片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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ナルバ山の遺跡編

episode106

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「うわー…、すっごーい」

 あまり広くない穴の中を小走りに通ってくると、大きく開かれた場所に出て、キュッリッキは思わず声を上げた。見上げる天井は、暗くなっていて見えない。

「空洞の中に、こんな立派な遺跡があるとは」

 ブルニタルも感嘆しきったように、辺りを見回している。

 山に穴を開けて掘り進み、このような広大な空洞を作ったのだろうか。しかし、何のために。

 捕らえられた研究者たちか、あるいはソレル王国兵によってか、照明が随所に設置されているので、広場の中は明るい。そのぶん高い天井が暗くなっていて、どのくらいの高さがあるのか判らなかった。

 厳かな石造りの神殿が、空洞の中の半分を埋めている。惑星ヒイシのいたるところで発見される、遺跡と同じ形のものだ。正面を見ると、長方形の箱のような形をしているのだろう。それ囲むようにして柱が並ぶ周柱式神殿のようだ。

 どんな神が祀られていたのか、それすら判っていないほどの古代の遺物。ブルニタルは独りごちるように呟いていた。

 ブルニタルのスキル〈才能〉は”記憶”である。一度でも目にし、耳にし、口にし、体験したものは二度と忘れない。絶対的な信頼性に基づくもので、この記憶スキル〈才能〉持ちは様々な場所で活躍している。

 しかし何故かブルニタルは、その記憶スキル〈才能〉のスペシャリストであるはずなのに、いつも小さな手帳にメモを取る癖がある。そのことを不思議に思ったキュッリッキが、少し前にツッコんだことがあった。

「いくら記憶スキル〈才能〉があるといっても、動揺していたり感情が昂ぶったり追い詰められると、うまく記憶を辿れないことがあるので、本当に大事なことや重要なことは、メモをとるようにしているんです」

 そう真面目くさって説明してくれたことがある。

 随分デリケートなスキル〈才能〉なんだね、とキュッリッキは苦笑したのだった。

 4人が神殿に見入っていると、キュッリッキの腕の中からフェンリルが飛び出し、奥を目指して駆け出してしまった。

「あれ、フェンリルどこいくの!?」

 驚いたキュッリッキが慌てて追う。気づいたメルヴィンも、キュッリッキを追いかけた。

 広場の奥にはさらに穴があり、そこにフェンリルは飛び込んだ。そしてすぐ出てきてキュッリッキのほうを向くと、フサ、フサ、と尻尾を振った。

「なんか見つけたっぽい」

 穴の手前で止まり、尻尾を振るフェンリルを抱き上げる。

「いいもの見つけたの?」

 目線の高さに抱き上げて問いかけた。

 キュッリッキの目をじっと見て、フェンリルは鼻をひくつかせた。

「誰か居るんだね」

 その様子を後ろで黙って見ていたメルヴィンは、手近にあった篝に入っていた木の棒を取り出し火をつけると、キュッリッキを背後に庇うように立って、先に穴の中に踏み込んだ。穴の中は真っ暗だ。

「先に行きますので、着いてきてくださいね」

「はーい」

 キュッリッキは素直に返事をすると、メルヴィンの背に張り付くようにして進んだ。
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