片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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ナルバ山の遺跡編

episode126

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「ギャリー組みとカーティス組み、無事鳥に乗って空に出たよ」

 身じろぎせず、キュッリッキがホッとしたように言った。

「それはよかった」

 メルヴィンは胸をなでおろす。

 本拠地を攻めていた陽動部隊と救出部隊、どちらも戦闘など大変だっただろう。とくにギャリー達救出部隊は、非戦闘員を抱えての脱出だ。それを思うと、早く労ってやりたい。そうメルヴィンは思っていた。

「ライオン傭兵団、噂通りすごいんだね…」

 静かな暗闇の中のぽつりとした呟きに、2人の無言の視線が投げかけられた。

「フリーの傭兵たちの間では、凄い凄いって言われてても、何がどう凄いか知ってるヤツってあんまいなくって」

 クスっとキュッリッキは笑う。

「戦場でかち合うと、生存者が殆どいないせいなんだよね。だからそういう意味では、凄いんだろうなって」

 数ある傭兵団の中でも、上位に君臨する代表的な傭兵団。しかしその実態を、正確に把握している者は殆どいない。こうした傭兵団が、自らの功績を周りに吹聴することはないからだ。風の噂のように彼らの強さが伝えられ、それは広がりとともに過大評価となっていく。だからキュッリッキは何がどう凄いのか、まず彼らの働きを見てみたいと思っていた。

 本来傭兵たちは戦場でこそ、その力量を発揮する。しかし、このご時世そう多く戦争が存在するわけじゃない。食い詰めない為に便利屋稼業として、何でも依頼をこなすのがフリーの傭兵たちの辛いところだ。しかし今回のような一国の軍隊を相手に、これだけのことをやってのける傭兵が、どれだけいるだろう。

 小鳥たちの目を通して、彼らの戦いぶりを色々と見ることができた。持ち前のスキル〈才能〉、戦い方、戦闘力、これまで見てきた傭兵たちとは格が違っていた。個々の戦闘能力が高いからこそ、あれだけの無茶がきく。

 昼間のメルヴィンやガエルの戦いを見て、ゾクゾクとした高揚感があった。そして今もまた、アルイールで暴れる仲間たちの戦いを見て、同じ高揚感に包まれていた。

「あんなに沢山敵がいるのに、ヴァルトもタルコットも楽しそうに倒してるんだもん。いわゆるバトル馬鹿、ってやつなのかなあ」

 メルヴィンはちらりとガエルを見やる。当のガエルは腕を組み、太い笑みを浮かべているだけだった。

「あ、ザカリーとランドンも回収したから、あと30分ほどで合流するよ」

 キュッリッキは僅かに肩の力をそっと抜いて、フェンリルの前脚にもたれかかった。



 昼間とはうってかわり、肌寒くなってきたので、キュッリッキに遺跡に入るようすすめたメルヴィンだが、

「みんなのお出迎えするの」

 そう言われて、ガエルもそのまま残り、3人は皆の到着を待った。

 最初にギャリー達救出部隊を乗せた鳥がやってきて、10分ほど遅れてカーティス達陽動部隊を乗せた鳥が合流した。

「お疲れ様~」

「ご苦労でした」

 キュッリッキたちに出迎えられ、ギャリーたちはワイワイ笑顔で無事を喜び合った。

「ガエル、随分とチートな戦闘を楽しんだそうじゃないか」

 鳥の背をするりと滑り降りながら、タルコットはガエルに掴みかかる勢いで詰め寄った。

「フッ、キューリの支援は最高だった」

 腕を組んだまま、ガエルはニヤリと口の端を歪める。

 そしてヴァルトも鳥の背から飛び降りるなり、

「ずりーぞクマ野郎!!」

 そう叫びながら、ガエルの胸ぐらを掴んだ。

 そうして3人は、何人倒しただの数を競い合いながら、どっちが強いか最強か、などと言い合いを始めるのだった。

(やっぱり、バトル馬鹿なの)

 少し離れて見ていたキュッリッキは、呆れたように心でボソリと呟いた。
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