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混迷の遺跡編
episode154
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フェンリルの目線を辿り、そこにライオン傭兵団の姿を確認すると、あの町がイソラだということが判り、アルカネットは小さく頷いた。
「迷わず着けて良かった」
あそこにキュッリッキがいる。今頃助けを待っているのだと思うと、急いでいきたいところだったが、巨大な狼の姿を見つけて寄り道をした。この世界でこんな巨大な狼など、キュッリッキが相棒だと呼ぶフェンリルしか思いつかないからだ。
傍らの巨大なフェンリルに顔を向けると、微かに首をかしげる。
「フェンリルですね。このような場所で何故大きくなっているかは判りませんが、こんな姿では町に入れませんよ。これからリッキーさんのところへ参りますから、仔犬の姿になってくださいませんか?」
フェンリルはちらりとアルカネットを見る。そして唸るように喉を鳴らしたあと、銀色の光に包まれ、徐々に縮小して仔犬の姿になった。
アルカネットは小さな仔犬姿になったフェンリルのそばに降り立ち、そっと抱き上げる。フェンリルはおとなしくアルカネットの腕に抱かれた。
フェンリルの足元で待機していたヴィヒトリと、また意識を手放しそうなドグラスを連れて、再びアルカネットは宙を飛んだ。
――巨大狼をてなずけるとか、あのひとスゲー!
一部始終を見ていた一同は、驚きながらも妙に感服してしまった。しかしこちらに飛んでくるアルカネットに気づき、皆背筋を伸ばして一列に並ぶ。
ライオン傭兵団の列の前に舞い降りると、遠巻きにライオン傭兵団と自分を見つめる町民を一顧だにせず、アルカネットは彼らに柔和な顔を向けた。
「リッキーさんはどこですか? お医者様を連れてきました。案内しなさい」
「は、はいっ」
アルカネットの背後にヴィヒトリを見つけ、カーティスは僅かに目を見張る。それに対し、ヴィヒトリはニッコリと笑った。
「こちらです」
カーティスが先頭に立ち、院内へ入っていく。その後に、アルカネットと医師2人が続いた。
案内される間、アルカネットは一言も発せず、医師を従えて歩いた。表情は穏やかで威圧する雰囲気もなにもなかったが、黙っていること、それだけで十分威圧的なのだ。無言の圧力を背中越しに受けながら、カーティスは心の中で大量の汗を流し続けた。
処置室に入ると、ひとり黙々と魔法をかけ続けるランドンに、アルカネットは労いの言葉をかけた。
「ご苦労様でしたランドン。あとは私が引き継ぎます。ゆっくり休みなさい」
「アルカネットさん…」
目の下に隈を浮かべたランドンは、振り向いて小さく頷いた。
長時間かざしていた手を引っ込めると、ふらつきながらベッドの傍らを離れた。その身体をカーティスが抱き止め支える。
アルカネットは抱いていたフェンリルを、キュッリッキの枕元に放してやった。
フェンリルは小さく悲しげに鳴くと、意識を失っているキュッリッキの頬に、何度も何度も顔を擦り付けた。
「迷わず着けて良かった」
あそこにキュッリッキがいる。今頃助けを待っているのだと思うと、急いでいきたいところだったが、巨大な狼の姿を見つけて寄り道をした。この世界でこんな巨大な狼など、キュッリッキが相棒だと呼ぶフェンリルしか思いつかないからだ。
傍らの巨大なフェンリルに顔を向けると、微かに首をかしげる。
「フェンリルですね。このような場所で何故大きくなっているかは判りませんが、こんな姿では町に入れませんよ。これからリッキーさんのところへ参りますから、仔犬の姿になってくださいませんか?」
フェンリルはちらりとアルカネットを見る。そして唸るように喉を鳴らしたあと、銀色の光に包まれ、徐々に縮小して仔犬の姿になった。
アルカネットは小さな仔犬姿になったフェンリルのそばに降り立ち、そっと抱き上げる。フェンリルはおとなしくアルカネットの腕に抱かれた。
フェンリルの足元で待機していたヴィヒトリと、また意識を手放しそうなドグラスを連れて、再びアルカネットは宙を飛んだ。
――巨大狼をてなずけるとか、あのひとスゲー!
一部始終を見ていた一同は、驚きながらも妙に感服してしまった。しかしこちらに飛んでくるアルカネットに気づき、皆背筋を伸ばして一列に並ぶ。
ライオン傭兵団の列の前に舞い降りると、遠巻きにライオン傭兵団と自分を見つめる町民を一顧だにせず、アルカネットは彼らに柔和な顔を向けた。
「リッキーさんはどこですか? お医者様を連れてきました。案内しなさい」
「は、はいっ」
アルカネットの背後にヴィヒトリを見つけ、カーティスは僅かに目を見張る。それに対し、ヴィヒトリはニッコリと笑った。
「こちらです」
カーティスが先頭に立ち、院内へ入っていく。その後に、アルカネットと医師2人が続いた。
案内される間、アルカネットは一言も発せず、医師を従えて歩いた。表情は穏やかで威圧する雰囲気もなにもなかったが、黙っていること、それだけで十分威圧的なのだ。無言の圧力を背中越しに受けながら、カーティスは心の中で大量の汗を流し続けた。
処置室に入ると、ひとり黙々と魔法をかけ続けるランドンに、アルカネットは労いの言葉をかけた。
「ご苦労様でしたランドン。あとは私が引き継ぎます。ゆっくり休みなさい」
「アルカネットさん…」
目の下に隈を浮かべたランドンは、振り向いて小さく頷いた。
長時間かざしていた手を引っ込めると、ふらつきながらベッドの傍らを離れた。その身体をカーティスが抱き止め支える。
アルカネットは抱いていたフェンリルを、キュッリッキの枕元に放してやった。
フェンリルは小さく悲しげに鳴くと、意識を失っているキュッリッキの頬に、何度も何度も顔を擦り付けた。
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