片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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ナルバ山の遺跡編

episode90

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「あまりみんなを脅さないでくださいな。あなたの怖さを知らないキューリさんですら、萎れちゃいましたよ」

 カーティスは肩の小鳥に、抗議するような視線を向ける。

〈安心していいぞリッキー。愛しいリッキーだけは、この世で一番大好きだからな〉

 これまでとは打って変わって、優しいく甘い声が、キュッリッキに向けて投げかけられた。

「ふぅ、良かったの~」

 キュッリッキはホッとしたように笑顔を見せた。しかし、他の皆は爆弾発言を聞いたかのように、ギョッとした顔をキュッリッキに向けていた。

「ん?」

 周りの視線に気づいて、キュッリッキは不思議そうに目を瞬かせた。

〈兎に角、今回の件では、貴様たちの好きなように大暴れして構わん。結果ソレル王国が滅んでもいい。全ての責任は俺が持つから、手を抜くことなく、徹底的に殺れ〉

 事実上の、ソレル王国への処刑宣告だ。

 すでに非公式にではあるが、ソレル王国側からハワドウレ皇国に、宣戦布告しているようなものである。公なことではないので、ベルトルドが私的にライオン傭兵団を使って、ケレヴィルの研究者たちを奪還するという方法を、取ろうとしているが。

 もしこれが公の下の行動であれば、ハワドウレ皇国は正規軍を動かさざるをえなくなる。しかし、一介の傭兵団が動いた程度では、戦争には発展しない。

「では、食事が済んだら、ブルニタル、メルヴィン、ミーティングをしますよ」

「はい」

「判りました」

「出発は早いほうがいいですか?」

〈出来ればな。研究者というものは、体力とは無縁だからな〉

「判りました」

 傭兵とは正反対だろう。早めの救出を試みなければ、すでにヤバイ状態の研究者もいるんじゃないだろうか。カーティスは内心、先が思いやられると、溜め息をこぼした。

〈ああ、そうだ。拘禁されてる連中に、シ・アティウスという男がいると思う。他の研究者たちは見捨てても、そいつだけは確実に救出して欲しい〉

「…判りました」

〈さて、俺の悪口も気楽に言えんだろうから、これで俺の通信は切ってやろう。吉報のみを寄越せ、報酬は弾んでやる〉

 そう言って、小鳥は口をつぐんだ。

 ちょっと間を置いたあと、食堂にホッとした空気が静かに流れた。

「ベルトルド卿の個人的な事情も、一枚噛んでいるようですね」

 簾のような前髪の奥の目が、スッと細められる。

「御大はケレヴィルの所長もしているしな」

 ギャリーは頷きながら腕を組む。

「さてみなさん、早々に食事を済ませてしまいましょう。時間も長引いてますし、これではキリ夫妻が片付けられません」

「そうだな」

 みんなそれぞれ頷きながら、食事を再開した。

「アタシ、お皿洗い手伝うね」

 キュッリッキがキリ夫妻に声をかけると、キリ夫人が嬉しそうに頷いた。

「助かるわ。ありがとう、キューリちゃん」

「……おばちゃんまで、キューリって呼ぶんだね…」

 ガックリと肩を落とすキュッリッキに、メルヴィンが苦笑を漏らした。
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