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ナルバ山の遺跡編
episode85
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キュッリッキたちを見送ったあと、ベルトルドとアルカネットは書斎へ行った。
ベルトルドは奥にあるチェアにドカリと座り、長い脚を組む。
「今日くらい、リッキーと一緒に過ごしても問題あるまい。カーティスのやつめ」
「その点は同感です。ですが、リッキーさんの心を慮れば、帰すのが一番ですよ」
「まあ、な…」
ベルトルドはつまんなさそうに、フンッと鼻を鳴らした。
ライオン傭兵団の中に、必死に馴染もう、溶け込もうとしている、いじらしい気持ちがヒシヒシと伝わってきた。カーティスから仲間だと言われて、それを嬉しく思って、表情にも喜びがありありと浮かんでいた。
それを邪魔したいとは思わない。が、キュッリッキと一分一秒でも長く居たい気持ちは、溢れんばかりに身体を蝕んでいる。
「俺は、完全にリッキーに惚れた」
うっとりと天井を見つめながら、ベルトルドはしっかりと言い放つ。
「おや、奇遇ですね。私もリッキーさんに惚れました」
書斎の中が、恐ろしい程の静寂に包まれる。そして、目を合わせた途端、二人の間に火花が炸裂した。
「リッキーは、俺のものだ!」
「いいえ、私のものです」
フゴゴゴゴッと効果音でも流れてきそうな書斎の中で、青い小鳥がピヨッと小さく鳴いた。
小鳥の鳴き声で二人はハッとすると、軽く咳払いをして場を収めた。
「…そこまで思っているのなら、何故今回の仕事に、リッキーさんを連れて行けなどと言ったんですか? 万が一危険などあったりしたら」
「召喚の力をもっと見たくてな」
ベルトルドは両手を組んで、背もたれに深々と身を沈める。
「お前も知っての通り、宮廷の召喚スキル〈才能〉持ちどもは、揃いも揃って無能者ばかりだ。リッキーが見せてくれた召喚の片鱗さえも、見せたことがない」
「全くですね。何のために国に召し上げられたのか」
「ああ。――リッキーが他にも、どんな召喚をしてくれるか、その力をどう使うのか、俺は見たいんだ」
肩に乗る小鳥を人差し指に乗り移らせると、デスクの上に降ろしてやる。小鳥は平らなデスクの上を、チョンチョンと跳ねていた。
「イルマタル帝国がリッキーを放ったらかしにしてくれたお陰で、俺たちの元に引き入れることができた。今回ばかりは感謝しよう」
「彼女の不遇な過去を思えば、感謝まではいきませんが。まあ、ありがとうとだけは言っておきましょうか」
「まあな」
ベルトルドは苦笑すると、姿勢を正して座り直した。
「アルカネット」
「はい」
「実はな、明日、正式に軍総帥の辞令を押し付けられる」
アルカネットはキョトンっとして、目の前のベルトルドを見つめる。
「はい?」
「クソジジイの謀略にハマって、軍総帥までもが押し付けられることになったんだ」
「また仕事が増えるのですか…」
呆れたように言って、アルカネットは溜め息をついた。
「そこで、だ。お前にやってもらいたいものがある」
そう言って、ベルトルドは無邪気に微笑んだ。
ベルトルドは奥にあるチェアにドカリと座り、長い脚を組む。
「今日くらい、リッキーと一緒に過ごしても問題あるまい。カーティスのやつめ」
「その点は同感です。ですが、リッキーさんの心を慮れば、帰すのが一番ですよ」
「まあ、な…」
ベルトルドはつまんなさそうに、フンッと鼻を鳴らした。
ライオン傭兵団の中に、必死に馴染もう、溶け込もうとしている、いじらしい気持ちがヒシヒシと伝わってきた。カーティスから仲間だと言われて、それを嬉しく思って、表情にも喜びがありありと浮かんでいた。
それを邪魔したいとは思わない。が、キュッリッキと一分一秒でも長く居たい気持ちは、溢れんばかりに身体を蝕んでいる。
「俺は、完全にリッキーに惚れた」
うっとりと天井を見つめながら、ベルトルドはしっかりと言い放つ。
「おや、奇遇ですね。私もリッキーさんに惚れました」
書斎の中が、恐ろしい程の静寂に包まれる。そして、目を合わせた途端、二人の間に火花が炸裂した。
「リッキーは、俺のものだ!」
「いいえ、私のものです」
フゴゴゴゴッと効果音でも流れてきそうな書斎の中で、青い小鳥がピヨッと小さく鳴いた。
小鳥の鳴き声で二人はハッとすると、軽く咳払いをして場を収めた。
「…そこまで思っているのなら、何故今回の仕事に、リッキーさんを連れて行けなどと言ったんですか? 万が一危険などあったりしたら」
「召喚の力をもっと見たくてな」
ベルトルドは両手を組んで、背もたれに深々と身を沈める。
「お前も知っての通り、宮廷の召喚スキル〈才能〉持ちどもは、揃いも揃って無能者ばかりだ。リッキーが見せてくれた召喚の片鱗さえも、見せたことがない」
「全くですね。何のために国に召し上げられたのか」
「ああ。――リッキーが他にも、どんな召喚をしてくれるか、その力をどう使うのか、俺は見たいんだ」
肩に乗る小鳥を人差し指に乗り移らせると、デスクの上に降ろしてやる。小鳥は平らなデスクの上を、チョンチョンと跳ねていた。
「イルマタル帝国がリッキーを放ったらかしにしてくれたお陰で、俺たちの元に引き入れることができた。今回ばかりは感謝しよう」
「彼女の不遇な過去を思えば、感謝まではいきませんが。まあ、ありがとうとだけは言っておきましょうか」
「まあな」
ベルトルドは苦笑すると、姿勢を正して座り直した。
「アルカネット」
「はい」
「実はな、明日、正式に軍総帥の辞令を押し付けられる」
アルカネットはキョトンっとして、目の前のベルトルドを見つめる。
「はい?」
「クソジジイの謀略にハマって、軍総帥までもが押し付けられることになったんだ」
「また仕事が増えるのですか…」
呆れたように言って、アルカネットは溜め息をついた。
「そこで、だ。お前にやってもらいたいものがある」
そう言って、ベルトルドは無邪気に微笑んだ。
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