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混迷の遺跡編
episode135
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こんなに広かっただろうか?と思える程の、複雑に入り組む神殿の中を走りながら、ザカリーの頭の中は後悔の文字でいっぱいになっていた。
ほんの少しからかって、キュッリッキとひと時の会話――喧嘩になったが――を楽しみたかっただけだ。翼のことを口走りそうになって、傷つけるつもりはなかった。弾みで口にしたこととは言え、大粒の涙まで流され、ザカリーは罪悪感で胸が痛んだ。そこへ、あんなに切羽詰まった悲鳴が聞こえてきて、もうどうしていいか判らない。
「場所とタイミングが、わ~るかっただけだよ」
「ちょ! 心の中を読むなよ!」
横に並んで走るマリオンに、ザカリーは顔を真っ赤にして怒鳴る。マリオンはのんびり笑った。
「早く、キューリちゃん見つけてあげよ~」
「……うん」
「どうやったら一瞬で、こんな複雑構造に作り変われるんですかねえ」
どこをどう走ったものか見当もつかず、手当たり次第走りながらカーティスはぼやいた。そこに頭痛が走り、念話が割り込んできて顔をしかめる。
(おいカーティス、そっちの状況はどうなっている?)
(ベルトルド卿)
今回の依頼主でもある、副宰相ベルトルドからの念話だ。
(リッキーから預かった小鳥が消え失せた。一体どうしたんだ?)
(え?)
カーティスは己の肩に目を向けて息を呑む。張り付くようにしてとまっていた赤い小鳥が、消えているではないか。
(私のほうの小鳥も消えていますね…。ちょっと、マズイかもしれません)
(? さっぱり意味が判らんぞ)
不快げに眉を寄せる顔が目に浮かぶような声だった。しかし今はそれどころじゃない。
(とにかくたてこんでまして。状況がまとまり次第早急に連絡を入れますから、もうちょっとお待ちください!)
強引に念話を打ち切り、カーティスは走る速度を速めた。
「ねえハドリー、あたしたちも探しに行ったほうがよくない?」
神殿を見つめ、ファニーが提案する。
「そうしたいが、中で何が起こっているか判らねえ。二次遭難になったらシャレにならないし、足でまといになるから、じっとしてたほうがいい」
「むぅ…」
ファニー同様すぐにでも駆け込みたかったが、ハドリーはその衝動を必死で堪えた。努めて冷静さを装ってはいるが、嫌な胸騒ぎがしてならなかった。
あんなに怖がっていた神殿に入ってしまったキュッリッキ。ザカリーという男と喧嘩していた感じから、以前話していた秘密がバレた相手のことだろうと察しがついた。何を口論してこんな事態になったのかは判らないが、怖いと言っていた神殿に駆け込んでしまうほど、傷ついたのだとしたら、すぐさま飛んでいってやりたい。
でも今のキュッリッキには、新しい仲間が出来ている。ここにその仲間たちがいる。
仲間との間でことで起こった問題なら、親友といえどしゃしゃり出ることじゃないとハドリーは考えていた。仲間たちと解決することが、キュッリッキのためになると思ったからだ。
「無事でいてくれよ…」
祈るように小さくハドリーは呟いた。
ほんの少しからかって、キュッリッキとひと時の会話――喧嘩になったが――を楽しみたかっただけだ。翼のことを口走りそうになって、傷つけるつもりはなかった。弾みで口にしたこととは言え、大粒の涙まで流され、ザカリーは罪悪感で胸が痛んだ。そこへ、あんなに切羽詰まった悲鳴が聞こえてきて、もうどうしていいか判らない。
「場所とタイミングが、わ~るかっただけだよ」
「ちょ! 心の中を読むなよ!」
横に並んで走るマリオンに、ザカリーは顔を真っ赤にして怒鳴る。マリオンはのんびり笑った。
「早く、キューリちゃん見つけてあげよ~」
「……うん」
「どうやったら一瞬で、こんな複雑構造に作り変われるんですかねえ」
どこをどう走ったものか見当もつかず、手当たり次第走りながらカーティスはぼやいた。そこに頭痛が走り、念話が割り込んできて顔をしかめる。
(おいカーティス、そっちの状況はどうなっている?)
(ベルトルド卿)
今回の依頼主でもある、副宰相ベルトルドからの念話だ。
(リッキーから預かった小鳥が消え失せた。一体どうしたんだ?)
(え?)
カーティスは己の肩に目を向けて息を呑む。張り付くようにしてとまっていた赤い小鳥が、消えているではないか。
(私のほうの小鳥も消えていますね…。ちょっと、マズイかもしれません)
(? さっぱり意味が判らんぞ)
不快げに眉を寄せる顔が目に浮かぶような声だった。しかし今はそれどころじゃない。
(とにかくたてこんでまして。状況がまとまり次第早急に連絡を入れますから、もうちょっとお待ちください!)
強引に念話を打ち切り、カーティスは走る速度を速めた。
「ねえハドリー、あたしたちも探しに行ったほうがよくない?」
神殿を見つめ、ファニーが提案する。
「そうしたいが、中で何が起こっているか判らねえ。二次遭難になったらシャレにならないし、足でまといになるから、じっとしてたほうがいい」
「むぅ…」
ファニー同様すぐにでも駆け込みたかったが、ハドリーはその衝動を必死で堪えた。努めて冷静さを装ってはいるが、嫌な胸騒ぎがしてならなかった。
あんなに怖がっていた神殿に入ってしまったキュッリッキ。ザカリーという男と喧嘩していた感じから、以前話していた秘密がバレた相手のことだろうと察しがついた。何を口論してこんな事態になったのかは判らないが、怖いと言っていた神殿に駆け込んでしまうほど、傷ついたのだとしたら、すぐさま飛んでいってやりたい。
でも今のキュッリッキには、新しい仲間が出来ている。ここにその仲間たちがいる。
仲間との間でことで起こった問題なら、親友といえどしゃしゃり出ることじゃないとハドリーは考えていた。仲間たちと解決することが、キュッリッキのためになると思ったからだ。
「無事でいてくれよ…」
祈るように小さくハドリーは呟いた。
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