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混迷の遺跡編
episode139
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「おめーらダッセー!」
2人の無様を指差し、ヴァルトは腹を抱えてゲラゲラ大笑いした。
「笑ってねーで、助けやがれ!」
振り回されながらも、ギャリーはドスの効いた声を出して怒鳴りつけた。自分でもコレは格好悪いと思っているから、つい顔が赤らんでしまう。
「よし、いいよガエル」
強化魔法をかけ終わり、ハーマンは下がる。
「いくぞ」
低く呟き、ガエルは腰を落とすと、床を蹴って飛び上がり、怪物の脳天に渾身の一撃を叩き込んだ。
ずしりとした重たい衝撃が、怪物の全身を貫く。頭部が深くめり込み、その反動で眼球が飛び出しかかった。目からは血が弾け、怪物は耳障りな悲鳴をあげて、唾液を撒き散らした。後脚も力を失い、腹ばいのような格好になって床に沈む。
筋肉の拘束がほどけ、ギャリーとタルコットは武器と共に投げ出されるようにして解放された。そこへすかさずザカリーの魔弾が連射で額に撃ち込まれ、貫通せず魔弾は怪物の頭内で炸裂した。
爆発の衝撃は頭皮に守られたのか、突き抜けずにボコボコと頭部に瘤をいくつも作った。それでもまだ、怪物は生きている。
「ゴキブリみたいな生命力だなあ」
ヴァルトは心底感心したようだった。
目や耳、鼻の穴や口から血を噴出しながらも、怪物はくぐもった声で唸りながら、なんとか起き上がろうとしている。
「あんな化け物は相手にしたことがないから、力の加減がよく判らんな…」
さがったガエルは、怪物を殴った感触の残る拳を見つめる。やたらと頭皮と筋肉の壁が厚かった。普通の人間が食らっていたら、間違いなく頭部は破裂する威力である。一撃で粉砕できなかったことに、僅かながらプライドを傷つけられていた。
そんなガエルの様子を見て、ヴァルトは「ふん」と鼻を鳴らした。いつもなら茶化したり馬鹿にするが、ガエルの渾身の一撃で沈まなかったということは、ヴァルト自身でも難しいと判っているからだ。
敵対心は燃やしていても、ガエルの実力は認めているヴァルトなのだ。
「剣も拳も通りにくいなら、あんなの燃やしちゃったほうがいいね!」
脳筋組みの戦いを黙って見ていたハーマンは、待ってましたとばかりに魔法の媒体にしている本を開く。
「火花と火炎を撒き散らし
猛り狂いて焼き尽くさん」
赤赤とした炎の塊が、ハーマンの頭上で膨らみながら、大きな丸い炎に形成されていく。
その赤い光に気づいて、振り向いたシビルが「げっ」と表情を引きつらせる。
「一時的に結界張ります!!」
「エルプティオ・ヘリオス!」
詠唱が完了すると、巨大な炎の塊はスッと怪物のもとへ飛んでいき、怪物の体内に吸い込まれていった。突然体内に高熱が発生して、怪物は絶叫をあげる。
その様子を確認して、ハーマンは小さな指をパチリと鳴らした。すると怪物の身体がデコボコと歪みだし、全身から火を噴きながら大爆発した。
爆発の勢いで吹き飛ばされた血肉が、ビチャリと広場に四散する。辺りには焦げた肉の不愉快な臭いが漂う。
キュッリッキの周囲はシビルが防御結界を張っていたので無事だったが、脳筋組はモロにかぶって大騒ぎになった。
殴るのを嫌がったヴァルトは、内蔵のような一部を頭からかぶって、文句も出ないほどゲンナリと肩を落としていた。殴らなくてもこれでは意味がない。
「他に、魔法はなかったのか、ハーマン…」
恨めしさを乗せたギャリーの呟きが、ひっそりとハーマンの背筋を撫でる。
「いやあ……汚いから、火で燃やしちゃえ~って思ってつい……」
えへへっと可愛く笑い、自分だけは防御結界で無事だったハーマンは、尻尾を丸めてそそくさとキュッリッキのもとへ逃げていった。
2人の無様を指差し、ヴァルトは腹を抱えてゲラゲラ大笑いした。
「笑ってねーで、助けやがれ!」
振り回されながらも、ギャリーはドスの効いた声を出して怒鳴りつけた。自分でもコレは格好悪いと思っているから、つい顔が赤らんでしまう。
「よし、いいよガエル」
強化魔法をかけ終わり、ハーマンは下がる。
「いくぞ」
低く呟き、ガエルは腰を落とすと、床を蹴って飛び上がり、怪物の脳天に渾身の一撃を叩き込んだ。
ずしりとした重たい衝撃が、怪物の全身を貫く。頭部が深くめり込み、その反動で眼球が飛び出しかかった。目からは血が弾け、怪物は耳障りな悲鳴をあげて、唾液を撒き散らした。後脚も力を失い、腹ばいのような格好になって床に沈む。
筋肉の拘束がほどけ、ギャリーとタルコットは武器と共に投げ出されるようにして解放された。そこへすかさずザカリーの魔弾が連射で額に撃ち込まれ、貫通せず魔弾は怪物の頭内で炸裂した。
爆発の衝撃は頭皮に守られたのか、突き抜けずにボコボコと頭部に瘤をいくつも作った。それでもまだ、怪物は生きている。
「ゴキブリみたいな生命力だなあ」
ヴァルトは心底感心したようだった。
目や耳、鼻の穴や口から血を噴出しながらも、怪物はくぐもった声で唸りながら、なんとか起き上がろうとしている。
「あんな化け物は相手にしたことがないから、力の加減がよく判らんな…」
さがったガエルは、怪物を殴った感触の残る拳を見つめる。やたらと頭皮と筋肉の壁が厚かった。普通の人間が食らっていたら、間違いなく頭部は破裂する威力である。一撃で粉砕できなかったことに、僅かながらプライドを傷つけられていた。
そんなガエルの様子を見て、ヴァルトは「ふん」と鼻を鳴らした。いつもなら茶化したり馬鹿にするが、ガエルの渾身の一撃で沈まなかったということは、ヴァルト自身でも難しいと判っているからだ。
敵対心は燃やしていても、ガエルの実力は認めているヴァルトなのだ。
「剣も拳も通りにくいなら、あんなの燃やしちゃったほうがいいね!」
脳筋組みの戦いを黙って見ていたハーマンは、待ってましたとばかりに魔法の媒体にしている本を開く。
「火花と火炎を撒き散らし
猛り狂いて焼き尽くさん」
赤赤とした炎の塊が、ハーマンの頭上で膨らみながら、大きな丸い炎に形成されていく。
その赤い光に気づいて、振り向いたシビルが「げっ」と表情を引きつらせる。
「一時的に結界張ります!!」
「エルプティオ・ヘリオス!」
詠唱が完了すると、巨大な炎の塊はスッと怪物のもとへ飛んでいき、怪物の体内に吸い込まれていった。突然体内に高熱が発生して、怪物は絶叫をあげる。
その様子を確認して、ハーマンは小さな指をパチリと鳴らした。すると怪物の身体がデコボコと歪みだし、全身から火を噴きながら大爆発した。
爆発の勢いで吹き飛ばされた血肉が、ビチャリと広場に四散する。辺りには焦げた肉の不愉快な臭いが漂う。
キュッリッキの周囲はシビルが防御結界を張っていたので無事だったが、脳筋組はモロにかぶって大騒ぎになった。
殴るのを嫌がったヴァルトは、内蔵のような一部を頭からかぶって、文句も出ないほどゲンナリと肩を落としていた。殴らなくてもこれでは意味がない。
「他に、魔法はなかったのか、ハーマン…」
恨めしさを乗せたギャリーの呟きが、ひっそりとハーマンの背筋を撫でる。
「いやあ……汚いから、火で燃やしちゃえ~って思ってつい……」
えへへっと可愛く笑い、自分だけは防御結界で無事だったハーマンは、尻尾を丸めてそそくさとキュッリッキのもとへ逃げていった。
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