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ナルバ山の遺跡編
episode109
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ブルニタルが率先して神殿に足を踏み入れる。ハドリー、メルヴィン、ガエルが後に続いた。
「ね……え」
それまで口を挟まずおとなしくしていたキュッリッキが、フェンリルを抱きしめたまま身をこわばらせ、上ずった声で4人を呼び止めた。愛らしいまでの表情が、明らかに沈んで強ばっている。
「あのね…、アタシ、ここで待っててもいい?」
「どうしたんです?」
不思議そうに目を瞬かせ、ブルニタルは首をかしげる。
「えっと……」
細い肩が僅かに頼りなげに震えた。
「なんか、神殿に入るの怖い…の」
「灯りも持っていくし、大丈夫ですよ?」
ブルニタルは呆れたように首をかしげた。それでもキュッリッキは、足がすくんだようにその場から動かず、足元に視線を貼り付けていた。
なおも言い募ろうとブルニタルが口を開く前に、ハドリーがブルニタルの肩を掴んだ。
「なあ、どうしてもリッキーも連れて行かないとダメなのか?」
「……いえ、とくには」
「なら俺たちだけで行こう。ファニーのやつも目を覚ますかもしれないし、誰もいないんじゃ可哀想だしな」
キュッリッキがああいう態度に出るときは、きまって何かを敏感に感じ取っていることを、ハドリーは知っている。そして無理強いしないほうがいいことも判っていた。
ハドリーはいつも見せる、ほんわかした表情をキュッリッキに向けた。
「ファニーが目を覚ましたら、ちゃんと説明してやるんだぞ」
「う、うん」
ハドリーはキュッリッキに優しく笑んで、3人を促して神殿に入っていった。留守番していられることになり、キュッリッキは心底安堵する。
「よかった…」
ぽつりと呟き4人を見送ったあと、キュッリッキは寝ているファニーのそばに座り込んで、神殿の入口を怖々見つめた。
「なんでこんなに”怖い”って、思うのかなあ……」
腕の中のフェンリルも、困ったように鼻を鳴らした。
神殿の中は極めて単純で、長方形をやや細長くしただけの、箱のような作りをしている。内装も殆どしておらず、石を積み上げ敷き詰めただけの、味気ないものだった。芸術的価値を無理に見出そうとするなら、円筒に削られた石の柱だけだろうか。
「これじゃあ迷いようがありませんね…」
ブルニタルはややつまらなさそうに、見たままの感想を述べた。もっと好奇心を掻き立てられるものを期待していたのに。
「本当ですね…」
頷きながらメルヴィンも同意する。入口からただ一直線に歩いてるだけだった。これなら案内は必要ない。ハドリーもそれが判っていて、申し訳なさそうに肩をすくめた。
「あんたらの言ってたエグザイル・システムのようなもの、とやらは、多分それのことだろう」
ハドリーが前方を指すと、ほのかな灯りにうっそりと浮かんだ先には、祭壇のようなものが見えてきた。
「これがエグザイル・システムのようなもの…ですか?」
間近で見るそれは、彼らの知っているエグザイル・システムとは、明らかに異なるものだった。
「ね……え」
それまで口を挟まずおとなしくしていたキュッリッキが、フェンリルを抱きしめたまま身をこわばらせ、上ずった声で4人を呼び止めた。愛らしいまでの表情が、明らかに沈んで強ばっている。
「あのね…、アタシ、ここで待っててもいい?」
「どうしたんです?」
不思議そうに目を瞬かせ、ブルニタルは首をかしげる。
「えっと……」
細い肩が僅かに頼りなげに震えた。
「なんか、神殿に入るの怖い…の」
「灯りも持っていくし、大丈夫ですよ?」
ブルニタルは呆れたように首をかしげた。それでもキュッリッキは、足がすくんだようにその場から動かず、足元に視線を貼り付けていた。
なおも言い募ろうとブルニタルが口を開く前に、ハドリーがブルニタルの肩を掴んだ。
「なあ、どうしてもリッキーも連れて行かないとダメなのか?」
「……いえ、とくには」
「なら俺たちだけで行こう。ファニーのやつも目を覚ますかもしれないし、誰もいないんじゃ可哀想だしな」
キュッリッキがああいう態度に出るときは、きまって何かを敏感に感じ取っていることを、ハドリーは知っている。そして無理強いしないほうがいいことも判っていた。
ハドリーはいつも見せる、ほんわかした表情をキュッリッキに向けた。
「ファニーが目を覚ましたら、ちゃんと説明してやるんだぞ」
「う、うん」
ハドリーはキュッリッキに優しく笑んで、3人を促して神殿に入っていった。留守番していられることになり、キュッリッキは心底安堵する。
「よかった…」
ぽつりと呟き4人を見送ったあと、キュッリッキは寝ているファニーのそばに座り込んで、神殿の入口を怖々見つめた。
「なんでこんなに”怖い”って、思うのかなあ……」
腕の中のフェンリルも、困ったように鼻を鳴らした。
神殿の中は極めて単純で、長方形をやや細長くしただけの、箱のような作りをしている。内装も殆どしておらず、石を積み上げ敷き詰めただけの、味気ないものだった。芸術的価値を無理に見出そうとするなら、円筒に削られた石の柱だけだろうか。
「これじゃあ迷いようがありませんね…」
ブルニタルはややつまらなさそうに、見たままの感想を述べた。もっと好奇心を掻き立てられるものを期待していたのに。
「本当ですね…」
頷きながらメルヴィンも同意する。入口からただ一直線に歩いてるだけだった。これなら案内は必要ない。ハドリーもそれが判っていて、申し訳なさそうに肩をすくめた。
「あんたらの言ってたエグザイル・システムのようなもの、とやらは、多分それのことだろう」
ハドリーが前方を指すと、ほのかな灯りにうっそりと浮かんだ先には、祭壇のようなものが見えてきた。
「これがエグザイル・システムのようなもの…ですか?」
間近で見るそれは、彼らの知っているエグザイル・システムとは、明らかに異なるものだった。
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