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混迷の遺跡編
episode132
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神殿の中、と言われて、キュッリッキの表情が咄嗟に強張る。その様子を怪訝そうに見て、ザカリーは首をかしげると、なにか思い当たったように頷いて頬を掻いた。
「あーなんか、神殿が怖いとか言ってるんだっけか」
「……」
キュッリッキは身を固くしたまま、むっすりと更に黙り込んだ。
「だって、何もなかったんだろ? 例のエグザイル・システムらしきものだけがあったとかでさ」
ザカリーがシ・アティウスに顔を向けると、無言の肯定が返ってきた。
「大丈夫だって。オレが一緒にいてやるからよ」
にやけた笑顔を向けながら言うザカリーの顔を、キュッリッキは力いっぱい引っぱたく。そして腕の中から逃げ出した。
「ザカリーのバカ! 大っ嫌いなんだからっ!!」
我慢の限界をありったけ声に乗せて、吐き出すように叫んだ。空洞の中に轟くような大声に、何事かと皆一斉に2人の方を向く。
叩かれた頬に手をあてながら、さすがにザカリーもムッとして、キュッリッキを睨みつける。これまでの不満が、一気に感情を昂ぶらせた。
「ったく……何なんだよ、いっつもふくれっ面でよ! あのことは別に」
そこまで言いさして、慌てて口を噤むと、内心で舌打ちする。
(やべっ…)
「おい!」
ヴァルトが制止するように声をあげた。
今まで怒っていたキュッリッキの表情が急に怯え出し、大きく見張った目からは大粒の涙が溢れだした。たよりなげな身体を震わせ、ポロポロと落ちた涙がフェンリルの頭で弾ける。
フェンリルはキュッリッキの腕の中で、表情を険しくさせザカリーを睨みつけていた。
「いや……そんなつもりはないから、そのっ」
慌てて取り繕うが、ザカリーは狼狽し、言い訳を必死に考えるが思いつかない。つい口走りそうになったことを激しく後悔した。まさかこんなに泣かれることになるとは、どうしていいか判らなくなった。
2人のやり取りを、みな困惑を浮かべながら見ている。キュッリッキとザカリーがギクシャクしていることは知っていたが、泣かせているところは初めて見る。
キュッリッキは一度しゃくり上げると、踵を返し神殿へと向かって走り出した。
「あ、おい」
ザカリーの手は、キュッリッキの肩を掴み損ねて空ぶった。
あれだけ怯えていた神殿に駆け込んでいってしまった後ろ姿を皆が唖然と見やり、何とも言いようもない空気だけが、無遠慮に空洞の中に流れていた。
誰もが言葉を探すように沈黙を続けるその場に、突如地震のような振動が襲った。立っていた者たちが、思わずよろけるほど大きい。
「あわわっ地震!?」
シビルが声をあげるとほぼ同時に、神殿からキュッリッキの悲鳴が聴こえてきた。
「キューリ!」
「キューリさん!?」
キュッリッキの悲鳴に弾かれ、何事かと全員神殿に駆け込み、そこで一様に目を剥く。
「おい、なんだこれ!?」
ギャリーは驚いて思わず声を上げた。
それまで何もなく、縦長一直線だった暗い神殿の中には、いくつもの壁や柱が出現していて、複雑な様相を呈していた。
突如様変わりした神殿内部に唖然と驚く一同に、更にキュッリッキの切羽詰まった悲鳴が届く。
ハッとしたように、カーティスの急いた指示が飛ぶ。
「ケレヴィルの皆さんは外に出ていてください。キューリさんのお友達とブルニタルも。捜索は我々だけでやりましょう」
みな黙って頷いた。
「作戦のときの班で別れて探しましょう。ルーファスとハーマンとランドンはメルヴィンの班へ移って。急ぎますよ!」
カーティスの指示で3班に分かれると、それぞれ神殿の内部に突入した。
「あーなんか、神殿が怖いとか言ってるんだっけか」
「……」
キュッリッキは身を固くしたまま、むっすりと更に黙り込んだ。
「だって、何もなかったんだろ? 例のエグザイル・システムらしきものだけがあったとかでさ」
ザカリーがシ・アティウスに顔を向けると、無言の肯定が返ってきた。
「大丈夫だって。オレが一緒にいてやるからよ」
にやけた笑顔を向けながら言うザカリーの顔を、キュッリッキは力いっぱい引っぱたく。そして腕の中から逃げ出した。
「ザカリーのバカ! 大っ嫌いなんだからっ!!」
我慢の限界をありったけ声に乗せて、吐き出すように叫んだ。空洞の中に轟くような大声に、何事かと皆一斉に2人の方を向く。
叩かれた頬に手をあてながら、さすがにザカリーもムッとして、キュッリッキを睨みつける。これまでの不満が、一気に感情を昂ぶらせた。
「ったく……何なんだよ、いっつもふくれっ面でよ! あのことは別に」
そこまで言いさして、慌てて口を噤むと、内心で舌打ちする。
(やべっ…)
「おい!」
ヴァルトが制止するように声をあげた。
今まで怒っていたキュッリッキの表情が急に怯え出し、大きく見張った目からは大粒の涙が溢れだした。たよりなげな身体を震わせ、ポロポロと落ちた涙がフェンリルの頭で弾ける。
フェンリルはキュッリッキの腕の中で、表情を険しくさせザカリーを睨みつけていた。
「いや……そんなつもりはないから、そのっ」
慌てて取り繕うが、ザカリーは狼狽し、言い訳を必死に考えるが思いつかない。つい口走りそうになったことを激しく後悔した。まさかこんなに泣かれることになるとは、どうしていいか判らなくなった。
2人のやり取りを、みな困惑を浮かべながら見ている。キュッリッキとザカリーがギクシャクしていることは知っていたが、泣かせているところは初めて見る。
キュッリッキは一度しゃくり上げると、踵を返し神殿へと向かって走り出した。
「あ、おい」
ザカリーの手は、キュッリッキの肩を掴み損ねて空ぶった。
あれだけ怯えていた神殿に駆け込んでいってしまった後ろ姿を皆が唖然と見やり、何とも言いようもない空気だけが、無遠慮に空洞の中に流れていた。
誰もが言葉を探すように沈黙を続けるその場に、突如地震のような振動が襲った。立っていた者たちが、思わずよろけるほど大きい。
「あわわっ地震!?」
シビルが声をあげるとほぼ同時に、神殿からキュッリッキの悲鳴が聴こえてきた。
「キューリ!」
「キューリさん!?」
キュッリッキの悲鳴に弾かれ、何事かと全員神殿に駆け込み、そこで一様に目を剥く。
「おい、なんだこれ!?」
ギャリーは驚いて思わず声を上げた。
それまで何もなく、縦長一直線だった暗い神殿の中には、いくつもの壁や柱が出現していて、複雑な様相を呈していた。
突如様変わりした神殿内部に唖然と驚く一同に、更にキュッリッキの切羽詰まった悲鳴が届く。
ハッとしたように、カーティスの急いた指示が飛ぶ。
「ケレヴィルの皆さんは外に出ていてください。キューリさんのお友達とブルニタルも。捜索は我々だけでやりましょう」
みな黙って頷いた。
「作戦のときの班で別れて探しましょう。ルーファスとハーマンとランドンはメルヴィンの班へ移って。急ぎますよ!」
カーティスの指示で3班に分かれると、それぞれ神殿の内部に突入した。
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