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混迷の遺跡編
episode157
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アルカネットは片手でキュッリッキの頭部をそっと抱え込み、もう片方の手で頭を撫でてやる。
「怖い…助けて…」
泣きじゃくるキュッリッキを優しくなだめながら、アルカネットは頭をそっと撫でて落ち着かせようとした。術後に泣いては身体に障るため、泣き止ませようと必死だった。
キュッリッキの悲鳴を聞いたウリヤスは、小さな器を持って急いで駆けつけた。
「これをお嬢さんに、飲ませてあげてください。精神安定剤です」
「すみません」
アルカネットは器を受け取ると、キュッリッキの口元へあてがったが、気持ちを混乱させているキュッリッキは、器に気づいていなかった。
すると、アルカネットは器の中身を自らの口の中に含ませ、キュッリッキの顎に手をあて口移しで薬を飲ませた。
傍らで見ていたカーティスとメルヴィンは、「うそっ」という表情(かお)をしたが、この状態では仕方がない気もしたので黙っていた。
薬を飲み干したことを確認して唇を離すと、涙目できょとんとするキュッリッキに、アルカネットは優しく微笑んだ。
一気に泣き止んだキュッリッキは、暫く無言でアルカネットを見ていた。そしてようやく今の状態がはっきりしてきたのか、みるみるうちに顔が真っ赤に染まっていく。耳まで真っ赤にして硬直したキュッリッキを見て、カーティスとメルヴィン、そしてウリヤスは「可哀想に…」と内心で同情した。あれでは薬を飲ませた意味がなく、むしろ薬なんかいらないほどだ。
キュッリッキの頭の中は、怖かった遺跡での記憶が一瞬で吹き飛んで、アルカネットに口移しされたことが、ぐるぐると旋回している。
(舌まで入ってきた…舌まで…今のってもしかしなくっても初めての――)
枕元に座っていたフェンリルが、同情するように小さく鳴いた。
(アタシのファーストちゅーは、アルカネットさんっ!?!)
魂が抜けたように、すっかりショートしてしまったキュッリッキに笑いかけながら椅子に座りなおすと、アルカネットは肩ごしにカーティスとメルヴィンに顔を向けた。
キュッリッキに見せていた優しい表情はなりを潜め、紫の瞳には静かな殺意がこもっている。
「今回の件の原因は、ザカリーでしたね?」
穏やかな声ではあったが、明らかに怒りをはらんだ響きを含んでいた。
アルカネットがこのように露骨に怒りをあらわすことは珍しく、メルヴィンは生唾を飲み込み、カーティスは渋面を作った。
(このままでは、間違いなくザカリーは私刑される…)
なんとか命乞いをと忙しく思案を巡らせていると、アルカネットが立ち上がった。しかし、
「ザカリーは悪くない!」
アルカネットのマントを掴み、キュッリッキが身体を起こそうとしていた。
「アタシが自分で招いたことなの。誰も悪くないの、信じてアルカネットさん!」
左半身だけでなんとか起き上がろうとして失敗し、ベッドからずり落ちそうになったところを、アルカネットが慌てて抱きとめる。
「動いては駄目ですリッキーさん! 傷口が開いてしまう」
「お願い、ザカリーになにもしないで! お願い、お願い…」
怪我の痛みを堪え、声を振り絞るようにしてキュッリッキは必死に嘆願した。アルカネットの怒気はキュッリッキも気づいている。
「誰も悪くないの、アタシが悪いの。ごめんなさい、だから…」
「判りました、判りましたから。さあ休んで下さい。絶対安静にしていなくてはいけないのですよ」
言い募るキュッリッキを寝かせ直し、シーツをかけなおしてやる。
「お願い、誰も…」
「判りました。もう泣かないでください。さあ、安心して眠って」
どこまでも穏やかに優しく言うアルカネットの背を見つめ、カーティスは本気でまずい展開だと焦っていた。
アルカネットの殺意は本物だからだ。
「怖い…助けて…」
泣きじゃくるキュッリッキを優しくなだめながら、アルカネットは頭をそっと撫でて落ち着かせようとした。術後に泣いては身体に障るため、泣き止ませようと必死だった。
キュッリッキの悲鳴を聞いたウリヤスは、小さな器を持って急いで駆けつけた。
「これをお嬢さんに、飲ませてあげてください。精神安定剤です」
「すみません」
アルカネットは器を受け取ると、キュッリッキの口元へあてがったが、気持ちを混乱させているキュッリッキは、器に気づいていなかった。
すると、アルカネットは器の中身を自らの口の中に含ませ、キュッリッキの顎に手をあて口移しで薬を飲ませた。
傍らで見ていたカーティスとメルヴィンは、「うそっ」という表情(かお)をしたが、この状態では仕方がない気もしたので黙っていた。
薬を飲み干したことを確認して唇を離すと、涙目できょとんとするキュッリッキに、アルカネットは優しく微笑んだ。
一気に泣き止んだキュッリッキは、暫く無言でアルカネットを見ていた。そしてようやく今の状態がはっきりしてきたのか、みるみるうちに顔が真っ赤に染まっていく。耳まで真っ赤にして硬直したキュッリッキを見て、カーティスとメルヴィン、そしてウリヤスは「可哀想に…」と内心で同情した。あれでは薬を飲ませた意味がなく、むしろ薬なんかいらないほどだ。
キュッリッキの頭の中は、怖かった遺跡での記憶が一瞬で吹き飛んで、アルカネットに口移しされたことが、ぐるぐると旋回している。
(舌まで入ってきた…舌まで…今のってもしかしなくっても初めての――)
枕元に座っていたフェンリルが、同情するように小さく鳴いた。
(アタシのファーストちゅーは、アルカネットさんっ!?!)
魂が抜けたように、すっかりショートしてしまったキュッリッキに笑いかけながら椅子に座りなおすと、アルカネットは肩ごしにカーティスとメルヴィンに顔を向けた。
キュッリッキに見せていた優しい表情はなりを潜め、紫の瞳には静かな殺意がこもっている。
「今回の件の原因は、ザカリーでしたね?」
穏やかな声ではあったが、明らかに怒りをはらんだ響きを含んでいた。
アルカネットがこのように露骨に怒りをあらわすことは珍しく、メルヴィンは生唾を飲み込み、カーティスは渋面を作った。
(このままでは、間違いなくザカリーは私刑される…)
なんとか命乞いをと忙しく思案を巡らせていると、アルカネットが立ち上がった。しかし、
「ザカリーは悪くない!」
アルカネットのマントを掴み、キュッリッキが身体を起こそうとしていた。
「アタシが自分で招いたことなの。誰も悪くないの、信じてアルカネットさん!」
左半身だけでなんとか起き上がろうとして失敗し、ベッドからずり落ちそうになったところを、アルカネットが慌てて抱きとめる。
「動いては駄目ですリッキーさん! 傷口が開いてしまう」
「お願い、ザカリーになにもしないで! お願い、お願い…」
怪我の痛みを堪え、声を振り絞るようにしてキュッリッキは必死に嘆願した。アルカネットの怒気はキュッリッキも気づいている。
「誰も悪くないの、アタシが悪いの。ごめんなさい、だから…」
「判りました、判りましたから。さあ休んで下さい。絶対安静にしていなくてはいけないのですよ」
言い募るキュッリッキを寝かせ直し、シーツをかけなおしてやる。
「お願い、誰も…」
「判りました。もう泣かないでください。さあ、安心して眠って」
どこまでも穏やかに優しく言うアルカネットの背を見つめ、カーティスは本気でまずい展開だと焦っていた。
アルカネットの殺意は本物だからだ。
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