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混迷の遺跡編
episode136
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叩きつけられるような重みと衝撃が走り抜けたあと、焼けるような痛みに刺し貫かれ、キュッリッキは大きく目を見開いた。
悲鳴をあげた気がしたが、実際は引き攣れた掠れ声が小さく発せられたに過ぎない。
怪物の爪は、キュッリッキの右肩から胸までを、深く切り裂いた。
肉が抉り取られ、骨があらわになり、大量の鮮血が噴き出す。血飛沫と金色の髪が宙を舞い、キュッリッキは仰向けに倒れた。あまりの痛みに気を失うことも許されず、目を開いたまま、キュッリッキはビクンッビクンと痙攣した。
自らの血だまりの中に身を浸し、心の中で必死に叫ぶ。
(痛い…助けて!)
口の中も血で溢れかえり、僅かに開いた口の端を唾液と血が伝う。全身が急速に凍え冷えていく感じがした。
右上半身には激しい痛みはあるのに、他の部位の感覚が麻痺している。手足を動かそうと思っても、ぴくりとも動かない。閉じることもできない目からは涙が溢れ出し、薄暗い天井を凝視していた。
キュッリッキは怪物を見ていなかった。張り付いたように動かない目は天井を見上げるのみだ。
やがて意識が混濁し始め、視界がぼやけだした。
一方、怪物はキュッリッキが流した血の匂いに鼻腔をくすぐられ、なんともいい気分になっていた。
己の爪にこびりついた肉片と血を舐めとると、嬉しそうに目を細める。新鮮で甘い芳しい香りが、口内から鼻に突き抜けていった。
小さな獲物を見下ろし、怪物は生臭い息を吐き出した。もう動くこともできず、血だまりの中で息も絶え絶えになっている。
ぬらぬらと濡れ光る赤黒い肌からは、興奮のためか脂が滲み出し、よりテラテラと光沢を強めた。
怪物は想像する。腹を切り裂いたら、今度は何が見えるだろうと。急に興味が沸いて、それがよりいっそう残忍な興奮につながった。
怪物はキュッリッキの腹に爪先を向ける。
前脚を振り下ろし、腹を切り裂こうとした瞬間、
「ぐっ!」
低い唸り声がして、何かに動きを止められ、怪物は怪訝そうに足元を覗き込んだ。そして突然周りが賑わいだし、なにやら足元に小さい生き物が集まり始めて首を傾げる。
「リッキーさん!! なんてことに」
「キューリちゃん!」
「ランドンさん早く回復魔法を! このままではリッキーさんが」
「判ってる!」
ランドンはキュッリッキの傍らに膝をつくと、両手を肩口にかざした。
「土に流れた毒は 二度と身体に戻らない
胸から流れ出た苦痛も
戻ることなく去らしめよ」
掌から柔らかな光が溢れ出し、傷口を優しく包み込む。
「キューリさん…」
ハーマンは為す術もなく、キュッリッキの周りをほたほたと歩いた。魔法スキル〈才能〉はあるが、回復魔法は得意ではない。この状態で無理に使うのはかえって危険だったからだ。
寸でのところで怪物の攻撃を止めたガエルは、交差させた腕で怪物の前脚を押しとどめながら、肩ごしに振り向く。
「キューリを動かせるか?」
「この様子じゃ今すぐは無理だ。戦う向きを変えてくれ、ガエル」
「了解だ」
ありったけの力を両腕に込め、ガエルは怪物の身体を前方に思い切り押し出した。怪物は後ろによろけ転がって壁に衝突した。そのままガエルは怪物を追い、キュッリッキたちから離れた。
悲鳴をあげた気がしたが、実際は引き攣れた掠れ声が小さく発せられたに過ぎない。
怪物の爪は、キュッリッキの右肩から胸までを、深く切り裂いた。
肉が抉り取られ、骨があらわになり、大量の鮮血が噴き出す。血飛沫と金色の髪が宙を舞い、キュッリッキは仰向けに倒れた。あまりの痛みに気を失うことも許されず、目を開いたまま、キュッリッキはビクンッビクンと痙攣した。
自らの血だまりの中に身を浸し、心の中で必死に叫ぶ。
(痛い…助けて!)
口の中も血で溢れかえり、僅かに開いた口の端を唾液と血が伝う。全身が急速に凍え冷えていく感じがした。
右上半身には激しい痛みはあるのに、他の部位の感覚が麻痺している。手足を動かそうと思っても、ぴくりとも動かない。閉じることもできない目からは涙が溢れ出し、薄暗い天井を凝視していた。
キュッリッキは怪物を見ていなかった。張り付いたように動かない目は天井を見上げるのみだ。
やがて意識が混濁し始め、視界がぼやけだした。
一方、怪物はキュッリッキが流した血の匂いに鼻腔をくすぐられ、なんともいい気分になっていた。
己の爪にこびりついた肉片と血を舐めとると、嬉しそうに目を細める。新鮮で甘い芳しい香りが、口内から鼻に突き抜けていった。
小さな獲物を見下ろし、怪物は生臭い息を吐き出した。もう動くこともできず、血だまりの中で息も絶え絶えになっている。
ぬらぬらと濡れ光る赤黒い肌からは、興奮のためか脂が滲み出し、よりテラテラと光沢を強めた。
怪物は想像する。腹を切り裂いたら、今度は何が見えるだろうと。急に興味が沸いて、それがよりいっそう残忍な興奮につながった。
怪物はキュッリッキの腹に爪先を向ける。
前脚を振り下ろし、腹を切り裂こうとした瞬間、
「ぐっ!」
低い唸り声がして、何かに動きを止められ、怪物は怪訝そうに足元を覗き込んだ。そして突然周りが賑わいだし、なにやら足元に小さい生き物が集まり始めて首を傾げる。
「リッキーさん!! なんてことに」
「キューリちゃん!」
「ランドンさん早く回復魔法を! このままではリッキーさんが」
「判ってる!」
ランドンはキュッリッキの傍らに膝をつくと、両手を肩口にかざした。
「土に流れた毒は 二度と身体に戻らない
胸から流れ出た苦痛も
戻ることなく去らしめよ」
掌から柔らかな光が溢れ出し、傷口を優しく包み込む。
「キューリさん…」
ハーマンは為す術もなく、キュッリッキの周りをほたほたと歩いた。魔法スキル〈才能〉はあるが、回復魔法は得意ではない。この状態で無理に使うのはかえって危険だったからだ。
寸でのところで怪物の攻撃を止めたガエルは、交差させた腕で怪物の前脚を押しとどめながら、肩ごしに振り向く。
「キューリを動かせるか?」
「この様子じゃ今すぐは無理だ。戦う向きを変えてくれ、ガエル」
「了解だ」
ありったけの力を両腕に込め、ガエルは怪物の身体を前方に思い切り押し出した。怪物は後ろによろけ転がって壁に衝突した。そのままガエルは怪物を追い、キュッリッキたちから離れた。
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