片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
134 / 882
混迷の遺跡編

episode131

しおりを挟む
 キュッリッキの背後から、ザカリーがニヤニヤ顔で話に割って入ってきた。シ・アティウスは小さく首をかしげたが、キュッリッキは殆ど条件反射のように肩を怒らせると、噛み付くような顔でザカリーに振り向いた。

「なによっ!」

「ホラッ」

 ザカリーはからかうように、身体をヒョイッと避けてみせる。

(何で話に入ってくるのよ)

 キュッリッキは忌々しそうにザカリーを睨みつけた。その目を真っ向から受けて、ザカリーは内心苦笑する。

 あの日、キュッリッキの秘密を覗き見したことで、以来話しかけても応じてくれず、声をかければそっぽを向くか、無視をされ続けていた。もちろんザカリーには秘密をバラす気など、そんなつもりは毛頭ない。だが、キュッリッキが自分を信用していないことだけは判っていた。

 秘密を見てしまったのだから、それはしょがないと思う気持ちと、そろそろお怒りを解いて欲しいと願う気持ちで板挟みになっている。

 可愛い子専を自負するザカリーは、10歳も年下のキュッリッキを、本気で好きになっていた。

 背も小さく華奢で、本人は全く自覚していないが美少女である。アジトの近所でもすぐ評判になった。手を出そうとする輩も多い界隈に、ザカリーとしては気が気じゃないのだ。最も、ライオン傭兵団の一員と知って、手を出す強者は居ないが。

 あの細っそりした身体を、そっと抱きしめてみたい。柔らかな肌に触れながら、桜貝のような色の唇にキスをしてみたかった。そしていつかは、全てを自分のモノにしたい。

 好きだという気持ちを自覚してからは、求める気持ちがどんどん強まっている。笑いかけて欲しくて必死にちょっかいを出すが、なかなか成功しない。こうしてからかったときくらいしか、顔を合わせてくれようともしないので、ザカリーとしてはキュッリッキを怒らせるしか手段がなかった。

 一方、キュッリッキはザカリーに話しかけられるたびに、心底ビクビクしていた。アイオン族であること、片翼のことを、みんなにバラされるんじゃないかと。彼は秘密を話すんじゃないか、その不安が態度を頑なにさせている。

 ザカリーのことは、好きとか嫌いとかじゃない。ただただ不安で不安で、その存在自体が怖くてたまらない。ヴァルトも秘密を知る者だが、同じ種族で事情も知っていることから、無闇にバラすことはないだろうと思える。

 まさかザカリーが自分を本気で好きになっているなど知る由もないので、不安を隠すために、態度が強気になり険悪になる。

 ザカリーの乱入のせいで、キュッリッキとの話が中断されたシ・アティウスは、ヤレヤレといった気分で肩をすくませた。その様子を見ていたカーティスは、ザカリーとキュッリッキが揉めているのを見かね、口を挟んだ。

「あんまりキューリさんを、からかわないで下さいよ」

「別にからかっちゃいないよ。だってよ、退屈なんだもん。なあ」

 ザカリーは強引にキュッリッキの肩を抱き寄せる。あまりにも素早い行動に、キュッリッキはビックリした顔で、ザカリーの腕の中に抱き寄せられ目を見張った。

(ヤダ…)

 足元から嫌悪感が這い上がってきて、吐き気を覚えて顔をしかめる。

「ザカリー、そのくらいにしておいて下さい、嫌がってますよ」

 理由は知らないまでも、ザカリーが話しかけるとキュッリッキの態度が意固地になるのは、カーティスにも判っていた。目を合わせようともしないし、話しかけられても無視している。今も、本気で嫌がっているのが、露骨に顔に出ているのだ。

「退屈だしさ、神殿の中で楽しいことしようぜ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

雑草令嬢とハキダメの愛 ◆悪役令嬢スペック ✕ 雑草根性で世界を救うミッションはクリアできるか!?

丸インコ
ファンタジー
悪役令嬢のスペックに雑草根性を注入したら、パーフェクト令嬢は誕生するのか? ◆スペックは最高なのに能力は雑魚な乙女ゲームの悪役シャギー・ソルジャー。すべてのルートに登場しコロッと退場するシャギーにユーザーからつけられたあだ名は「噛ませ令嬢」。そんな残念令嬢に転生したのは大家族の長女として苦労してきたド根性少女。恵まれたスペックを持ち前の根性で鍛え上げ、断罪される隙もない最強令嬢になる! ──はずが、なぜか最強騎士が出来上がってしまい……。 ◆与えられたのは、死ぬ直前に願った『次は“持ってる側”で生まれたい』という身分。願いどおりの「持ってる人生」を、前世から「持って来た」根性で切り開いていく、掃き溜めに咲く雑草菊の小さな愛の物語。 ♥表紙・登場人物などイラストは自作のものです

転生調理令嬢は諦めることを知らない!

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

処理中です...