93 / 882
ナルバ山の遺跡編
episode90
しおりを挟む
「あまりみんなを脅さないでくださいな。あなたの怖さを知らないキューリさんですら、萎れちゃいましたよ」
カーティスは肩の小鳥に、抗議するような視線を向ける。
〈安心していいぞリッキー。愛しいリッキーだけは、この世で一番大好きだからな〉
これまでとは打って変わって、優しいく甘い声が、キュッリッキに向けて投げかけられた。
「ふぅ、良かったの~」
キュッリッキはホッとしたように笑顔を見せた。しかし、他の皆は爆弾発言を聞いたかのように、ギョッとした顔をキュッリッキに向けていた。
「ん?」
周りの視線に気づいて、キュッリッキは不思議そうに目を瞬かせた。
〈兎に角、今回の件では、貴様たちの好きなように大暴れして構わん。結果ソレル王国が滅んでもいい。全ての責任は俺が持つから、手を抜くことなく、徹底的に殺れ〉
事実上の、ソレル王国への処刑宣告だ。
すでに非公式にではあるが、ソレル王国側からハワドウレ皇国に、宣戦布告しているようなものである。公なことではないので、ベルトルドが私的にライオン傭兵団を使って、ケレヴィルの研究者たちを奪還するという方法を、取ろうとしているが。
もしこれが公の下の行動であれば、ハワドウレ皇国は正規軍を動かさざるをえなくなる。しかし、一介の傭兵団が動いた程度では、戦争には発展しない。
「では、食事が済んだら、ブルニタル、メルヴィン、ミーティングをしますよ」
「はい」
「判りました」
「出発は早いほうがいいですか?」
〈出来ればな。研究者というものは、体力とは無縁だからな〉
「判りました」
傭兵とは正反対だろう。早めの救出を試みなければ、すでにヤバイ状態の研究者もいるんじゃないだろうか。カーティスは内心、先が思いやられると、溜め息をこぼした。
〈ああ、そうだ。拘禁されてる連中に、シ・アティウスという男がいると思う。他の研究者たちは見捨てても、そいつだけは確実に救出して欲しい〉
「…判りました」
〈さて、俺の悪口も気楽に言えんだろうから、これで俺の通信は切ってやろう。吉報のみを寄越せ、報酬は弾んでやる〉
そう言って、小鳥は口をつぐんだ。
ちょっと間を置いたあと、食堂にホッとした空気が静かに流れた。
「ベルトルド卿の個人的な事情も、一枚噛んでいるようですね」
簾のような前髪の奥の目が、スッと細められる。
「御大はケレヴィルの所長もしているしな」
ギャリーは頷きながら腕を組む。
「さてみなさん、早々に食事を済ませてしまいましょう。時間も長引いてますし、これではキリ夫妻が片付けられません」
「そうだな」
みんなそれぞれ頷きながら、食事を再開した。
「アタシ、お皿洗い手伝うね」
キュッリッキがキリ夫妻に声をかけると、キリ夫人が嬉しそうに頷いた。
「助かるわ。ありがとう、キューリちゃん」
「……おばちゃんまで、キューリって呼ぶんだね…」
ガックリと肩を落とすキュッリッキに、メルヴィンが苦笑を漏らした。
カーティスは肩の小鳥に、抗議するような視線を向ける。
〈安心していいぞリッキー。愛しいリッキーだけは、この世で一番大好きだからな〉
これまでとは打って変わって、優しいく甘い声が、キュッリッキに向けて投げかけられた。
「ふぅ、良かったの~」
キュッリッキはホッとしたように笑顔を見せた。しかし、他の皆は爆弾発言を聞いたかのように、ギョッとした顔をキュッリッキに向けていた。
「ん?」
周りの視線に気づいて、キュッリッキは不思議そうに目を瞬かせた。
〈兎に角、今回の件では、貴様たちの好きなように大暴れして構わん。結果ソレル王国が滅んでもいい。全ての責任は俺が持つから、手を抜くことなく、徹底的に殺れ〉
事実上の、ソレル王国への処刑宣告だ。
すでに非公式にではあるが、ソレル王国側からハワドウレ皇国に、宣戦布告しているようなものである。公なことではないので、ベルトルドが私的にライオン傭兵団を使って、ケレヴィルの研究者たちを奪還するという方法を、取ろうとしているが。
もしこれが公の下の行動であれば、ハワドウレ皇国は正規軍を動かさざるをえなくなる。しかし、一介の傭兵団が動いた程度では、戦争には発展しない。
「では、食事が済んだら、ブルニタル、メルヴィン、ミーティングをしますよ」
「はい」
「判りました」
「出発は早いほうがいいですか?」
〈出来ればな。研究者というものは、体力とは無縁だからな〉
「判りました」
傭兵とは正反対だろう。早めの救出を試みなければ、すでにヤバイ状態の研究者もいるんじゃないだろうか。カーティスは内心、先が思いやられると、溜め息をこぼした。
〈ああ、そうだ。拘禁されてる連中に、シ・アティウスという男がいると思う。他の研究者たちは見捨てても、そいつだけは確実に救出して欲しい〉
「…判りました」
〈さて、俺の悪口も気楽に言えんだろうから、これで俺の通信は切ってやろう。吉報のみを寄越せ、報酬は弾んでやる〉
そう言って、小鳥は口をつぐんだ。
ちょっと間を置いたあと、食堂にホッとした空気が静かに流れた。
「ベルトルド卿の個人的な事情も、一枚噛んでいるようですね」
簾のような前髪の奥の目が、スッと細められる。
「御大はケレヴィルの所長もしているしな」
ギャリーは頷きながら腕を組む。
「さてみなさん、早々に食事を済ませてしまいましょう。時間も長引いてますし、これではキリ夫妻が片付けられません」
「そうだな」
みんなそれぞれ頷きながら、食事を再開した。
「アタシ、お皿洗い手伝うね」
キュッリッキがキリ夫妻に声をかけると、キリ夫人が嬉しそうに頷いた。
「助かるわ。ありがとう、キューリちゃん」
「……おばちゃんまで、キューリって呼ぶんだね…」
ガックリと肩を落とすキュッリッキに、メルヴィンが苦笑を漏らした。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる