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ナルバ山の遺跡編
episode115
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太陽が西に傾きかけた頃、かろうじてそれが建物である、という程度に原型をとどめた遺跡に、しなやかな影がひらりと舞い降りた。シルエットはネコの耳と尻尾を象っていた。
「おっつ、ペルラ。どうだったよ?」
柱のひとつにもたれかかったまま、ギャリーは戻ってきたペルラに声をかけた。
「西の方にある軍事施設の一つに拘禁されていた。取り調べを受けながら、VIP並に厚遇されてる。1人だけ救出ならともかく、今のままだと5人は無理」
ペルラは細い肩をすくめ、気位が高そうな尻尾をユラユラと揺らした。
「そっかあ……めんどくせぇ」
ギャリーはカシカシっと髪を掻き毟ると、海を眺めていたシビルを手招きした。
「カーティス呼び出してくれ」
「あいよ」
シビルは肩に乗る小鳥を掌に乗せて、小鳥の頭を優しく3回叩く。キュッリッキから渡された連絡用の小鳥だ。見た目は黄色い羽根の、ルリビタキのような姿をしている。
〈はいはい、こちらカーティスです〉
「ペルラに偵察してきてもらったんだが、あまりにも警備が厳重すぎて、こっそり頂戴作戦は、無理ぽそーだぜ」
〈やはりそうですか…〉
ソレル王国に不当に拘束された皇国の研究者たちを救出するため、カーティスとギャリーは、それぞれ仲間を率いて二手にわかれて機会を伺っていた。カーティスは陽動部隊の指揮、ギャリーは救出部隊の指揮だ。
手当たり次第無闇に関連施設を襲わなくて済むように、ギャリーは偵察の得意なペルラに現地を探らせに行かせていた。
あまり大事にすると後々面倒なので、無用な戦闘を避け、救出に専念したいところだが、そういう状況ではないようだった。
「そーいや、ブルニタルから連絡があったが、あっちはとっくに終わってるそうじゃないか」
〈そうなんですよ。先ほどベルトルド卿からも「早くしろ」とケツを蹴られた次第です〉
「げっ……」
その場に複数のため息が流れた。現場を知らず早くしろとせっつかれても、困るところである。もっとも、その場にベルトルドがいたら、一人で全て片付けてしまう力があることを、皆知っている。もちろん、大破壊の上で、だ。
「市街地戦になっちまうよな。動きの悪すぎる研究者5名抱えて、ナルバ山までトコトコ走っても半日はかかるだろ。どうするよ」
ギャリーはかったるそうに、小鳥の向こうにいるカーティスに投げかける。
〈助けるのはいいんですが、逃げる時なんですよねぇ…〉
逃走手段の案に手詰まり、ギャリーとカーティスが同時に黙る。助けることはあまり問題ではないが、助けたあとの移動手段が大問題なのだ。ライオン傭兵団だけでなら、いかようにも逃げられるが、研究者たちが足を引っ張っている。
無言で唸るギャリーとカーティスの沈黙を破るように、小さく「あ」とマリオンが声をあげた。
「ねぇねぇ、キューリちゃんにSOSしようよぉ~」
「キューリにこっちきてもらうのか?」
「いやいや。この小鳥をでぇっかくしてもらってさあ、逃げるときぃ、みんな乗ってサラバ! ってやれないかなあ~。だってぇナルバ山組は、おーっきな鳥に乗って移動もスイスイ~だったんでしょぉ」
「らしいけどよ、キューリここにいないのに、そんなことできるのか?」
「しぃらなあ~い」
マリオンは間延びした声で無責任に言い放った。しかしカーティスはその案が気に入ったようだ。
〈うん、そのアイデア悪くないですね。ちょっとキューリさんに聴いてみましょうか〉
「おっつ、ペルラ。どうだったよ?」
柱のひとつにもたれかかったまま、ギャリーは戻ってきたペルラに声をかけた。
「西の方にある軍事施設の一つに拘禁されていた。取り調べを受けながら、VIP並に厚遇されてる。1人だけ救出ならともかく、今のままだと5人は無理」
ペルラは細い肩をすくめ、気位が高そうな尻尾をユラユラと揺らした。
「そっかあ……めんどくせぇ」
ギャリーはカシカシっと髪を掻き毟ると、海を眺めていたシビルを手招きした。
「カーティス呼び出してくれ」
「あいよ」
シビルは肩に乗る小鳥を掌に乗せて、小鳥の頭を優しく3回叩く。キュッリッキから渡された連絡用の小鳥だ。見た目は黄色い羽根の、ルリビタキのような姿をしている。
〈はいはい、こちらカーティスです〉
「ペルラに偵察してきてもらったんだが、あまりにも警備が厳重すぎて、こっそり頂戴作戦は、無理ぽそーだぜ」
〈やはりそうですか…〉
ソレル王国に不当に拘束された皇国の研究者たちを救出するため、カーティスとギャリーは、それぞれ仲間を率いて二手にわかれて機会を伺っていた。カーティスは陽動部隊の指揮、ギャリーは救出部隊の指揮だ。
手当たり次第無闇に関連施設を襲わなくて済むように、ギャリーは偵察の得意なペルラに現地を探らせに行かせていた。
あまり大事にすると後々面倒なので、無用な戦闘を避け、救出に専念したいところだが、そういう状況ではないようだった。
「そーいや、ブルニタルから連絡があったが、あっちはとっくに終わってるそうじゃないか」
〈そうなんですよ。先ほどベルトルド卿からも「早くしろ」とケツを蹴られた次第です〉
「げっ……」
その場に複数のため息が流れた。現場を知らず早くしろとせっつかれても、困るところである。もっとも、その場にベルトルドがいたら、一人で全て片付けてしまう力があることを、皆知っている。もちろん、大破壊の上で、だ。
「市街地戦になっちまうよな。動きの悪すぎる研究者5名抱えて、ナルバ山までトコトコ走っても半日はかかるだろ。どうするよ」
ギャリーはかったるそうに、小鳥の向こうにいるカーティスに投げかける。
〈助けるのはいいんですが、逃げる時なんですよねぇ…〉
逃走手段の案に手詰まり、ギャリーとカーティスが同時に黙る。助けることはあまり問題ではないが、助けたあとの移動手段が大問題なのだ。ライオン傭兵団だけでなら、いかようにも逃げられるが、研究者たちが足を引っ張っている。
無言で唸るギャリーとカーティスの沈黙を破るように、小さく「あ」とマリオンが声をあげた。
「ねぇねぇ、キューリちゃんにSOSしようよぉ~」
「キューリにこっちきてもらうのか?」
「いやいや。この小鳥をでぇっかくしてもらってさあ、逃げるときぃ、みんな乗ってサラバ! ってやれないかなあ~。だってぇナルバ山組は、おーっきな鳥に乗って移動もスイスイ~だったんでしょぉ」
「らしいけどよ、キューリここにいないのに、そんなことできるのか?」
「しぃらなあ~い」
マリオンは間延びした声で無責任に言い放った。しかしカーティスはその案が気に入ったようだ。
〈うん、そのアイデア悪くないですね。ちょっとキューリさんに聴いてみましょうか〉
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