165 / 882
混迷の遺跡編
episode162
しおりを挟む
「ボクこんなに働いたの、初めてだよ…」
ランドンはトントンッと肩を叩きながら、首を左右に動かした。その度に関節がポキポキと鳴る。
窓からは明るい光が差し込み、今日もいい天気であることを告げていた。
「ちょーすまねえ…」
頭から足の先まで全身包帯でぐるぐる巻きにされたザカリーが、ベッドの中から心底申し訳なさそうに詫びた。目と口だけ包帯から逃れ、すっかりミイラ男状態だ。
ヴァルトにしょっ引かれてきたヴィヒトリは、長時間労働の直後に再び縫合を要求され、さすがに嫌そうな表情を露骨に出していたが、ギャリーとガエルのプレッシャーに脅される形で、渋々ザカリーの縫合をおこなってくれた。
「だあああ! 縫うところが多すぎるぞ! 長時間オペ完徹連日で、ボクはチョー疲れているんだ!」
あまりにも縫合箇所が多すぎてヴィヒトリは発狂し、結局夜中近くまでかかると、今度こそヴィヒトリはぶっ倒れて、宿に担ぎ込まれてしまった。
さすがの医療スキル〈才能〉のスペシャリストも、連続長時間労働はきつかったらしい。
ランドンは縫合中ずっと回復魔法をかけ続け、終わったあとも時折様子を見ながら魔法をかけていた。またもや徹夜で魔法を使い続ける羽目になったランドンは、やや面窶れしたようにも見えた。
助っ人に呼ばれたウリヤスは、縫合はあまり得意じゃないと逃げたが、それは単にヴィヒトリの邪魔をしたくなかったからである。技術に差がありすぎるため、ヴィヒトリのペースを乱さない為の配慮でもあった。
「ザカリー死ななくてよかったよ」
ベッドに乗っかっていたハーマンは、ザカリーの脇腹に小さな拳を軽く叩き込んだ。
「いでで……勘弁してくれ」
「イアサール・ブロンテなんて大技出してくるんだもん。さすがにアレはビックリしたさー」
「自分から貰いに行くとか、マゾイことをするもんだ…」
ランドンがため息混じりに言うと、ザカリーは苦笑した。
「なんかよ、罰を受けなきゃいけない気がして。キューリあんな大怪我しただろ、俺だけピンピンしてるのも気が引けるっつーか」
モゴモゴとザカリーが言い訳すると、ランドンとハーマンは大きく首を横に振った。
「はあ…。それで君が死んだら、キューリは今度は自分のせいだって、自己嫌悪でポックリ逝っちゃうかもしれないんだよ」
「……それは、困る」
「責任感じてるんだったら、あとでちゃんと謝って、キューリさんから罰もらえばいいんじゃない?」
「それがいいかもね」
ハーマンとランドンから提案されて、ザカリーは神妙に唸った。
「失礼しますよ」
マルヤーナが部屋に入ってきた。
「ランドンさん、ハーマンさん、すぐにキュッリッキさんの病室に来るようにと、アルカネットさんから言付かってきました。そしてザカリーさんは、おとなしく寝ているようにと」
3人は顔を見合わせる。
「ありがとうございます」
ハーマンはマルヤーナに礼を言うと、また後でねと言って、ベッドから飛び降りた。
「話が終わったら、また来るから。ちゃんと寝てるんだよ」
ランドンも立ち上がった。
病室を出ていくハーマンとランドンを見送って、ザカリーはゆっくりと目を閉じた。
ランドンはトントンッと肩を叩きながら、首を左右に動かした。その度に関節がポキポキと鳴る。
窓からは明るい光が差し込み、今日もいい天気であることを告げていた。
「ちょーすまねえ…」
頭から足の先まで全身包帯でぐるぐる巻きにされたザカリーが、ベッドの中から心底申し訳なさそうに詫びた。目と口だけ包帯から逃れ、すっかりミイラ男状態だ。
ヴァルトにしょっ引かれてきたヴィヒトリは、長時間労働の直後に再び縫合を要求され、さすがに嫌そうな表情を露骨に出していたが、ギャリーとガエルのプレッシャーに脅される形で、渋々ザカリーの縫合をおこなってくれた。
「だあああ! 縫うところが多すぎるぞ! 長時間オペ完徹連日で、ボクはチョー疲れているんだ!」
あまりにも縫合箇所が多すぎてヴィヒトリは発狂し、結局夜中近くまでかかると、今度こそヴィヒトリはぶっ倒れて、宿に担ぎ込まれてしまった。
さすがの医療スキル〈才能〉のスペシャリストも、連続長時間労働はきつかったらしい。
ランドンは縫合中ずっと回復魔法をかけ続け、終わったあとも時折様子を見ながら魔法をかけていた。またもや徹夜で魔法を使い続ける羽目になったランドンは、やや面窶れしたようにも見えた。
助っ人に呼ばれたウリヤスは、縫合はあまり得意じゃないと逃げたが、それは単にヴィヒトリの邪魔をしたくなかったからである。技術に差がありすぎるため、ヴィヒトリのペースを乱さない為の配慮でもあった。
「ザカリー死ななくてよかったよ」
ベッドに乗っかっていたハーマンは、ザカリーの脇腹に小さな拳を軽く叩き込んだ。
「いでで……勘弁してくれ」
「イアサール・ブロンテなんて大技出してくるんだもん。さすがにアレはビックリしたさー」
「自分から貰いに行くとか、マゾイことをするもんだ…」
ランドンがため息混じりに言うと、ザカリーは苦笑した。
「なんかよ、罰を受けなきゃいけない気がして。キューリあんな大怪我しただろ、俺だけピンピンしてるのも気が引けるっつーか」
モゴモゴとザカリーが言い訳すると、ランドンとハーマンは大きく首を横に振った。
「はあ…。それで君が死んだら、キューリは今度は自分のせいだって、自己嫌悪でポックリ逝っちゃうかもしれないんだよ」
「……それは、困る」
「責任感じてるんだったら、あとでちゃんと謝って、キューリさんから罰もらえばいいんじゃない?」
「それがいいかもね」
ハーマンとランドンから提案されて、ザカリーは神妙に唸った。
「失礼しますよ」
マルヤーナが部屋に入ってきた。
「ランドンさん、ハーマンさん、すぐにキュッリッキさんの病室に来るようにと、アルカネットさんから言付かってきました。そしてザカリーさんは、おとなしく寝ているようにと」
3人は顔を見合わせる。
「ありがとうございます」
ハーマンはマルヤーナに礼を言うと、また後でねと言って、ベッドから飛び降りた。
「話が終わったら、また来るから。ちゃんと寝てるんだよ」
ランドンも立ち上がった。
病室を出ていくハーマンとランドンを見送って、ザカリーはゆっくりと目を閉じた。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】
小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。
これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。
失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。
無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。
そんなある日のこと。
ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。
『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。
そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる