片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
138 / 882
混迷の遺跡編

episode135

しおりを挟む
 こんなに広かっただろうか?と思える程の、複雑に入り組む神殿の中を走りながら、ザカリーの頭の中は後悔の文字でいっぱいになっていた。

 ほんの少しからかって、キュッリッキとひと時の会話――喧嘩になったが――を楽しみたかっただけだ。翼のことを口走りそうになって、傷つけるつもりはなかった。弾みで口にしたこととは言え、大粒の涙まで流され、ザカリーは罪悪感で胸が痛んだ。そこへ、あんなに切羽詰まった悲鳴が聞こえてきて、もうどうしていいか判らない。

「場所とタイミングが、わ~るかっただけだよ」

「ちょ! 心の中を読むなよ!」

 横に並んで走るマリオンに、ザカリーは顔を真っ赤にして怒鳴る。マリオンはのんびり笑った。

「早く、キューリちゃん見つけてあげよ~」

「……うん」



「どうやったら一瞬で、こんな複雑構造に作り変われるんですかねえ」

 どこをどう走ったものか見当もつかず、手当たり次第走りながらカーティスはぼやいた。そこに頭痛が走り、念話が割り込んできて顔をしかめる。

(おいカーティス、そっちの状況はどうなっている?)

(ベルトルド卿)

 今回の依頼主でもある、副宰相ベルトルドからの念話だ。

(リッキーから預かった小鳥が消え失せた。一体どうしたんだ?)

(え?)

 カーティスは己の肩に目を向けて息を呑む。張り付くようにしてとまっていた赤い小鳥が、消えているではないか。

(私のほうの小鳥も消えていますね…。ちょっと、マズイかもしれません)

(? さっぱり意味が判らんぞ)

 不快げに眉を寄せる顔が目に浮かぶような声だった。しかし今はそれどころじゃない。

(とにかくたてこんでまして。状況がまとまり次第早急に連絡を入れますから、もうちょっとお待ちください!)

 強引に念話を打ち切り、カーティスは走る速度を速めた。



「ねえハドリー、あたしたちも探しに行ったほうがよくない?」

 神殿を見つめ、ファニーが提案する。

「そうしたいが、中で何が起こっているか判らねえ。二次遭難になったらシャレにならないし、足でまといになるから、じっとしてたほうがいい」

「むぅ…」

 ファニー同様すぐにでも駆け込みたかったが、ハドリーはその衝動を必死で堪えた。努めて冷静さを装ってはいるが、嫌な胸騒ぎがしてならなかった。

 あんなに怖がっていた神殿に入ってしまったキュッリッキ。ザカリーという男と喧嘩していた感じから、以前話していた秘密がバレた相手のことだろうと察しがついた。何を口論してこんな事態になったのかは判らないが、怖いと言っていた神殿に駆け込んでしまうほど、傷ついたのだとしたら、すぐさま飛んでいってやりたい。

 でも今のキュッリッキには、新しい仲間が出来ている。ここにその仲間たちがいる。

 仲間との間でことで起こった問題なら、親友といえどしゃしゃり出ることじゃないとハドリーは考えていた。仲間たちと解決することが、キュッリッキのためになると思ったからだ。

「無事でいてくれよ…」

 祈るように小さくハドリーは呟いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」 ────何言ってんのコイツ? あれ? 私に言ってるんじゃないの? ていうか、ここはどこ? ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ! 推しに会いに行かねばならんのだよ!!

処理中です...