片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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混迷の遺跡編

episode142

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「さてマリオン、よろしくお願いしますよ…」

 簾のように垂れ下がる前髪の奥の顔が、露骨に嫌そうに歪む。ただでさえキュッリッキの状態が油断を許さないというこの状況に加え、このことをベルトルドに報告せねばならないことが、カーティスの心を更に重苦しくしていた。

「うぃー…」

 報告しないわけにはいかない。それが判っているだけに、中継するマリオンもゲンナリと肩を落とした。

 やがて、ベルトルドの声が2人の頭内に鳴り響く。

(やっと連絡を寄越したか)

(……遅くなって申し訳ありません)

 念話でのやり取りとはいえ、カーティスはついその場で土下座したくなるほど恐縮した。猛烈にイライラしていることが、露骨に伝わってくる。

(寝ずにおとなしく待ってやっていたんだ、詳しく説明しろ)

(はい…)

 カーティスは大きなため息をつく。その横でマリオンも疲れたように顔を弛緩させていた。

 灯りを見失わない程度に皆から距離をおいて、後ろからついて歩く。ルーファスの歩調に皆合わせているので、多少ゆっくりだった。

 報告も兼ねてこれまでの経緯を判る範囲で丁寧に説明すると、ベルトルドは絶句したように黙り込んだ。

 頭の中に残るキュッリッキの悲惨な状態を、映像として伝えたからだ。

(風前の灯状態なんです。一刻も早く医者に見せないと)

(……アルカネットと医者を、すぐに向かわせる)

 ようやく絞り出すように言って、ベルトルドは再度町の名前を確認した。

(イソラという町です)

(判った。すぐに向かわせるが、それでも時間がかかる。何としてでも命を繋げ。俺もすぐに飛んでいきたいが、雑用が何件か残っていて、すぐには動けないのでな)

(全力を尽くします)

(頼んだぞ)

 報告が済んで、カーティスは肩で息をついた。

 もっと何か嫌味を言われるかと思っていたが、キュッリッキの様子に嫌味も吹き飛んだらしい。

「あのおっさんが、随分と慌ててたねえ~」

 2人の念話を中継していたマリオンにも、会話の内容は聴こえていた。いつもなら、小言、嫌味、説教の三拍子は当たり前なのだが、さすがにその気は失せてしまっていたようだ。

「歩く傲岸不遜が絶句するなんて初めてですよ。顔が見られなかったのが残念です」

「あはは。まぁ、キューリちゃんのこと、すんごぉ~く気に入ってるようだからあ」

 一旦区切って、マリオンは肩をひそめ、声のトーンを落とす。

「万が一死なせるようなことにでもなったら、アタシら全員、その場で処刑されるね…」

「100%保証できますよ…」

 暗澹たる気持ちに包まれ、マリオンとカーティスは揃って項垂れた。
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