクスに連れて帰りたいのが、医師2人とアルカネットの本心だった。
「アルカネットさん…」
「大丈夫ですか、ここにいますよ」
ベッドの傍らに膝をつき、そっと頬を撫でてやる。
「帰りたいの…」
熱に浮かされて、キュッリッキは囁くように言った。その時。
「誰か出迎えはいないのか! 俺が来たぞ!!」
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