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ナルバ山の遺跡編
episode86
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キュッリッキは草原のような所に立っていた。
――どこだろう?
見上げた真っ青な空は、もこもことした白い雲を泳がせている。まるで、綿菓子のようだと思った。
そして、誰かに呼ばれた気がして、後ろを振り向いた。
――キューリちゃーん。
ルーファスが笑顔で手を振って、キュッリッキを呼んでいる。
――もお、またキューリって呼ぶんだから!
最近ヴァルトから命名された、キュッリッキのあだ名。それをライオン傭兵団の仲間たちは、好んでキューリと呼ぶ。唯一メルヴィンだけは、リッキーと呼んでくれているのだ。
――何度言っても直してくれないんだから、もう…。
胸中で文句を言いながら、でも、本当はあまり嫌じゃない自分がいることに気づいていた。
自分の名前は確かに言いづらいと自分でも思う。
リッキーというあだ名は、友達のハドリーが付けてくれた。初めて自分にあだ名をつけてもらったから、リッキーと呼ばれると嬉しい。それに、ハドリーは大事な友達だ。その友達に付けてもらったあだ名だから、自分が心許せる相手には呼んで欲しい。でも、今のキュッリッキには、新しい仲間が出来た。その仲間が付けてくれたあだ名は、野菜の名前だけど、何となく嬉しいと感じてしまうのだ。
でも、せめてもうちょっと、違うあだ名を考えて欲しかったのも本音である。
――キューリちゃーん。
ルーファスの声が、一際大きく聞こえてきた。
「キューリじゃないもん!」
そう叫んで、キュッリッキは目を覚ました。
「…あれ?」
キュッリッキは何度も目を瞬かせて、そして顔を上げる。
「おーはよっ」
ニコニコとしたルーファスの顔が見えて、キュッリッキは気まずそうに首をすくめた。
「えと……、アタシ、もしかして、寝ぼけた?」
「うん」
にんまりと肯定されて、キュッリッキはサッと顔を赤くした。
「夢を見ていたようですねえ。ルーファスの呼ぶ声が、夢に影響したんでしょう」
クスクスと笑いながら、カーティスが横で見ていた。
(うう……恥ずかしいよぅ…。アタシ、いつの間に寝ちゃったんだろう)
心の中で重い溜め息をついて、キュッリッキは自分がルーファスに抱っこされていることに気づいた。
「ルーさんありがとう、もうおろして」
「ほいほい」
ルーファスはしゃがんで、キュッリッキをそっと地面に立たせてやった。キュッリッキの腕の中にいたフェンリルも、自分で地面に飛び降りた。
「重かったでしょ、ごめんね」
「そんなことないよ~。キューリちゃん凄く軽かったから、疲れてもないしね」
ウィンクされて、キュッリッキは安心したように肩の力を抜いた。
「良い夢でも見ていましたか? 寝顔が幸せそうでしたよ」
そうカーティスに言われて、夢の内容を説明しようとしたが、キュッリッキは夢の内容を思い出せなかった。
「もう忘れちゃったの」
「それは残念です」
「夢ってそんなモンだよね」
「そうですねえ。――ああ、キューリさんが寝ている間に、ベルトルド卿から小鳥の取り扱いについて質問が来ていました」
「質問?」
「ええ。預かった小鳥は、どうやったらこちらの赤い小鳥と、連絡がつけられるようになるのかと」
――どこだろう?
見上げた真っ青な空は、もこもことした白い雲を泳がせている。まるで、綿菓子のようだと思った。
そして、誰かに呼ばれた気がして、後ろを振り向いた。
――キューリちゃーん。
ルーファスが笑顔で手を振って、キュッリッキを呼んでいる。
――もお、またキューリって呼ぶんだから!
最近ヴァルトから命名された、キュッリッキのあだ名。それをライオン傭兵団の仲間たちは、好んでキューリと呼ぶ。唯一メルヴィンだけは、リッキーと呼んでくれているのだ。
――何度言っても直してくれないんだから、もう…。
胸中で文句を言いながら、でも、本当はあまり嫌じゃない自分がいることに気づいていた。
自分の名前は確かに言いづらいと自分でも思う。
リッキーというあだ名は、友達のハドリーが付けてくれた。初めて自分にあだ名をつけてもらったから、リッキーと呼ばれると嬉しい。それに、ハドリーは大事な友達だ。その友達に付けてもらったあだ名だから、自分が心許せる相手には呼んで欲しい。でも、今のキュッリッキには、新しい仲間が出来た。その仲間が付けてくれたあだ名は、野菜の名前だけど、何となく嬉しいと感じてしまうのだ。
でも、せめてもうちょっと、違うあだ名を考えて欲しかったのも本音である。
――キューリちゃーん。
ルーファスの声が、一際大きく聞こえてきた。
「キューリじゃないもん!」
そう叫んで、キュッリッキは目を覚ました。
「…あれ?」
キュッリッキは何度も目を瞬かせて、そして顔を上げる。
「おーはよっ」
ニコニコとしたルーファスの顔が見えて、キュッリッキは気まずそうに首をすくめた。
「えと……、アタシ、もしかして、寝ぼけた?」
「うん」
にんまりと肯定されて、キュッリッキはサッと顔を赤くした。
「夢を見ていたようですねえ。ルーファスの呼ぶ声が、夢に影響したんでしょう」
クスクスと笑いながら、カーティスが横で見ていた。
(うう……恥ずかしいよぅ…。アタシ、いつの間に寝ちゃったんだろう)
心の中で重い溜め息をついて、キュッリッキは自分がルーファスに抱っこされていることに気づいた。
「ルーさんありがとう、もうおろして」
「ほいほい」
ルーファスはしゃがんで、キュッリッキをそっと地面に立たせてやった。キュッリッキの腕の中にいたフェンリルも、自分で地面に飛び降りた。
「重かったでしょ、ごめんね」
「そんなことないよ~。キューリちゃん凄く軽かったから、疲れてもないしね」
ウィンクされて、キュッリッキは安心したように肩の力を抜いた。
「良い夢でも見ていましたか? 寝顔が幸せそうでしたよ」
そうカーティスに言われて、夢の内容を説明しようとしたが、キュッリッキは夢の内容を思い出せなかった。
「もう忘れちゃったの」
「それは残念です」
「夢ってそんなモンだよね」
「そうですねえ。――ああ、キューリさんが寝ている間に、ベルトルド卿から小鳥の取り扱いについて質問が来ていました」
「質問?」
「ええ。預かった小鳥は、どうやったらこちらの赤い小鳥と、連絡がつけられるようになるのかと」
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