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ナルバ山の遺跡編
episode82
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キュッリッキ、ベルトルド、アルカネットの3人の様子を、離れた位置から見ていたルーファスは、カーティスに小声で話しかける。
「あの通行証…、見せれば即パスの特別製だよね。皇王様のサイン入りの」
「ですねえ。貴族や高官専用のですよ。我々の通行証よりも、セキュリティ度が高いものです」
カーティスとルーファスは、ヒソヒソと小声で確認し合った。
ハーメンリンナに入るための通行証には、いくつかの種類がある。キュッリッキが渡されたものには、皇王のサインが入っている。本来上流貴族の中でも特権中の特権を持つ一部の貴族と、宰相や副宰相などの地位にある者しか携帯を許されない、最高ランクの通行証だ。
「キューリちゃんへの愛情を感じる」
「深いですねえ。可哀想に…」
渡された通行証がそんな凄いものとは、キュッリッキは当然知らないことだろう。
「ですが、本当なら、キューリさんは傭兵などしなくてもいい身分だったはずです」
「だよね。事情は判んないけど、召喚スキル〈才能〉を持ってるのに、なんで放置されてたんだろう」
召喚スキル〈才能〉を授かった子供は、生国が家族ごと召し上げ、一生安全で裕福な暮らしを約束される。危険と隣り合わせの傭兵など、しなくてもいい身分なのだ。
ライオン傭兵団でも、そのことが引っかかって、当初仲間たちで議論された。
召喚スキル〈才能〉を持つ少女を、傭兵として扱っていいものだろうかと。そのことが国にバレた時、何も問題は起こらないか、などだ。
「ベルトルド卿自らスカウトしてきたのだから、彼女の背景事情も全て判っているはずです。それであえて傭兵として扱うのであれば、我々が心配することはないと思っていますが」
「万が一の時は、ベルトルド様に丸なげでいいよね~」
「です」
召喚スキル〈才能〉を持つ者は、国の保護のもと市井に出てくることはない。珍しいケースではあるが、キュッリッキの存在は貴重だ。問題ごとにならない限り、その力は存分に振るってもらうまでだ。
「さて、もういい時間です。帰らないと」
「ンだね。――キューリちゃん、そろそろ帰ろう~」
「はーい」
ルーファスに呼ばれて、キュッリッキは笑顔で返事をした。
「もう帰るのか、寂しいな」
「また遊びに来るよ。通行証も作ってもらったし」
「うう…リッキー、本当に本当に、良い子だ!!」
ベルトルドはガバッとキュッリッキを抱きしめ、これでもかと頬ずりした。
「まったく手が早いんですから! お放しなさい!!」
アルカネットはベルトルドの首を両手で掴むと、殺す勢いで絞め上げた。
されるがままのキュッリッキは、どうしていいか判らず、口の端を引きつらせていた。
「あの通行証…、見せれば即パスの特別製だよね。皇王様のサイン入りの」
「ですねえ。貴族や高官専用のですよ。我々の通行証よりも、セキュリティ度が高いものです」
カーティスとルーファスは、ヒソヒソと小声で確認し合った。
ハーメンリンナに入るための通行証には、いくつかの種類がある。キュッリッキが渡されたものには、皇王のサインが入っている。本来上流貴族の中でも特権中の特権を持つ一部の貴族と、宰相や副宰相などの地位にある者しか携帯を許されない、最高ランクの通行証だ。
「キューリちゃんへの愛情を感じる」
「深いですねえ。可哀想に…」
渡された通行証がそんな凄いものとは、キュッリッキは当然知らないことだろう。
「ですが、本当なら、キューリさんは傭兵などしなくてもいい身分だったはずです」
「だよね。事情は判んないけど、召喚スキル〈才能〉を持ってるのに、なんで放置されてたんだろう」
召喚スキル〈才能〉を授かった子供は、生国が家族ごと召し上げ、一生安全で裕福な暮らしを約束される。危険と隣り合わせの傭兵など、しなくてもいい身分なのだ。
ライオン傭兵団でも、そのことが引っかかって、当初仲間たちで議論された。
召喚スキル〈才能〉を持つ少女を、傭兵として扱っていいものだろうかと。そのことが国にバレた時、何も問題は起こらないか、などだ。
「ベルトルド卿自らスカウトしてきたのだから、彼女の背景事情も全て判っているはずです。それであえて傭兵として扱うのであれば、我々が心配することはないと思っていますが」
「万が一の時は、ベルトルド様に丸なげでいいよね~」
「です」
召喚スキル〈才能〉を持つ者は、国の保護のもと市井に出てくることはない。珍しいケースではあるが、キュッリッキの存在は貴重だ。問題ごとにならない限り、その力は存分に振るってもらうまでだ。
「さて、もういい時間です。帰らないと」
「ンだね。――キューリちゃん、そろそろ帰ろう~」
「はーい」
ルーファスに呼ばれて、キュッリッキは笑顔で返事をした。
「もう帰るのか、寂しいな」
「また遊びに来るよ。通行証も作ってもらったし」
「うう…リッキー、本当に本当に、良い子だ!!」
ベルトルドはガバッとキュッリッキを抱きしめ、これでもかと頬ずりした。
「まったく手が早いんですから! お放しなさい!!」
アルカネットはベルトルドの首を両手で掴むと、殺す勢いで絞め上げた。
されるがままのキュッリッキは、どうしていいか判らず、口の端を引きつらせていた。
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