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ナルバ山の遺跡編
episode110
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エグザイル・システムとは、物質転送装置のことを言う。
半径1メートルほどの黒い石造りの円台座に、短い銀の支柱のようなものが3本立っている。台座の中心にはその惑星の地図が彫り込まれていて、エグザイル・システムが置かれている地に、スイッチのような突起がある。そのスイッチを踏めば、台座に乗っているものは、全てそこに飛ぶようになっていた。
惑星間を移動する場合は、銀の支柱に触れればよく、支柱はそれぞれ惑星ヒイシ、惑星ペッコ、惑星タピオをあらわしていた。
惑星間移動では、それぞれの惑星で必ず玄関口となる地に飛ぶ。そこから同じ要領で飛びたい地を選択すれば良い。そして惑星間を移動できる手段は、このエグザイル・システムしかなく、現在宇宙を航行する技術もなければ、空を飛ぶ技術すらない。
この優れた技術は、現代の技術者では作り出せない。遠い過去、超古代文明と呼ばれる1万年前も昔の人々が、開発した技術と言われていた。
しかしこれはどう見ても、皆がよく知るエグザイル・システムではない。
「シ・アティウス氏は、何故これを、エグザイル・システムのようなもの、と言ったのでしょうか…」
ブルニタルは眉間にしわを寄せた。
半円型の台座に、ガラスなのか水晶なのか、柩のようなケースが立てられている。ケースの中身はなにもなく、台座には地図もなにも掘られていないし、銀の支柱もない。
シンプルな見た目といい、通常のエグザイル・システムとは似て非なるものだ。
これ以上見ていても収穫がないと呟き、ブルニタルは軽く首を振った。
「取り敢えずベルトルド氏に、連絡を入れましょうか」
ブルニタルは肩にとまっている小鳥を自分の指に移らせると、小鳥の頭を優しく3回叩いて呼びかけた。
小鳥は瞬きもせず沈黙していたが、やがて嘴から尊大溢れる男の声が応じた。
「お忙しいところすみません、ブルニタルです。例のエグザイル・システムのようなものの前に居ます」
〈早いな。こちらの予想では、明日になると踏んでいたのだが〉
ベルトルドの声が、僅かに驚きを含んでいた。
「キューリさんのお陰で、色々手際よく進みましたから」
〈なるほど。――そこにリッキーは居るか?〉
「いえ、彼女は神殿の外で待機しています。なにやら神殿に入るのを、とても怖がってしまっていて」
〈ほう……?〉
ベルトルドは考え込んだように沈黙した。
〈……まあ、そばに居ないのでは、声を聞くことも、褒めてやることもできんな。残念だ〉
たっぷり間を空けたあと、ベルトルドは心底残念そうに呟いた。黙って聞いているブルニタルとメルヴィンの表情が、嫌そうに露骨に歪む。
(何故そこで残念そうに言うんだろう、このひとは…)
(ガキの使いじゃあるまいし)
各々胸中で本音を吐露する。そして驚きの表情を貼り付けたハドリーも、
(本当に、気に入られてるのかリッキー…)
胸の内で仰天していた。
〈これだけ早いと、カーティスたちがまだ救出も出来ていないだろう。そこを死守して、奴らが合流するのを待っていろ〉
「判りました」
〈それと〉
「はい」
〈リッキーが嫌がるなら、絶対に無理強いはするなよ〉
「……はい」
それでベルトルドとの通信は切れた。小鳥は沈黙し、自らブルニタルの肩に戻った。
半径1メートルほどの黒い石造りの円台座に、短い銀の支柱のようなものが3本立っている。台座の中心にはその惑星の地図が彫り込まれていて、エグザイル・システムが置かれている地に、スイッチのような突起がある。そのスイッチを踏めば、台座に乗っているものは、全てそこに飛ぶようになっていた。
惑星間を移動する場合は、銀の支柱に触れればよく、支柱はそれぞれ惑星ヒイシ、惑星ペッコ、惑星タピオをあらわしていた。
惑星間移動では、それぞれの惑星で必ず玄関口となる地に飛ぶ。そこから同じ要領で飛びたい地を選択すれば良い。そして惑星間を移動できる手段は、このエグザイル・システムしかなく、現在宇宙を航行する技術もなければ、空を飛ぶ技術すらない。
この優れた技術は、現代の技術者では作り出せない。遠い過去、超古代文明と呼ばれる1万年前も昔の人々が、開発した技術と言われていた。
しかしこれはどう見ても、皆がよく知るエグザイル・システムではない。
「シ・アティウス氏は、何故これを、エグザイル・システムのようなもの、と言ったのでしょうか…」
ブルニタルは眉間にしわを寄せた。
半円型の台座に、ガラスなのか水晶なのか、柩のようなケースが立てられている。ケースの中身はなにもなく、台座には地図もなにも掘られていないし、銀の支柱もない。
シンプルな見た目といい、通常のエグザイル・システムとは似て非なるものだ。
これ以上見ていても収穫がないと呟き、ブルニタルは軽く首を振った。
「取り敢えずベルトルド氏に、連絡を入れましょうか」
ブルニタルは肩にとまっている小鳥を自分の指に移らせると、小鳥の頭を優しく3回叩いて呼びかけた。
小鳥は瞬きもせず沈黙していたが、やがて嘴から尊大溢れる男の声が応じた。
「お忙しいところすみません、ブルニタルです。例のエグザイル・システムのようなものの前に居ます」
〈早いな。こちらの予想では、明日になると踏んでいたのだが〉
ベルトルドの声が、僅かに驚きを含んでいた。
「キューリさんのお陰で、色々手際よく進みましたから」
〈なるほど。――そこにリッキーは居るか?〉
「いえ、彼女は神殿の外で待機しています。なにやら神殿に入るのを、とても怖がってしまっていて」
〈ほう……?〉
ベルトルドは考え込んだように沈黙した。
〈……まあ、そばに居ないのでは、声を聞くことも、褒めてやることもできんな。残念だ〉
たっぷり間を空けたあと、ベルトルドは心底残念そうに呟いた。黙って聞いているブルニタルとメルヴィンの表情が、嫌そうに露骨に歪む。
(何故そこで残念そうに言うんだろう、このひとは…)
(ガキの使いじゃあるまいし)
各々胸中で本音を吐露する。そして驚きの表情を貼り付けたハドリーも、
(本当に、気に入られてるのかリッキー…)
胸の内で仰天していた。
〈これだけ早いと、カーティスたちがまだ救出も出来ていないだろう。そこを死守して、奴らが合流するのを待っていろ〉
「判りました」
〈それと〉
「はい」
〈リッキーが嫌がるなら、絶対に無理強いはするなよ〉
「……はい」
それでベルトルドとの通信は切れた。小鳥は沈黙し、自らブルニタルの肩に戻った。
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