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ナルバ山の遺跡編
episode95
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翌日、朝食後にカーティスから、今回の仕事の件での、作戦と班分けが通達された。
キュッリッキは、とてもワクワクしていた。ライオン傭兵団としての彼らとの仕事は、今回が初めてなのだ。
入団テストの時は、一緒にいたギャリーたちは見学をしていただけで、仕事はしていない。
彼らがどんな風に仕事をするのか、最強の噂は本当なのか、これからそれを見ることができる。そして、確保部隊のキュッリッキは、支援や強化等、あらゆることを担当するよう言われていた。
ガエルは戦闘の格闘複合スキル〈才能〉を持ち、肉体そのものを武器に暴れまわる。
メルヴィンは戦闘の剣術スキル〈才能〉で、ハワドウレ皇国でも五指に入るほどの実力者だと言う。更に魔剣も備えているそうだ。
ブルニタルは記憶スキル〈才能〉を持つ軍師なので、戦闘は直接行わない後衛だ。
記憶スキル〈才能〉とは、一度目にしたもの、耳にしたもの、味わったもの、触れたもの、感じたものの全てを記憶に留め、死ぬまで絶対に忘れない。記憶障害や痴呆症とも無縁であるという。
一見地味なスキル〈才能〉に思われがちだが、これは凄いスキル〈才能〉である。人間は、必ず忘れる生き物だ。それなのに、死ぬまで一生全てを覚え続けていられる。その反面、忘れたいことも覚え続けるから、ある意味精神がタフでないと厳しいとも言われていた。
「みなさん頑張ってくださいよ。そして報酬は期待していいですからね。依頼主はベルトルド卿なので、ガッポリふんだくれます」
オーッ!と喜びの声が食堂を震わせる。稼いでなんぼの傭兵なのは、どこも共通の精神だ。
キュッリッキもみんなと同じように、両手を挙げて気合を入れた。
「では、準備は昼までに終わらせてください。昼食を済ませたら出発です」
ライオン傭兵団が出発の準備に勤しんでいる頃、今回の依頼主であるベルトルドは、執務室の窓際に立って、空を眺めていた。
「おはようベル、珍しいじゃない、あーたが先に出仕してるなんて」
リュリュが執務室に入ってきても、ベルトルドは微動だにしなかった。
「どうしたのん? こんなに天気がいいのに黄昏ちゃって」
ベルトルドの隣に立ち、顔を覗き込む。
「オデットが旅立った」
たっぷりと間を空けて、
「は?」
とリュリュは訝しんだ。そしてデスクの上の隅にあるカゴを見ると、チンチラがいない。
「恋の季節なんだそうだ。この俺より良い男を見つけ、子供を作って所帯を持つんだと言っていた」
フッと悲しげに微笑み、ベルトルドは目頭を押さえた。
「きっと、俺が恋をしたから、だからオデットは身を引いたんだな」
リュリュは、三流の昼メロならぬ朝メロを見ている気分で、何と答えていいか頭をぐるぐるさせていた。
「ねずみうさぎのくせに、健気なやつだ。ねずみうさぎにしておくには勿体無いほどだ、なあ」
なあ、と言われましても!? と、リュリュは垂れ目を眇めた。それに、ねずみうさぎではなく、チンチラだと教えても覚えやしない。
「まあ、この俺に匹敵する、あるいは上回るほどの男なんぞ、この世のどこを探してもおらんだろうが、ねずみうさぎには、そこそこの男はいるかもしれん。この俺が見込んだ女だ、良い男を捕まえて、幸せになって欲しい」
(小動物の言葉が、ほんとに判るのかしら…? Overランクって凄いのねえ…)
キザったらしく言うベルトルドを胡散臭げに見て、リュリュは呆れたように首を振った。
後日、姿を消したチンチラのオデットは、世話係をしていたエーメリ少年の宿舎に現れ、エーメリ少年と幸せに暮らしているとのことだった。そのことを、ベルトルドだけは知らなかった。
キュッリッキは、とてもワクワクしていた。ライオン傭兵団としての彼らとの仕事は、今回が初めてなのだ。
入団テストの時は、一緒にいたギャリーたちは見学をしていただけで、仕事はしていない。
彼らがどんな風に仕事をするのか、最強の噂は本当なのか、これからそれを見ることができる。そして、確保部隊のキュッリッキは、支援や強化等、あらゆることを担当するよう言われていた。
ガエルは戦闘の格闘複合スキル〈才能〉を持ち、肉体そのものを武器に暴れまわる。
メルヴィンは戦闘の剣術スキル〈才能〉で、ハワドウレ皇国でも五指に入るほどの実力者だと言う。更に魔剣も備えているそうだ。
ブルニタルは記憶スキル〈才能〉を持つ軍師なので、戦闘は直接行わない後衛だ。
記憶スキル〈才能〉とは、一度目にしたもの、耳にしたもの、味わったもの、触れたもの、感じたものの全てを記憶に留め、死ぬまで絶対に忘れない。記憶障害や痴呆症とも無縁であるという。
一見地味なスキル〈才能〉に思われがちだが、これは凄いスキル〈才能〉である。人間は、必ず忘れる生き物だ。それなのに、死ぬまで一生全てを覚え続けていられる。その反面、忘れたいことも覚え続けるから、ある意味精神がタフでないと厳しいとも言われていた。
「みなさん頑張ってくださいよ。そして報酬は期待していいですからね。依頼主はベルトルド卿なので、ガッポリふんだくれます」
オーッ!と喜びの声が食堂を震わせる。稼いでなんぼの傭兵なのは、どこも共通の精神だ。
キュッリッキもみんなと同じように、両手を挙げて気合を入れた。
「では、準備は昼までに終わらせてください。昼食を済ませたら出発です」
ライオン傭兵団が出発の準備に勤しんでいる頃、今回の依頼主であるベルトルドは、執務室の窓際に立って、空を眺めていた。
「おはようベル、珍しいじゃない、あーたが先に出仕してるなんて」
リュリュが執務室に入ってきても、ベルトルドは微動だにしなかった。
「どうしたのん? こんなに天気がいいのに黄昏ちゃって」
ベルトルドの隣に立ち、顔を覗き込む。
「オデットが旅立った」
たっぷりと間を空けて、
「は?」
とリュリュは訝しんだ。そしてデスクの上の隅にあるカゴを見ると、チンチラがいない。
「恋の季節なんだそうだ。この俺より良い男を見つけ、子供を作って所帯を持つんだと言っていた」
フッと悲しげに微笑み、ベルトルドは目頭を押さえた。
「きっと、俺が恋をしたから、だからオデットは身を引いたんだな」
リュリュは、三流の昼メロならぬ朝メロを見ている気分で、何と答えていいか頭をぐるぐるさせていた。
「ねずみうさぎのくせに、健気なやつだ。ねずみうさぎにしておくには勿体無いほどだ、なあ」
なあ、と言われましても!? と、リュリュは垂れ目を眇めた。それに、ねずみうさぎではなく、チンチラだと教えても覚えやしない。
「まあ、この俺に匹敵する、あるいは上回るほどの男なんぞ、この世のどこを探してもおらんだろうが、ねずみうさぎには、そこそこの男はいるかもしれん。この俺が見込んだ女だ、良い男を捕まえて、幸せになって欲しい」
(小動物の言葉が、ほんとに判るのかしら…? Overランクって凄いのねえ…)
キザったらしく言うベルトルドを胡散臭げに見て、リュリュは呆れたように首を振った。
後日、姿を消したチンチラのオデットは、世話係をしていたエーメリ少年の宿舎に現れ、エーメリ少年と幸せに暮らしているとのことだった。そのことを、ベルトルドだけは知らなかった。
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