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ナルバ山の遺跡編
episode118
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ヴァルトは巨大な翼を、瞬時に前方で交差させて防御する。無数の砲弾は翼に触れるか触れないかの、スレスレの宙でピタリと止まった。
「返す」
翼が力強く広がると、砲弾が凄いスピードで打ち返され、前方の銃兵士たちが一斉に吹っ飛んだ。
腕組をしてその様子を見ていたヴァルトは、ハッと顔を上げた。
「あー…砲弾で倒しちまった」
ヤッチマッタという表情(かお)で、頬をぽりぽり掻いた。そして前方に人差し指を突きつけると、
「おめーらのせいだかんな!!」
と大声で怒鳴る。
あまりの展開に、そして意味不明の言いがかりを受けて、中隊指揮官は鼻白んだ。
「なんなんだあれは…」
どよめきはいっそう増し、ふいにヴァルトの背後にいた兵士たちが銃を構えた。だがその兵士たちが発砲することはなかった。
粘り気を帯びた、ズルリと嫌な音をいくつも発し、腰の上の胴がバラバラと床に転がったからだ。
下半身だけになった死体は勢いよく血を噴射すると、血飛沫を撒き散らしながら、奇妙なバランスでその場に立ち尽くしていた。その惨状を見た周囲の兵士たちから、恐怖に引き攣れたような悲鳴が上がる。
「こっちくんなよ」
背後に気配を感じ、ヴァルトは不機嫌な声をかける。
「ちゃんと見ていたからな。アレは、カウントに入らない」
「ちぇっ」
頭髪と身につけているものは全て漆黒。夕闇の中でも妖艶に浮かび上がる白い顔が、ニヤリと美麗な口元に広がった。
ライオン傭兵団の名物の一つ、美人双璧と言われるタルコットだ。ちなみにもう一人はヴァルトである。
タルコットは手にしていた真っ黒な大鎌を軽くひとふりすると、ヴァルトと背中合わせに立つ。
「敷地の外と中、どっちがいい?」
「なか」
「では、ボクは外をやる」
「おう」
「あひゃひゃ、死体処理が大変そーだねえ」
走りながらマリオンがのほほんと呟くと、ギャリーが大笑いした。
「こんだけ動員したソレルが悪いんじゃね」
「まあ…手を出したのはソレル王国側ですしね…」
シビルがマリオンの腕の中でぼやいた。
ギャリーとペルラを先頭に、マリオンとシビルがあとに続く。
先を走るペルラとギャリーが、短剣を使って器用に兵士たちの喉元を裂いて倒していく。
カーティスら陽動部隊が始めた戦闘の騒ぎに乗じて施設への侵入を果たすため、手薄なところから建物を目指していた。
3個中隊もいるので、騒ぎの中心から外に向かうほど手薄にはなっていくが、建物を守る兵士たちはその場を動かず警備しているので、見つかれば戦闘をしないわけにはいかない。ヴァルトたちもまだこちらまでは進められていないようだった。
「体力温存しときたいな。マリオン」
一旦止まると、ギャリーはマリオンを振り返った。
「おっけ~い」
マリオンの腕からシビルが飛び降りると、腰に下げていた小さな竪琴を取り出す。
「いっくわよ~ん」
軽く弦をつま弾くと、マリオンを中心にして、目には見えない音の波が、円を描くようにして広がった。すると、周囲に配備されていた兵士たちが呻き声をあげながら、急にバタバタと倒れだした。
倒れた兵士たちは皆、耳から血を流し白目を剥いている。中には泡をふいている者もいた。
楽器の音とサイ〈超能力〉を合わせた、広範囲に影響力のある音波攻撃である。
「鼓膜が破れる音波攻撃、もういっちょ~」
マリオンは更につま弾いた。
「返す」
翼が力強く広がると、砲弾が凄いスピードで打ち返され、前方の銃兵士たちが一斉に吹っ飛んだ。
腕組をしてその様子を見ていたヴァルトは、ハッと顔を上げた。
「あー…砲弾で倒しちまった」
ヤッチマッタという表情(かお)で、頬をぽりぽり掻いた。そして前方に人差し指を突きつけると、
「おめーらのせいだかんな!!」
と大声で怒鳴る。
あまりの展開に、そして意味不明の言いがかりを受けて、中隊指揮官は鼻白んだ。
「なんなんだあれは…」
どよめきはいっそう増し、ふいにヴァルトの背後にいた兵士たちが銃を構えた。だがその兵士たちが発砲することはなかった。
粘り気を帯びた、ズルリと嫌な音をいくつも発し、腰の上の胴がバラバラと床に転がったからだ。
下半身だけになった死体は勢いよく血を噴射すると、血飛沫を撒き散らしながら、奇妙なバランスでその場に立ち尽くしていた。その惨状を見た周囲の兵士たちから、恐怖に引き攣れたような悲鳴が上がる。
「こっちくんなよ」
背後に気配を感じ、ヴァルトは不機嫌な声をかける。
「ちゃんと見ていたからな。アレは、カウントに入らない」
「ちぇっ」
頭髪と身につけているものは全て漆黒。夕闇の中でも妖艶に浮かび上がる白い顔が、ニヤリと美麗な口元に広がった。
ライオン傭兵団の名物の一つ、美人双璧と言われるタルコットだ。ちなみにもう一人はヴァルトである。
タルコットは手にしていた真っ黒な大鎌を軽くひとふりすると、ヴァルトと背中合わせに立つ。
「敷地の外と中、どっちがいい?」
「なか」
「では、ボクは外をやる」
「おう」
「あひゃひゃ、死体処理が大変そーだねえ」
走りながらマリオンがのほほんと呟くと、ギャリーが大笑いした。
「こんだけ動員したソレルが悪いんじゃね」
「まあ…手を出したのはソレル王国側ですしね…」
シビルがマリオンの腕の中でぼやいた。
ギャリーとペルラを先頭に、マリオンとシビルがあとに続く。
先を走るペルラとギャリーが、短剣を使って器用に兵士たちの喉元を裂いて倒していく。
カーティスら陽動部隊が始めた戦闘の騒ぎに乗じて施設への侵入を果たすため、手薄なところから建物を目指していた。
3個中隊もいるので、騒ぎの中心から外に向かうほど手薄にはなっていくが、建物を守る兵士たちはその場を動かず警備しているので、見つかれば戦闘をしないわけにはいかない。ヴァルトたちもまだこちらまでは進められていないようだった。
「体力温存しときたいな。マリオン」
一旦止まると、ギャリーはマリオンを振り返った。
「おっけ~い」
マリオンの腕からシビルが飛び降りると、腰に下げていた小さな竪琴を取り出す。
「いっくわよ~ん」
軽く弦をつま弾くと、マリオンを中心にして、目には見えない音の波が、円を描くようにして広がった。すると、周囲に配備されていた兵士たちが呻き声をあげながら、急にバタバタと倒れだした。
倒れた兵士たちは皆、耳から血を流し白目を剥いている。中には泡をふいている者もいた。
楽器の音とサイ〈超能力〉を合わせた、広範囲に影響力のある音波攻撃である。
「鼓膜が破れる音波攻撃、もういっちょ~」
マリオンは更につま弾いた。
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