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混迷の遺跡編
episode141
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神殿の外で待機していたファニーとハドリーは、神殿の方からガヤガヤと足音がして、俯かせていた顔を上げた。
横たえたままの状態で浮かんだキュッリッキを先頭に、ルーファスらライオン傭兵団が現れ、ファニーは一瞬で顔を蒼白にすると、震える手で両頬を覆った。
「リッキー……」
死んでいるのかと錯覚するくらい、キュッリッキの姿は惨すぎた。意識を失っている顔はぐったりと蒼白で、明らかに血が足りないのがわかる。陽の光の下では煌くように輝く金髪も、血を吸ってごわつき無残に変色していた。
力なく垂れ下がる手が、あまりにも現実を突きつけていて、ファニーの心に冷たいものを浴びせかけてきた。ついさっきまで、笑い合いながらお喋りをしていたのに。
やがて姿を現したザカリーを見つけると、ファニーは弾かれたように、バッと飛びつくように食ってかかる。
「ちょっとアンタ! これ一体どういうことなのよっ! なんでリッキーが」
「よせ、ファニー!」
ハドリーが慌ててファニーを羽交い締めにする。
「リッキーを傷つけるようなことを言ったんでしょ! じゃなきゃ、警戒心の強いあの子が、危ないところへ飛び込んだりしないわよ」
ザカリーは目に見えて落ち込んだまま、何も言葉を発せないでいた。
「すまん、ねーちゃん、説教はあとにしてくれや」
やんわりとギャリーが仲裁に入り、ハドリーは頷いて、なおも食いかかろうとするファニーを必死に宥めた。
「死なせたら、許さないんだからっ」
心境はハドリーも同じだったが、先にファニーが爆発してしまったため、抑える役に回るしかなかった。
キュッリッキの様子も深刻だったが、一緒に出てきたライオン傭兵団も血まみれの者が多くて驚いた。しかしそれは何かの返り血だったようで、酷い怪我人が他にいなくて少し安堵する。重い空気を漂わせる彼らに、中で何があったのかを詰問する雰囲気ではなかった。
「キューリさん……。これは一体」
唯一外で待機していたブルニタルは、キュッリッキの姿に目を見張る。眼鏡の奥の目が彷徨うように揺れ動いた。
「詳しい説明は後でします。まずはどこかの町へ運ばないと…」
カーティスの呟きに、ブルニタルは持っていた地図を取り出し慌てて開く。
その様子を遠巻きに見ていたシ・アティウスがブルニタルに近寄り、開かれた地図の一点をそっと指さした。
「この近くにイソラという町がある。小さい町だが、そこに行けば医者がいるだろう。治療もだが、一刻も早い輸血が必要そうだな」
カーティスは頷く。
「よし、そこへ運ぼう」
ルーファスも地図を覗き込む。麓からさほど遠くない位置にあるようだ。
「マリオン、ベルトルド卿に連絡をいれるので繋いでください。皆は移動を開始してください。神殿の中で怪物に出くわしたので、万が一ほかにもいたら危険ですから、全員で山を出ましょう」
「怪物…」
シ・アティウスは興味深そうに、小さく口の中で呟いた。
「……ソレル王国兵に、再び占拠されたりしないだろうか」
研究者の一人が不満げに声を上げるが、それにはシ・アティウスが静かに窘めた。
「君がここで一人、寝ずの番でもするかね?」
「いえ…、すみません」
「マーゴットとハーマンは道中の灯りを。ギャリーたちは護衛を。ではいきましょう」
魔法で作り出された灯りを頼りに、全員町へと向かい始めた。
横たえたままの状態で浮かんだキュッリッキを先頭に、ルーファスらライオン傭兵団が現れ、ファニーは一瞬で顔を蒼白にすると、震える手で両頬を覆った。
「リッキー……」
死んでいるのかと錯覚するくらい、キュッリッキの姿は惨すぎた。意識を失っている顔はぐったりと蒼白で、明らかに血が足りないのがわかる。陽の光の下では煌くように輝く金髪も、血を吸ってごわつき無残に変色していた。
力なく垂れ下がる手が、あまりにも現実を突きつけていて、ファニーの心に冷たいものを浴びせかけてきた。ついさっきまで、笑い合いながらお喋りをしていたのに。
やがて姿を現したザカリーを見つけると、ファニーは弾かれたように、バッと飛びつくように食ってかかる。
「ちょっとアンタ! これ一体どういうことなのよっ! なんでリッキーが」
「よせ、ファニー!」
ハドリーが慌ててファニーを羽交い締めにする。
「リッキーを傷つけるようなことを言ったんでしょ! じゃなきゃ、警戒心の強いあの子が、危ないところへ飛び込んだりしないわよ」
ザカリーは目に見えて落ち込んだまま、何も言葉を発せないでいた。
「すまん、ねーちゃん、説教はあとにしてくれや」
やんわりとギャリーが仲裁に入り、ハドリーは頷いて、なおも食いかかろうとするファニーを必死に宥めた。
「死なせたら、許さないんだからっ」
心境はハドリーも同じだったが、先にファニーが爆発してしまったため、抑える役に回るしかなかった。
キュッリッキの様子も深刻だったが、一緒に出てきたライオン傭兵団も血まみれの者が多くて驚いた。しかしそれは何かの返り血だったようで、酷い怪我人が他にいなくて少し安堵する。重い空気を漂わせる彼らに、中で何があったのかを詰問する雰囲気ではなかった。
「キューリさん……。これは一体」
唯一外で待機していたブルニタルは、キュッリッキの姿に目を見張る。眼鏡の奥の目が彷徨うように揺れ動いた。
「詳しい説明は後でします。まずはどこかの町へ運ばないと…」
カーティスの呟きに、ブルニタルは持っていた地図を取り出し慌てて開く。
その様子を遠巻きに見ていたシ・アティウスがブルニタルに近寄り、開かれた地図の一点をそっと指さした。
「この近くにイソラという町がある。小さい町だが、そこに行けば医者がいるだろう。治療もだが、一刻も早い輸血が必要そうだな」
カーティスは頷く。
「よし、そこへ運ぼう」
ルーファスも地図を覗き込む。麓からさほど遠くない位置にあるようだ。
「マリオン、ベルトルド卿に連絡をいれるので繋いでください。皆は移動を開始してください。神殿の中で怪物に出くわしたので、万が一ほかにもいたら危険ですから、全員で山を出ましょう」
「怪物…」
シ・アティウスは興味深そうに、小さく口の中で呟いた。
「……ソレル王国兵に、再び占拠されたりしないだろうか」
研究者の一人が不満げに声を上げるが、それにはシ・アティウスが静かに窘めた。
「君がここで一人、寝ずの番でもするかね?」
「いえ…、すみません」
「マーゴットとハーマンは道中の灯りを。ギャリーたちは護衛を。ではいきましょう」
魔法で作り出された灯りを頼りに、全員町へと向かい始めた。
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