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混迷の遺跡編
episode130
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「召喚士というのは君かね?」
「ふにゅ?」
突然話しかけられふくれっ面のまま顔を向けると、衣服が血まみれの無表情な男がキュッリッキを見おろしていた。顔や頭の血は拭われていたが、白衣にはべっとりと黒々とした血が染み付いていて、その姿にギョッとする。
「私はアルケラ研究機関ケレヴィルの研究員をしている、シ・アティウスという」
差し出されたシ・アティウスの手を握り返し、キュッリッキは僅かに首をかしげた。
(アルケラ研究機関?って、なんだろう…)
不思議そうに見上げてくるキュッリッキを見下ろしながら、シ・アティウスはベルトルドから中継された、ソープワート王国軍を消し去った、凄まじい召喚の光景を思い出していた。
「太古には、この世界に実在していたという神の国アルケラ。突如国ごと姿を消し、今となっては召喚スキル〈才能〉を持つ者だけが、アルケラの実在を確認できるだけにとどまっている。もはや空想世界のことだと思われ伝説化されてるが、アルケラが存在していた形跡がこれら遺跡には遺っていてね。そうしたものを調べることを仕事にしている研究機関のことだ」
キュッリッキの疑問を見透かしたように、シ・アティウスは淡々と説明する。
「アルケラのこと、信じてくれているの?」
ぽつりとした呟きに、シ・アティウスは大きく頷いた。
「もちろん信じているとも。そうでなければケレヴィルなどに、勤めたりはしない」
ちょっと考える素振りを見せたあと、キュッリッキは抱えていた小さなフェンリルを持ち上げて、どこか必死に訴える。
「あのね、あのね、アルケラは、ちゃんとあるんだよ。この子だってアルケラから来たし、小鳥たちもだよ。幻じゃないの、アルケラはあるの」
その様子に、初めてシ・アティウスは相好を崩した。
「もちろん我々も信じて研究をしている。そうでなければ、危険な思いをしてまでこの遺跡を調べに来たりしない」
「うん、そうだよね」
キュッリッキも破顔した。
「この皇国には、召喚スキル〈才能〉を持つ者たちがそこそこ集められている。君は宮廷のどの召喚士たちよりも、強い力を秘めているようだね。正直召喚士がそんなに凄いことができるとは、知らなかったくらいだ」
シ・アティウスの背後にひっそりと控えていた他の研究者たちも、そうだそうだと頷きあっていた。
他の召喚士たちを知らないキュッリッキには、やはり違いがピンとこなかった。自分と同じようにアルケラを視て、住人たちと話ができて、通じ合い、こちらの世界に招き寄せられるものだと思っていたから。
いずれ他の召喚士に、会ってみたくなっていた。
「帰ったらケレヴィルの研究施設で、色々調べさせてもらいたい」
「そしたら、他の召喚士とも会うことができる?」
「ああ、会わせてあげるよ」
「うわあ」
キュッリッキの顔が喜びで輝いた。
喜ぶキュッリッキを見つめながら、シ・アティウスはアルカネットから見せられた、彼女の報告書を思い出していた。
不遇な過去を持つこの少女が、フリーの傭兵に身を落とし、類まれな力を振るっている。宮廷の召喚スキル〈才能〉を持つ者たちに、今すぐ見せつけてやりたい。同じスキル〈才能〉でありながら、雲泥の差があるということを。
「こんな狼っ子調べてたら、噛み付かれちゃいますよ」
「ふにゅ?」
突然話しかけられふくれっ面のまま顔を向けると、衣服が血まみれの無表情な男がキュッリッキを見おろしていた。顔や頭の血は拭われていたが、白衣にはべっとりと黒々とした血が染み付いていて、その姿にギョッとする。
「私はアルケラ研究機関ケレヴィルの研究員をしている、シ・アティウスという」
差し出されたシ・アティウスの手を握り返し、キュッリッキは僅かに首をかしげた。
(アルケラ研究機関?って、なんだろう…)
不思議そうに見上げてくるキュッリッキを見下ろしながら、シ・アティウスはベルトルドから中継された、ソープワート王国軍を消し去った、凄まじい召喚の光景を思い出していた。
「太古には、この世界に実在していたという神の国アルケラ。突如国ごと姿を消し、今となっては召喚スキル〈才能〉を持つ者だけが、アルケラの実在を確認できるだけにとどまっている。もはや空想世界のことだと思われ伝説化されてるが、アルケラが存在していた形跡がこれら遺跡には遺っていてね。そうしたものを調べることを仕事にしている研究機関のことだ」
キュッリッキの疑問を見透かしたように、シ・アティウスは淡々と説明する。
「アルケラのこと、信じてくれているの?」
ぽつりとした呟きに、シ・アティウスは大きく頷いた。
「もちろん信じているとも。そうでなければケレヴィルなどに、勤めたりはしない」
ちょっと考える素振りを見せたあと、キュッリッキは抱えていた小さなフェンリルを持ち上げて、どこか必死に訴える。
「あのね、あのね、アルケラは、ちゃんとあるんだよ。この子だってアルケラから来たし、小鳥たちもだよ。幻じゃないの、アルケラはあるの」
その様子に、初めてシ・アティウスは相好を崩した。
「もちろん我々も信じて研究をしている。そうでなければ、危険な思いをしてまでこの遺跡を調べに来たりしない」
「うん、そうだよね」
キュッリッキも破顔した。
「この皇国には、召喚スキル〈才能〉を持つ者たちがそこそこ集められている。君は宮廷のどの召喚士たちよりも、強い力を秘めているようだね。正直召喚士がそんなに凄いことができるとは、知らなかったくらいだ」
シ・アティウスの背後にひっそりと控えていた他の研究者たちも、そうだそうだと頷きあっていた。
他の召喚士たちを知らないキュッリッキには、やはり違いがピンとこなかった。自分と同じようにアルケラを視て、住人たちと話ができて、通じ合い、こちらの世界に招き寄せられるものだと思っていたから。
いずれ他の召喚士に、会ってみたくなっていた。
「帰ったらケレヴィルの研究施設で、色々調べさせてもらいたい」
「そしたら、他の召喚士とも会うことができる?」
「ああ、会わせてあげるよ」
「うわあ」
キュッリッキの顔が喜びで輝いた。
喜ぶキュッリッキを見つめながら、シ・アティウスはアルカネットから見せられた、彼女の報告書を思い出していた。
不遇な過去を持つこの少女が、フリーの傭兵に身を落とし、類まれな力を振るっている。宮廷の召喚スキル〈才能〉を持つ者たちに、今すぐ見せつけてやりたい。同じスキル〈才能〉でありながら、雲泥の差があるということを。
「こんな狼っ子調べてたら、噛み付かれちゃいますよ」
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