片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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混迷の遺跡編

episode152

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 ヴィヒトリはチラリと隣のドグラスを見る。日焼けした褐色の肌が、色落ちしたように明らかに蒼白になっていた。弱者に対しては尊大だが、強者に対しては卑屈になる。そんなドグラスだが、さすがに不慣れな戦場の空気は、精神的に厳しそうだ。

(大事なオペが控えてるんだから、しっかりしてよね…)

 胸中でひっそりとため息をつく。性格に難有りだが、外科医としての腕は確かだ。

 アルカネットが助けようとしているあの少女は、彼にとってもベルトルドにとっても、よほど大切なのだろう。普段の温厚な雰囲気が鳴りを潜めるほど、必死になっている。だからどんな状況に置かれようと、ヴィヒトリとドグラスの身は、アルカネットが絶対に守る。その点は安心して良かった。

 エグザイル・システムの建物の外には、やはりソレル王国兵が詰めていた。

「面倒な方々ですね。こちらは一刻を争う事態だというのに」

 イラッと露骨に滲ませた声で吐き捨てる。

「帰りのこともありますし、エグザイル・システムのある場所で魔法は使いたくありませんでしたが…もう使っていますけど、少し足止めをしておきましょうね」

 セルフツッコミしつつ、アルカネットはにっこりと微笑み、両手を広げて一言呟いた。

「イラアルータ・トニトルス」

 まだ早朝の静かなアルイールの街中に、突如空から無数の雷の柱が降り落ち、凄まじい轟音が街を包み込んだ。落雷の影響で、いたるところで爆発や火事が起こり、街は一気に騒然となる。

 アルカネットたちに銃口を向けていた兵士たちも騒然となり、指揮官が悲鳴にも似た声を荒らげて、何やら指示を飛ばしていた。

「……」

 ヴィヒトリはあんぐりと口を開けて絶句し、ドグラスは白目をむいて気絶してしまった。

「私にとって、こんな街など関係ないのですよ」

 絶対敵に回してはいけない男だと、そうヴィヒトリは自らに言い聞かせていた。

「さあ、行きますよ」

 何事もなかったかのように、アルカネットは優しい笑みを浮かべた。



 アルカネットがソレル王国で、ちょっとした騒ぎを起こしていた頃、ベルトルドの命によって参集された第二正規部隊、ダエヴァ第二部隊、魔法部隊の一部の軍人たちが、クーシネン街に集結していた。

 皇都イララクスのエグザイル・システムがある街だ。

 現在ベルトルドの命で、エグザイル・システムは急遽軍が徴集しており、一般人の渡航は禁止されていた。それを知らずに飛んできてしまった一般人は、速やかに建物の外に退去された。

 やがて、建物の前に綺麗に並ぶ軍人たちの前に、ブルーベル将軍が現れた。

「総帥閣下の命により、一時的にダエヴァと魔法部隊の皆さんは、ワシの指揮に入ってもらいます。魔法部隊の皆さんは、第二正規部隊に入ってください。アークラ大将が直接指示を出してくれます。ダエヴァの皆さんは、直接ラーシュ=オロフ長官の指示に従っていただきます」

 列の先頭に並んで立つアークラ大将とラーシュ=オロフ長官が、敬礼で応じた。

「今回の我らの任務は、ソレル王国首都アルイールの制圧です。王宮、行政施設、司法、軍施設を抑え、抵抗してくるであろうソレル王国兵を相手にします。ですが、くれぐれも、一般民に危害を加えてはいけません。婦女暴行、窃盗などもキツく禁じます。もしそれらが行われていたら、その場で処刑です。抵抗してくる一般民にも危害を加えないように。応対については、アークラ大将とラーシュ=オロフ長官に仰いでください」

 皆一斉に敬礼で応じる。それを見て、ブルーベル将軍は頷いた。

「まず、ダエヴァ第二部隊のサイ《超能力》使いの皆さんが、最初にエグザイル・システムであちらに飛びます。恐らく武装した兵士たちが待ち構えていることでしょう。飛んだ瞬間狙われるかもしれませんので、防御を張って飛んでください。安全を確保したら、順次乗り込みますよ」

 まさか、アルカネットが暴れた後とは知らないブルーベル将軍たちは、入念に準備をしてソレル王国へと向かった。
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