片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
126 / 882
ナルバ山の遺跡編

episode123

しおりを挟む
 ヴァルトは肩ごしに振り向くと、噛み付きそうな形相のギャリーの、その奥を見て目を輝かせた。

「俺様のペルラ!!!」

 両手を広げ、今にも飛び込んできそうなヴァルトに、ペルラは鬱陶しそうにため息をついた。

 アイオン族のヴァルトは、ネコのトゥーリ族であるペルラにベタ惚れしている。シャム猫のようにシャープな美しさのあるペルラが、大好きで大好きでたまらないヴァルトは、邪険にされようがスルーされようが、それらは全てペルラの愛ゆえ、だと信じて疑っていなかった。

 ペルラは素っ気ない態度をとりつつ、スッとソレル王国兵たちを指差す。

「そこの雑魚どもを、全部片付けてくれ…」

「判った!!」

 ヴァルトの顔が、パッと花開いたように笑顔になった。

 ペルラからお願いされたヴァルトは――周りから見たら体よくあしらわれただけ――元気よく叫ぶと、その場で思いっきり翼を羽ばたかせる。気合が注入された。

 広場に所狭しとすし詰めになっていたソレル王国兵たちが、片手剣を構えながら目を細める。

「あの世まで飛んで行けっ!」

 拳を固く握り締め、ヴァルトは床を蹴って飛び出した。

 手前の兵士の顔面に拳がめり込むと、後ろに居た数十人の兵士も巻き込み豪快に吹っ飛んだ。広場は一気に騒然となる。

 見せ場を奪われたギャリーは、ヴァルトを忌々しげに睨む。

「あのクソッタレめ……。バカはほっといて、俺たちは屋上へいくぞ!」

 ギャリーは舌打ちしながら魔剣シラーを背負い直し、屋上への階段を登った。



 屋上にいる敵を、今度こそ魔剣シラーの剣風で吹き飛ばすと、ギャリーは肩の小鳥に話しかけた。

「キューリ、いつでもいいぜ!!」

『小鳥を軽く宙へ放って』

 すぐさまキュッリッキから応答が返ってくる。

 ギャリーは言われたとおり小鳥を宙に放る。すると、小鳥は淡い銀色の光に包まれ、その小さな身体を巨体に変じて屋上に舞い降りた。

「うっほ……でけえな」

 仰け反るようにして小鳥ならぬ巨鳥を見上げ、ギャリーは口笛を吹いた。

 巨鳥に変じた小鳥は、身をかがめて皆を背中に誘う。

「よし、シビルは防御を張り巡らせながら乗れ。さすがに目立つ。下の奴らが発砲してくるだろうから」

 そう言っている矢先に砲撃が開始された。しかしすぐに1人、2人と砲撃者の数が減っていったが、さすがのザカリーでも数が多すぎて、全て倒しきるのは無理がありそうだった。

 マリオンはシビルを抱えると、すぐさま巨鳥に飛び乗った。

 シビルはそのまま杖に意識を集中して、巨鳥の周りに防御結界を張り巡らせる。下から飛んでくる砲弾は、全て見えない結界の壁に弾かれた。

「みんなぁ、早く乗ってぇ~」

 マリオンがのほほんと声をかけると、呆気にとられていた研究者たちが我に返って、いそいそと巨鳥の背に乗り始めた。

 全員が乗ったことを確認して、ギャリーも飛び乗る。

「いいぜ!」

 それを合図にして、巨鳥は翼を広げ、跳ね上がった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」 ────何言ってんのコイツ? あれ? 私に言ってるんじゃないの? ていうか、ここはどこ? ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ! 推しに会いに行かねばならんのだよ!!

処理中です...