109 / 882
ナルバ山の遺跡編
episode106
しおりを挟む
「うわー…、すっごーい」
あまり広くない穴の中を小走りに通ってくると、大きく開かれた場所に出て、キュッリッキは思わず声を上げた。見上げる天井は、暗くなっていて見えない。
「空洞の中に、こんな立派な遺跡があるとは」
ブルニタルも感嘆しきったように、辺りを見回している。
山に穴を開けて掘り進み、このような広大な空洞を作ったのだろうか。しかし、何のために。
捕らえられた研究者たちか、あるいはソレル王国兵によってか、照明が随所に設置されているので、広場の中は明るい。そのぶん高い天井が暗くなっていて、どのくらいの高さがあるのか判らなかった。
厳かな石造りの神殿が、空洞の中の半分を埋めている。惑星ヒイシのいたるところで発見される、遺跡と同じ形のものだ。正面を見ると、長方形の箱のような形をしているのだろう。それ囲むようにして柱が並ぶ周柱式神殿のようだ。
どんな神が祀られていたのか、それすら判っていないほどの古代の遺物。ブルニタルは独りごちるように呟いていた。
ブルニタルのスキル〈才能〉は”記憶”である。一度でも目にし、耳にし、口にし、体験したものは二度と忘れない。絶対的な信頼性に基づくもので、この記憶スキル〈才能〉持ちは様々な場所で活躍している。
しかし何故かブルニタルは、その記憶スキル〈才能〉のスペシャリストであるはずなのに、いつも小さな手帳にメモを取る癖がある。そのことを不思議に思ったキュッリッキが、少し前にツッコんだことがあった。
「いくら記憶スキル〈才能〉があるといっても、動揺していたり感情が昂ぶったり追い詰められると、うまく記憶を辿れないことがあるので、本当に大事なことや重要なことは、メモをとるようにしているんです」
そう真面目くさって説明してくれたことがある。
随分デリケートなスキル〈才能〉なんだね、とキュッリッキは苦笑したのだった。
4人が神殿に見入っていると、キュッリッキの腕の中からフェンリルが飛び出し、奥を目指して駆け出してしまった。
「あれ、フェンリルどこいくの!?」
驚いたキュッリッキが慌てて追う。気づいたメルヴィンも、キュッリッキを追いかけた。
広場の奥にはさらに穴があり、そこにフェンリルは飛び込んだ。そしてすぐ出てきてキュッリッキのほうを向くと、フサ、フサ、と尻尾を振った。
「なんか見つけたっぽい」
穴の手前で止まり、尻尾を振るフェンリルを抱き上げる。
「いいもの見つけたの?」
目線の高さに抱き上げて問いかけた。
キュッリッキの目をじっと見て、フェンリルは鼻をひくつかせた。
「誰か居るんだね」
その様子を後ろで黙って見ていたメルヴィンは、手近にあった篝に入っていた木の棒を取り出し火をつけると、キュッリッキを背後に庇うように立って、先に穴の中に踏み込んだ。穴の中は真っ暗だ。
「先に行きますので、着いてきてくださいね」
「はーい」
キュッリッキは素直に返事をすると、メルヴィンの背に張り付くようにして進んだ。
あまり広くない穴の中を小走りに通ってくると、大きく開かれた場所に出て、キュッリッキは思わず声を上げた。見上げる天井は、暗くなっていて見えない。
「空洞の中に、こんな立派な遺跡があるとは」
ブルニタルも感嘆しきったように、辺りを見回している。
山に穴を開けて掘り進み、このような広大な空洞を作ったのだろうか。しかし、何のために。
捕らえられた研究者たちか、あるいはソレル王国兵によってか、照明が随所に設置されているので、広場の中は明るい。そのぶん高い天井が暗くなっていて、どのくらいの高さがあるのか判らなかった。
厳かな石造りの神殿が、空洞の中の半分を埋めている。惑星ヒイシのいたるところで発見される、遺跡と同じ形のものだ。正面を見ると、長方形の箱のような形をしているのだろう。それ囲むようにして柱が並ぶ周柱式神殿のようだ。
どんな神が祀られていたのか、それすら判っていないほどの古代の遺物。ブルニタルは独りごちるように呟いていた。
ブルニタルのスキル〈才能〉は”記憶”である。一度でも目にし、耳にし、口にし、体験したものは二度と忘れない。絶対的な信頼性に基づくもので、この記憶スキル〈才能〉持ちは様々な場所で活躍している。
しかし何故かブルニタルは、その記憶スキル〈才能〉のスペシャリストであるはずなのに、いつも小さな手帳にメモを取る癖がある。そのことを不思議に思ったキュッリッキが、少し前にツッコんだことがあった。
「いくら記憶スキル〈才能〉があるといっても、動揺していたり感情が昂ぶったり追い詰められると、うまく記憶を辿れないことがあるので、本当に大事なことや重要なことは、メモをとるようにしているんです」
そう真面目くさって説明してくれたことがある。
随分デリケートなスキル〈才能〉なんだね、とキュッリッキは苦笑したのだった。
4人が神殿に見入っていると、キュッリッキの腕の中からフェンリルが飛び出し、奥を目指して駆け出してしまった。
「あれ、フェンリルどこいくの!?」
驚いたキュッリッキが慌てて追う。気づいたメルヴィンも、キュッリッキを追いかけた。
広場の奥にはさらに穴があり、そこにフェンリルは飛び込んだ。そしてすぐ出てきてキュッリッキのほうを向くと、フサ、フサ、と尻尾を振った。
「なんか見つけたっぽい」
穴の手前で止まり、尻尾を振るフェンリルを抱き上げる。
「いいもの見つけたの?」
目線の高さに抱き上げて問いかけた。
キュッリッキの目をじっと見て、フェンリルは鼻をひくつかせた。
「誰か居るんだね」
その様子を後ろで黙って見ていたメルヴィンは、手近にあった篝に入っていた木の棒を取り出し火をつけると、キュッリッキを背後に庇うように立って、先に穴の中に踏み込んだ。穴の中は真っ暗だ。
「先に行きますので、着いてきてくださいね」
「はーい」
キュッリッキは素直に返事をすると、メルヴィンの背に張り付くようにして進んだ。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

公爵家に生まれて初日に跡継ぎ失格の烙印を押されましたが今日も元気に生きてます!
小択出新都
ファンタジー
異世界に転生して公爵家の娘に生まれてきたエトワだが、魔力をほとんどもたずに生まれてきたため、生後0ヶ月で跡継ぎ失格の烙印を押されてしまう。
跡継ぎ失格といっても、すぐに家を追い出されたりはしないし、学校にも通わせてもらえるし、15歳までに家を出ればいいから、まあ恵まれてるよね、とのんきに暮らしていたエトワ。
だけど跡継ぎ問題を解決するために、分家から同い年の少年少女たちからその候補が選ばれることになり。
彼らには試練として、エトワ(ともたされた家宝、むしろこっちがメイン)が15歳になるまでの護衛役が命ぜられることになった。
仮の主人というか、実質、案山子みたいなものとして、彼らに護衛されることになったエトワだが、一癖ある男の子たちから、素直な女の子までいろんな子がいて、困惑しつつも彼らの成長を見守ることにするのだった。
聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!
山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」
────何言ってんのコイツ?
あれ? 私に言ってるんじゃないの?
ていうか、ここはどこ?
ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ!
推しに会いに行かねばならんのだよ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる