162 / 882
混迷の遺跡編
episode159
しおりを挟む
カーティスとシビルは同時に防御魔法の呪文を低く唱える。ザカリーの周りに巡らせるためだ。
「逃げろザカリー!!」
「イアサール・ブロンテ」
ギャリーの叫びをかき消すように、その場に突風のようなものが吹き込み、風は急速に旋回し出すと、渦を作り出しザカリーに襲いかかった。
「発動が早すぎるっ」
「こちらの詠唱が…」
極小の竜巻だった。
しかしザカリーはその場を動かず、襲い来る竜巻に自ら飲み込まれた。
「あのバカなんで逃げねえんだ!」
ギャリーは舌打ちすると、吹き荒れる風の中をもがいて、アルカネットに掴みかかろうとした。だが風に身体が巻き上げられ、ギャリーはその場から数メートルも吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられた。
アルカネットの身体の周りには風の結界が張られているようで、触れようとするものは吹き飛ばすか切裂くようである。
「イアサール・ブロンテはマズイよカーティス!」
ハーマンが悲鳴のような声をあげる。
風属性と雷属性を合わせた攻撃魔法の一つ。
単一属性の攻撃魔法は誰でも扱えるが、複数の属性を掛け合わせる魔法はコントロールが難しく、扱えるものはごく一部しかいない。更にイアサール・ブロンテはその中でも最高位攻撃魔法の一つだ。
病院前を中心に、町中に強風が吹き荒れた。おもてに出ていた町民は驚いて家屋に避難した。その家屋は風に叩かれ軋んで揺れる。唯一病院だけはそよ風すら当たらない状態だった。アルカネットの微細なコントロールの賜物である。
竜巻は次第に威力を強めていき、やがて渦の表面に稲妻が発生し始めた。風の壁で中の様子は見えない。
「アルカネットさん! 何もここまでする必要はないでしょう、ザカリーは我々の仲間です!!」
「私の知ったことではありませんよ」
「キューリさんがこれを知ったら悲しみます! 彼女はザカリーを許すように、あなたに願ったじゃないですか」
「彼女は術後で、気が動転していただけです」
取り付く島もない。
「ちょっと待ってもらえませんか!」
ふいに割り込んだ叫び声に、アルカネットとカーティスが同時に顔を向ける。
「オレ、リッキーの友達です。あいつ今までどこ行っても馴染めず苦しんでました。でもライオン傭兵団に入って、新しく出来た仲間を喜んでた」
ハドリーは拳を握り締める。ザカリーという男のためではない。今も怪我で苦しむキュッリッキのためだ。
「今回のことで仲間が粛清されたなんて知ったら、あいつ立ち直れなくなっちまう。また居場所を失うことになる!」
「あたしからもお願いします! リッキーを悲しませないで下さい!」
ファニーはハドリーにすがって、アルカネットに頭を下げた。
轟轟と唸る風の中、息を呑むようにしてライオン傭兵団のメンバーたちがその様子を見守った。
アルカネットは2人を見て、すっと目を細める。暫しなにか深沈するように俯くと、肩で息をつき、やがて手をおろした。
激しい風がぴたりと止み、竜巻も消え失せてザカリーを解放した。
すぐさまギャリーとランドンが駆け寄り、ぐったりと倒れるザカリーを助け起こす。
全身激しい大小の裂傷で血みどろのズタボロになっていた。だが息はあり、雷の攻撃は喰らわず間に合ったようだ。
ザカリーたちの姿を冷ややかに見やって、アルカネットは軽く頭を振る。
「三文芝居で気が殺がれました」
アルカネットはそう言いおくと踵を返し、ゆっくりと病院の中に消えていった。
「逃げろザカリー!!」
「イアサール・ブロンテ」
ギャリーの叫びをかき消すように、その場に突風のようなものが吹き込み、風は急速に旋回し出すと、渦を作り出しザカリーに襲いかかった。
「発動が早すぎるっ」
「こちらの詠唱が…」
極小の竜巻だった。
しかしザカリーはその場を動かず、襲い来る竜巻に自ら飲み込まれた。
「あのバカなんで逃げねえんだ!」
ギャリーは舌打ちすると、吹き荒れる風の中をもがいて、アルカネットに掴みかかろうとした。だが風に身体が巻き上げられ、ギャリーはその場から数メートルも吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられた。
アルカネットの身体の周りには風の結界が張られているようで、触れようとするものは吹き飛ばすか切裂くようである。
「イアサール・ブロンテはマズイよカーティス!」
ハーマンが悲鳴のような声をあげる。
風属性と雷属性を合わせた攻撃魔法の一つ。
単一属性の攻撃魔法は誰でも扱えるが、複数の属性を掛け合わせる魔法はコントロールが難しく、扱えるものはごく一部しかいない。更にイアサール・ブロンテはその中でも最高位攻撃魔法の一つだ。
病院前を中心に、町中に強風が吹き荒れた。おもてに出ていた町民は驚いて家屋に避難した。その家屋は風に叩かれ軋んで揺れる。唯一病院だけはそよ風すら当たらない状態だった。アルカネットの微細なコントロールの賜物である。
竜巻は次第に威力を強めていき、やがて渦の表面に稲妻が発生し始めた。風の壁で中の様子は見えない。
「アルカネットさん! 何もここまでする必要はないでしょう、ザカリーは我々の仲間です!!」
「私の知ったことではありませんよ」
「キューリさんがこれを知ったら悲しみます! 彼女はザカリーを許すように、あなたに願ったじゃないですか」
「彼女は術後で、気が動転していただけです」
取り付く島もない。
「ちょっと待ってもらえませんか!」
ふいに割り込んだ叫び声に、アルカネットとカーティスが同時に顔を向ける。
「オレ、リッキーの友達です。あいつ今までどこ行っても馴染めず苦しんでました。でもライオン傭兵団に入って、新しく出来た仲間を喜んでた」
ハドリーは拳を握り締める。ザカリーという男のためではない。今も怪我で苦しむキュッリッキのためだ。
「今回のことで仲間が粛清されたなんて知ったら、あいつ立ち直れなくなっちまう。また居場所を失うことになる!」
「あたしからもお願いします! リッキーを悲しませないで下さい!」
ファニーはハドリーにすがって、アルカネットに頭を下げた。
轟轟と唸る風の中、息を呑むようにしてライオン傭兵団のメンバーたちがその様子を見守った。
アルカネットは2人を見て、すっと目を細める。暫しなにか深沈するように俯くと、肩で息をつき、やがて手をおろした。
激しい風がぴたりと止み、竜巻も消え失せてザカリーを解放した。
すぐさまギャリーとランドンが駆け寄り、ぐったりと倒れるザカリーを助け起こす。
全身激しい大小の裂傷で血みどろのズタボロになっていた。だが息はあり、雷の攻撃は喰らわず間に合ったようだ。
ザカリーたちの姿を冷ややかに見やって、アルカネットは軽く頭を振る。
「三文芝居で気が殺がれました」
アルカネットはそう言いおくと踵を返し、ゆっくりと病院の中に消えていった。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


貧乏秀才令嬢がヤサグレ天才少年と、世界の理を揺るがします。
凜
恋愛
貧乏貴族のダリアは、国一番の魔法学校の副首席。首席になりたいのに、その壁はとんでもなくぶあつく…。
ある日謎多き少年シアンと出会い、彼が首席とわかるやいなや強烈な興味を持ち粘着するようになった。
クセの多い登場人物が織りなす、身分、才能、美醜が絡み、陰謀渦巻く魔法学校でのスクールストーリー。
ヒロインは始まる前に退場していました
サクラ
ファンタジー
とある乙女ゲームの世界で目覚めたのは、原作を知らない一人の少女
産まれた時点で本来あるべき道筋を外れてしまっていた彼女は、知らない世界でどう生き抜くのか。
母の愛情、突然の別れ、事故からの死亡扱いで目覚めた場所はゴミ捨て場
捨てる神あれば拾う神あり?
人の温かさに触れて成長する少女に再び訪れる試練。
そして、本来のヒロインが現れない世界ではどんな未来が訪れるのか。
主人公が7歳になる頃までは平和、ホノボノが続きます。
ダークファンタジーになる予定でしたが、主人公ヴィオの天真爛漫キャラに ダーク要素は少なめとなっております。
同作品を『小説を読もう』『カクヨム』でも配信中。カクヨム先行となっております
追いつくまで しばらくの間 0時、12時の一日2話更新としております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる