片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
141 / 882
混迷の遺跡編

episode138

しおりを挟む
「うわあああああ!! なんじゃあこりゃあああ」

 開口一番、ヴァルトは仰け反りながら怪物を見上げ叫んだ。怖いというより、素手で触るのも嫌なほどの醜悪な姿に、さすがに一歩退く。

 ルーファスの念話の誘導により、皆次々と到着した。

「おい……嘘だろ」

 ザカリーはキュッリッキを見おろしながら、上ずった声で呟いた。

 傷は深いなんてレベルをはるかに超えている。痛々しいなんてものじゃない。パッと見ただけで、即死レベル級なのだ。こんな状態でよく生きていたと思えるくらいに。

 小さな身体を自らの血だまりの中に浸しながら、顔は蒼白となり生気の欠片もない。

 ギャリーは沈痛な面持ちで、愕然とするザカリーの肩を叩く。

「落ち込むのは後にしろ。まずは、アレを殺るぜ」

「……ああ」

 ザカリーは爪が食い込むほど、拳を握り締めた。



 突如増えた小さな獲物たち。先ほど手にかけた獲物とは違い、遊びがいのありそうな獲物がきたと、怪物は喜んだ。

 人面はほころばせるような笑みを浮かべていて、怪物の姿はよりいっそう醜悪に映る。

「気持ち悪いな、これ」

 漆黒の大鎌を構えながら、タルコットは顔をしかめた。ずっと見ていたら、夢に出てきそうだ。

「よーし! 俺様は決めた! 触るのキモイから、武器組のてめーらに任す!!」

「だったら退いてろ! 邪魔っ」

 魔剣シラーを背から取り出したギャリーが、ヴァルトを肩で跳ね除けるように押しだし構える。

「ハーマン、俺の拳に強化魔法をかけてくれ。あんな雑魚、一撃で殴り殺してやろう」

 ガエルは拳を構えて気を充実させる。ハーマンは無言で頷くと、小さな掌をかざした。その様子を見て、ヴァルトのこめかみがヒクッと引き攣る。

 触りたくないが、邪険にされるのも気に入らず。かといって殴れば、脂ギッシュなあの赤黒い肌に触ることになる。しかしガエルに目の前でかっこつけられるのも腹が立つ。

 腕を組んで迷い唸るヴァルトをよそに、ザカリーの放った魔弾が、怪物の両前脚に撃ち込まれた。いきなり受けた攻撃に、怪物は奇声を発しながら、均衡を失って前のめりに膝を折る。

 魔弾は前脚の中で爆発したため、傷口から血が噴き出し、前脚が奇妙な形に膨らみ歪んだ。対人間用の威力で作られている魔弾のため、怪物の身体を吹き飛ばすには威力が弱かった。

「ケッ。頑丈だなおい」

 ザカリーは忌々しげに唾を吐き捨てた。

 それを合図にしたように、タルコットとギャリーが同時に飛び込み、大鎌と大剣が振り下ろされる。

 しかし2人の一閃は、切り裂くどころか怪物の肉厚な巨躯に防がれ、筋肉に刀身が食い込み抜けなくなってしまった。

「ちょっ、ヤメテカッコ悪すぎー!!」

「食い込みすぎだろ!!」

 ギャリーとタルコットは武器を怪物の身体に食われたまま、宙ぶらりんになって喚いた。怪物は痛みのため身体を激しく揺する。振り落とされまいと、2人はしっかり武器の柄を握り締めた。

 怪物の唸り声が、低く大きく広場に鳴り響いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私の妹は確かに聖女ですけど、私は女神本人ですわよ?

みおな
ファンタジー
 私の妹は、聖女と呼ばれている。  妖精たちから魔法を授けられた者たちと違い、女神から魔法を授けられた者、それが聖女だ。  聖女は一世代にひとりしか現れない。  だから、私の婚約者である第二王子は声高らかに宣言する。 「ここに、ユースティティアとの婚約を破棄し、聖女フロラリアとの婚約を宣言する!」  あらあら。私はかまいませんけど、私が何者かご存知なのかしら? それに妹フロラリアはシスコンですわよ?  この国、滅びないとよろしいわね?  

処理中です...