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混迷の遺跡編
episode150
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長いオペが終わり、肩をコキコキ鳴らしながら、ヴィヒトリはオペ室を出た。
「ぬっ」
出たところで、軍服に身を包んだ男に、物凄い形相で睨まれドン引きする。
「お久しぶりですね、ヴィヒトリ先生」
「あ、アルカネットさん、か…」
ビックリした~~っ、とは胸中で叫ぶ。温厚な表情をするアルカネットしか知らないので、こんな威圧的な見ただけでチビりそうな顔をしているから、アルカネットだと気づくのに若干時間がかかった。
ヴィヒトリは血まみれの手袋を脱ぎ、専用のゴミ箱に捨て、手術着を脱ぎ始めた。
「軍に復帰されたんですね~、今日はどうしたんですか? 副宰相閣下の体調が悪いんです?」
「あの方は、相変わらずピンピンしてますよ。今日は別件できました」
「ほむ?」
手術着全てを脱ぎ捨てると、ヴィヒトリは黒縁のメガネをかけ直した。
「あなたが手術を終えるのを待っていました。今すぐ私と一緒に、ソレル王国へ行ってもらいます」
「へ?」
「これを見て下さい」
アルカネットは魔法を使い、ベルトルドから見せられた、キュッリッキの惨憺たる姿の記憶をヴィヒトリに伝える。
「う…、生きて、いるんですかこれ…」
「もちろんですよ。死なせないために、あなたを迎えに来たのですから」
極力感情を抑えるような声で、アルカネットは絞り出すように言った。
「この女の子は、一体誰なんです?」
「最近ライオン傭兵団に入った、キュッリッキと言います。仕事先での事故で、こんな大怪我を負ってしまったのです」
「キュッリッキ…」
ヴィヒトリは少し首をかしげ、ああ、と呟いた。何かを知っているようだったが、それ以上のリアクションはなかった。
「もうひとり、ドグラスという外科医も同行させます」
それには目を丸くする。
「よくドグラス先生を捕まえましたねえ。時間外勤務が大嫌いな人なのに」
「ベルトルド様の命令ですから、嫌とは言わせませんよ」
「なるほど。それじゃあ、あのタヌキ逆らえなかったでしょうね」
あはは~っと呑気に笑い声を上げるヴィヒトリだったが、アルカネットの顔があまりにも涼しいので、すぐに笑いを引っ込める。
「向かってもらう場所は、小さな診療所のようなので、ここにある設備は期待できないでしょう。あまり悠長にしている時間もありません。準備をすぐに済ませなさい、急いで向かいますよ」
「判りました」
ヴィヒトリは自分の診察室に向かって駆けていった。その姿を見送りながら、アルカネットは小さく呟く。
「あともう少しの辛抱ですよ、リッキーさん」
手術道具や薬品などを揃えて外来ロビーに来ると、涼しい顔のアルカネットと、緊張で塗り固まった中年の男――ドグラスが待っていた。
「お、お待たせしました」
ヴィヒトリが引き気味に言うと、アルカネットは組んでいた腕を解いた。
「お2人とも、荷物はしっかり持っていてください。時短のために宙を飛んでいきます。エグザイル・システムまで行きましょうか」
アルカネットがスッと右腕を上げると、ヴィヒトリとドグラスの身体がふわりと浮いた。2人は荷物をしっかりと抱きしめる。
「行きます」
一言そう呟くと、アルカネットの身体も浮き上がり、3人は病院からサッと出ると、宙に舞い上がっていった。
「ぬっ」
出たところで、軍服に身を包んだ男に、物凄い形相で睨まれドン引きする。
「お久しぶりですね、ヴィヒトリ先生」
「あ、アルカネットさん、か…」
ビックリした~~っ、とは胸中で叫ぶ。温厚な表情をするアルカネットしか知らないので、こんな威圧的な見ただけでチビりそうな顔をしているから、アルカネットだと気づくのに若干時間がかかった。
ヴィヒトリは血まみれの手袋を脱ぎ、専用のゴミ箱に捨て、手術着を脱ぎ始めた。
「軍に復帰されたんですね~、今日はどうしたんですか? 副宰相閣下の体調が悪いんです?」
「あの方は、相変わらずピンピンしてますよ。今日は別件できました」
「ほむ?」
手術着全てを脱ぎ捨てると、ヴィヒトリは黒縁のメガネをかけ直した。
「あなたが手術を終えるのを待っていました。今すぐ私と一緒に、ソレル王国へ行ってもらいます」
「へ?」
「これを見て下さい」
アルカネットは魔法を使い、ベルトルドから見せられた、キュッリッキの惨憺たる姿の記憶をヴィヒトリに伝える。
「う…、生きて、いるんですかこれ…」
「もちろんですよ。死なせないために、あなたを迎えに来たのですから」
極力感情を抑えるような声で、アルカネットは絞り出すように言った。
「この女の子は、一体誰なんです?」
「最近ライオン傭兵団に入った、キュッリッキと言います。仕事先での事故で、こんな大怪我を負ってしまったのです」
「キュッリッキ…」
ヴィヒトリは少し首をかしげ、ああ、と呟いた。何かを知っているようだったが、それ以上のリアクションはなかった。
「もうひとり、ドグラスという外科医も同行させます」
それには目を丸くする。
「よくドグラス先生を捕まえましたねえ。時間外勤務が大嫌いな人なのに」
「ベルトルド様の命令ですから、嫌とは言わせませんよ」
「なるほど。それじゃあ、あのタヌキ逆らえなかったでしょうね」
あはは~っと呑気に笑い声を上げるヴィヒトリだったが、アルカネットの顔があまりにも涼しいので、すぐに笑いを引っ込める。
「向かってもらう場所は、小さな診療所のようなので、ここにある設備は期待できないでしょう。あまり悠長にしている時間もありません。準備をすぐに済ませなさい、急いで向かいますよ」
「判りました」
ヴィヒトリは自分の診察室に向かって駆けていった。その姿を見送りながら、アルカネットは小さく呟く。
「あともう少しの辛抱ですよ、リッキーさん」
手術道具や薬品などを揃えて外来ロビーに来ると、涼しい顔のアルカネットと、緊張で塗り固まった中年の男――ドグラスが待っていた。
「お、お待たせしました」
ヴィヒトリが引き気味に言うと、アルカネットは組んでいた腕を解いた。
「お2人とも、荷物はしっかり持っていてください。時短のために宙を飛んでいきます。エグザイル・システムまで行きましょうか」
アルカネットがスッと右腕を上げると、ヴィヒトリとドグラスの身体がふわりと浮いた。2人は荷物をしっかりと抱きしめる。
「行きます」
一言そう呟くと、アルカネットの身体も浮き上がり、3人は病院からサッと出ると、宙に舞い上がっていった。
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