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ナルバ山の遺跡編
episode103
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フェンリルに乗って、戦場の状況を後方から見ているキュッリッキは、ある程度二人が前進したら、そこへ闇の沼を召喚し、死体を全て飲み込ませた。闇の沼はあまりの死体の多さに愉悦し、真っ黒なタールのような身体を波打たせて大きく揺れた。
「以前見せてもらった、ソープワート軍を飲み込んだものですね…」
ゲッソリした声でブルニタルが呟くと、キュッリッキは頷く。
「こんなにじめじめ暑いんじゃ、すぐ腐って異臭が酷そうだしね。お掃除、お掃除」
周囲の死体は消えたが、異臭はまだその場に漂っている。鼻を突いてくる異臭に、ブルニタルは胃の辺りを抑えながら、前に座るキュッリッキに視線を向けた。
「あんなに多くの死体を見ても、大丈夫なんですか…」
床に落ちてる紙くずを掃除するかのような口調のキュッリッキに、ブルニタルは非難するような目を向ける。不謹慎に聞こえるのだ。
「見てて気持ちのいいもんじゃないけど、見慣れてるもん。戦場だったらアタリマエの光景でしょ」
幼い頃から、こんなものを見て育った。傭兵の道を歩いてきたキュッリッキにとっては、これが普通なのだ。死体を見て恐れを抱くような感情は、とっくの昔に卒業済みだった。
「私はここまで、凄い場面を見たことがありませんから……」
ふいっと視線を反らせる。
「そっか」
ブルニタルの知識は深く、情報分析なども的確にこなしていたが、現場を知らずに上辺の知識しかないのかな、そうキュッリッキは思った。
(アタシは、もう麻痺しちゃったもん。子供の頃に…)
そうしないと、とても生きていけなかったから。心ももたなかったから。
「まあ……無理に見慣れなくてもいいけどね、こんなもん。――吐くんだったら後ろ向いてお願いね?」
ブルニタルはこらえきれずに後ろを向き、フェンリルに被害が及ばないように吐瀉した。
数十分が過ぎ、ソレル王国兵達の姿もまばらになっていった。中には混乱に乗じて敵前逃亡する者もいたが、そこを見逃すキュッリッキではなく、フェンリルの前脚で無残に殴り殺されるだけだった。
キュッリッキが後方で後始末をしながら残飯処理も行っていることで、ガエルとメルヴィンはひたすら前進あるのみだ。
「後ろを気にせず、刺されることも不意打ちを食らうことも気にせず、ひたすら殴り倒せるのは気分がいいもんだ」
まったく息もあがっていないガエルは、スタートと変わらぬ勢いで拳を振り上げていた。ずしりとした低い声が心なしか弾んでいる。
「ホントですねえ。おまけに少しも疲労がないんですよ。これもオレたちを守ってくれている、ガラス板の力でしょうね」
「恐らくそうだろうな。フッ、ヴァルトがこれを知ったら、さぞ悔しがるだろう」
ガエルは野太い笑みを浮かべた。
メルヴィンも露を払いつつ次の敵に斬り込みながら、悔しがるヴァルトを想像してにこりと笑んだ。
「たまには自慢してやろっかな」
「以前見せてもらった、ソープワート軍を飲み込んだものですね…」
ゲッソリした声でブルニタルが呟くと、キュッリッキは頷く。
「こんなにじめじめ暑いんじゃ、すぐ腐って異臭が酷そうだしね。お掃除、お掃除」
周囲の死体は消えたが、異臭はまだその場に漂っている。鼻を突いてくる異臭に、ブルニタルは胃の辺りを抑えながら、前に座るキュッリッキに視線を向けた。
「あんなに多くの死体を見ても、大丈夫なんですか…」
床に落ちてる紙くずを掃除するかのような口調のキュッリッキに、ブルニタルは非難するような目を向ける。不謹慎に聞こえるのだ。
「見てて気持ちのいいもんじゃないけど、見慣れてるもん。戦場だったらアタリマエの光景でしょ」
幼い頃から、こんなものを見て育った。傭兵の道を歩いてきたキュッリッキにとっては、これが普通なのだ。死体を見て恐れを抱くような感情は、とっくの昔に卒業済みだった。
「私はここまで、凄い場面を見たことがありませんから……」
ふいっと視線を反らせる。
「そっか」
ブルニタルの知識は深く、情報分析なども的確にこなしていたが、現場を知らずに上辺の知識しかないのかな、そうキュッリッキは思った。
(アタシは、もう麻痺しちゃったもん。子供の頃に…)
そうしないと、とても生きていけなかったから。心ももたなかったから。
「まあ……無理に見慣れなくてもいいけどね、こんなもん。――吐くんだったら後ろ向いてお願いね?」
ブルニタルはこらえきれずに後ろを向き、フェンリルに被害が及ばないように吐瀉した。
数十分が過ぎ、ソレル王国兵達の姿もまばらになっていった。中には混乱に乗じて敵前逃亡する者もいたが、そこを見逃すキュッリッキではなく、フェンリルの前脚で無残に殴り殺されるだけだった。
キュッリッキが後方で後始末をしながら残飯処理も行っていることで、ガエルとメルヴィンはひたすら前進あるのみだ。
「後ろを気にせず、刺されることも不意打ちを食らうことも気にせず、ひたすら殴り倒せるのは気分がいいもんだ」
まったく息もあがっていないガエルは、スタートと変わらぬ勢いで拳を振り上げていた。ずしりとした低い声が心なしか弾んでいる。
「ホントですねえ。おまけに少しも疲労がないんですよ。これもオレたちを守ってくれている、ガラス板の力でしょうね」
「恐らくそうだろうな。フッ、ヴァルトがこれを知ったら、さぞ悔しがるだろう」
ガエルは野太い笑みを浮かべた。
メルヴィンも露を払いつつ次の敵に斬り込みながら、悔しがるヴァルトを想像してにこりと笑んだ。
「たまには自慢してやろっかな」
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