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ナルバ山の遺跡編
episode89
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食べることに夢中で、すっかり忘れてたとは、口に出して言う勇気はない。あんまり怒らせると、空間転移で乗り込まれてきそうだからだ。実際、過去数件前例がある。
「すみません。たまには可愛い団員たちの、楽しい食事風景の音声だけでも、お届けできればと思っていました」
カーティスはシレっと言うと、軽く咳払いをする。
〈そんな音声、お届けされても嬉しくないわ!〉
もっともである。
「では皆さん、私語は慎んで下さい。仕事の話に入りますよ」
カーティスはワインを一口飲むと、持ってきていた書類を取って、ページをめくりはじめる。
「久しぶりの大仕事になりますね。ベルトルド卿からは許可をもらっているので、全員で出動します」
おお、と食堂内がざわついた。
「西のモナルダ大陸にある、ソレル王国内で出土した、エグザイル・システムのようなものに関連したお仕事です。それを調査しに行ったアルケラ研究機関ケレヴィルの研究者たちを、ソレル王国軍が逮捕したとのこと。我々はそのケレヴィルの研究者たちの奪還と保護、エグザイル・システムのようなものの奪還と保護をしなければいけません」
「カーティスさん、エグザイル・システムのようなもの、とは、何なのですか?」
メルヴィンが問うと、
〈のようなもの、とだけ判っただけなようだ。詳細な報告が届く前に、逮捕されてしまった〉
「なるほど…」
ベルトルドが回答して、メルヴィンは恐縮したように頷いた。
「一国の軍相手か。暴れてもいいんですかい? 御大」
ギャリーが顎に生えた無精髭を、ザリザリと摩りながら言う。
〈もちろんだ。ケレヴィルは俺の配下の組織だからな、不当に拘禁したということは、この俺に手袋を投げつけたと同等のことだ。遠慮なんかいらん、徹底的に殺ってしまえ〉
「へ、へいっ!」
――怒ってる。この人完全に怒っている。
キュッリッキとキリ夫妻を抜かした全員が、じっと皿を見つめながら怯えだした。
〈ソレル王国なんぞ、たかが属国の身分でしかない上に、副宰相であるこの俺に喧嘩を売ったんだからな。許さんぞ、絶対に許さん!〉
ヒイイイッ! 食堂のあちこちから抑えた悲鳴が響いた。
ふてぶてしい代表でもあるヴァルトですら、怯えの色を隠さず震えている。隣のメルヴィンやシビルも、青ざめた顔で俯いていた。
キュッリッキは目をぱちくりさせて、みんなの様子を見て首をかしげた。そして、シビルの服を軽く引っ張って、声を潜めて問う。
「ねえ、なんでみんなベルトルドさんのこと、こんなに怖がってるの?」
シビルはつぶらな目を細め、さらに声をひそめて応じる。
「…詳細はそのうち教えてあげますが、我々はベルトルド様の恐ろしさを、身を持って知っているんです。声の調子だけで、喜怒哀楽が判断できるくらいに」
「んー…、そんな怖そうなヒトには見えなかったよ。滲み出るような迫力はあったけど、ハンサムなおじさんだったし」
〈こら、リッキー、そこはハンサムなおにいさん、でいいんだぞ〉
「はにゅ! ごめんなさい」
キュッリッキとシビルは同時に跳ねあがった。
(じ……地獄耳なんだあ)
ビックリしながら肩をすくめて、キュッリッキは小さくなって座り直した。
「すみません。たまには可愛い団員たちの、楽しい食事風景の音声だけでも、お届けできればと思っていました」
カーティスはシレっと言うと、軽く咳払いをする。
〈そんな音声、お届けされても嬉しくないわ!〉
もっともである。
「では皆さん、私語は慎んで下さい。仕事の話に入りますよ」
カーティスはワインを一口飲むと、持ってきていた書類を取って、ページをめくりはじめる。
「久しぶりの大仕事になりますね。ベルトルド卿からは許可をもらっているので、全員で出動します」
おお、と食堂内がざわついた。
「西のモナルダ大陸にある、ソレル王国内で出土した、エグザイル・システムのようなものに関連したお仕事です。それを調査しに行ったアルケラ研究機関ケレヴィルの研究者たちを、ソレル王国軍が逮捕したとのこと。我々はそのケレヴィルの研究者たちの奪還と保護、エグザイル・システムのようなものの奪還と保護をしなければいけません」
「カーティスさん、エグザイル・システムのようなもの、とは、何なのですか?」
メルヴィンが問うと、
〈のようなもの、とだけ判っただけなようだ。詳細な報告が届く前に、逮捕されてしまった〉
「なるほど…」
ベルトルドが回答して、メルヴィンは恐縮したように頷いた。
「一国の軍相手か。暴れてもいいんですかい? 御大」
ギャリーが顎に生えた無精髭を、ザリザリと摩りながら言う。
〈もちろんだ。ケレヴィルは俺の配下の組織だからな、不当に拘禁したということは、この俺に手袋を投げつけたと同等のことだ。遠慮なんかいらん、徹底的に殺ってしまえ〉
「へ、へいっ!」
――怒ってる。この人完全に怒っている。
キュッリッキとキリ夫妻を抜かした全員が、じっと皿を見つめながら怯えだした。
〈ソレル王国なんぞ、たかが属国の身分でしかない上に、副宰相であるこの俺に喧嘩を売ったんだからな。許さんぞ、絶対に許さん!〉
ヒイイイッ! 食堂のあちこちから抑えた悲鳴が響いた。
ふてぶてしい代表でもあるヴァルトですら、怯えの色を隠さず震えている。隣のメルヴィンやシビルも、青ざめた顔で俯いていた。
キュッリッキは目をぱちくりさせて、みんなの様子を見て首をかしげた。そして、シビルの服を軽く引っ張って、声を潜めて問う。
「ねえ、なんでみんなベルトルドさんのこと、こんなに怖がってるの?」
シビルはつぶらな目を細め、さらに声をひそめて応じる。
「…詳細はそのうち教えてあげますが、我々はベルトルド様の恐ろしさを、身を持って知っているんです。声の調子だけで、喜怒哀楽が判断できるくらいに」
「んー…、そんな怖そうなヒトには見えなかったよ。滲み出るような迫力はあったけど、ハンサムなおじさんだったし」
〈こら、リッキー、そこはハンサムなおにいさん、でいいんだぞ〉
「はにゅ! ごめんなさい」
キュッリッキとシビルは同時に跳ねあがった。
(じ……地獄耳なんだあ)
ビックリしながら肩をすくめて、キュッリッキは小さくなって座り直した。
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