片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
144 / 882
混迷の遺跡編

episode141

しおりを挟む
 神殿の外で待機していたファニーとハドリーは、神殿の方からガヤガヤと足音がして、俯かせていた顔を上げた。

 横たえたままの状態で浮かんだキュッリッキを先頭に、ルーファスらライオン傭兵団が現れ、ファニーは一瞬で顔を蒼白にすると、震える手で両頬を覆った。

「リッキー……」

 死んでいるのかと錯覚するくらい、キュッリッキの姿は惨すぎた。意識を失っている顔はぐったりと蒼白で、明らかに血が足りないのがわかる。陽の光の下では煌くように輝く金髪も、血を吸ってごわつき無残に変色していた。

 力なく垂れ下がる手が、あまりにも現実を突きつけていて、ファニーの心に冷たいものを浴びせかけてきた。ついさっきまで、笑い合いながらお喋りをしていたのに。

 やがて姿を現したザカリーを見つけると、ファニーは弾かれたように、バッと飛びつくように食ってかかる。

「ちょっとアンタ! これ一体どういうことなのよっ! なんでリッキーが」

「よせ、ファニー!」

 ハドリーが慌ててファニーを羽交い締めにする。

「リッキーを傷つけるようなことを言ったんでしょ! じゃなきゃ、警戒心の強いあの子が、危ないところへ飛び込んだりしないわよ」

 ザカリーは目に見えて落ち込んだまま、何も言葉を発せないでいた。

「すまん、ねーちゃん、説教はあとにしてくれや」

 やんわりとギャリーが仲裁に入り、ハドリーは頷いて、なおも食いかかろうとするファニーを必死に宥めた。

「死なせたら、許さないんだからっ」

 心境はハドリーも同じだったが、先にファニーが爆発してしまったため、抑える役に回るしかなかった。

 キュッリッキの様子も深刻だったが、一緒に出てきたライオン傭兵団も血まみれの者が多くて驚いた。しかしそれは何かの返り血だったようで、酷い怪我人が他にいなくて少し安堵する。重い空気を漂わせる彼らに、中で何があったのかを詰問する雰囲気ではなかった。

「キューリさん……。これは一体」

 唯一外で待機していたブルニタルは、キュッリッキの姿に目を見張る。眼鏡の奥の目が彷徨うように揺れ動いた。

「詳しい説明は後でします。まずはどこかの町へ運ばないと…」

 カーティスの呟きに、ブルニタルは持っていた地図を取り出し慌てて開く。

 その様子を遠巻きに見ていたシ・アティウスがブルニタルに近寄り、開かれた地図の一点をそっと指さした。

「この近くにイソラという町がある。小さい町だが、そこに行けば医者がいるだろう。治療もだが、一刻も早い輸血が必要そうだな」

 カーティスは頷く。

「よし、そこへ運ぼう」

 ルーファスも地図を覗き込む。麓からさほど遠くない位置にあるようだ。

「マリオン、ベルトルド卿に連絡をいれるので繋いでください。皆は移動を開始してください。神殿の中で怪物に出くわしたので、万が一ほかにもいたら危険ですから、全員で山を出ましょう」

「怪物…」

 シ・アティウスは興味深そうに、小さく口の中で呟いた。

「……ソレル王国兵に、再び占拠されたりしないだろうか」

 研究者の一人が不満げに声を上げるが、それにはシ・アティウスが静かに窘めた。

「君がここで一人、寝ずの番でもするかね?」

「いえ…、すみません」

「マーゴットとハーマンは道中の灯りを。ギャリーたちは護衛を。ではいきましょう」

 魔法で作り出された灯りを頼りに、全員町へと向かい始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...