片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
82 / 882
ナルバ山の遺跡編

episode79

しおりを挟む
「仔犬に戻っていいよ、フェンリル」

 フェンリルは目を伏せると、身体は銀色の光に包まれ、萎むように光が収縮すると、そこには仔犬に戻ったフェンリルが座っていた。

 キュリッキはフェンリルを抱き上げると、小さな頭に頬ずりした。

「見事だな…。本当に見事だ」

 ベルトルドはゴクリと唾を飲む。アルカネットたちは、呆けたように固まっていた。

 この世界にはサイ《超能力》や魔法などの、超常の力を扱う者たちがいる。自身もルーファスもサイ《超能力》を使い、アルカネットもカーティスも魔法を使う。そのスキル〈才能〉を持っていなければ、到底扱うことのできない力だ。

 しかし召喚スキル〈才能〉は、それらをも軽く凌駕する素晴らしい力だ。キュッリッキが入団テストで見せた召喚、そしてこのフェンリル。サイ《超能力》や魔法など比べ物にならない。

 スキル〈才能〉とは、この世界に生きる人間たちに、生まれたとき授けられる突出した能力の事を言う。

 人間たちの持つあらゆる能力は、必ず平均水準で止まる。どんなに磨いても、練習しても、絶対その域を超えることができない。

 ある人間が、料理が上手くなりたいと練習を積み重ねる。でも、どんなに練習しても平均水準以上の料理は作れない。その人間が授かったスキル〈才能〉は、音楽系楽器演奏だった。楽器は練習しなくても、最高の音を出し、練習すれば更に素晴らしい音を紡いだ。そこが、スキル〈才能〉の有無を決定づけるのである。

 スキル〈才能〉は一人一つ必ず授けられる。そしてスキル〈才能〉は遺伝しない。稀に親と同じスキル〈才能〉を授かる子供もいるが、それは遺伝ではなく偶然だった。

 こうしたスキル〈才能〉には特殊なものがあり、魔法、サイ《超能力》、機械工学、召喚の4種類を指す。これをレアスキル〈才能〉と呼び、うち、魔法、サイ《超能力》、機械工学は何百人に一人の確率、召喚は一億人に一人の確率でしか生まれてこないと言われていた。そして、召喚スキル〈才能〉のみは、このスキル〈才能〉を授かった子供が現れると、生国が家族ごと召喚スキル〈才能〉を持つ子供を召し上げ、安全で裕福な暮らしを生涯約束する。数があまりにも稀だからだと言う理由で。

 そのため、一般に広く知られる召喚スキル〈才能〉とは、伝説上の神々の住まう世界アルケラから、あらゆるものを召喚して、使役する事。そう伝わっていた。

 伝わっているだけで、実際目にする事ができる機会は、ほぼないのが現状だ。

 このハーメンリンナにも、召喚スキル〈才能〉を持つ者たちが集められている。ベルトルドとアルカネットは、その者たちと面識を得る機会があったが、キュッリッキのような素晴らしい召喚を見せてもらえたことはない。一般に伝わる噂が、ひとり歩きしているだけの、珍しいだけのスキル〈才能〉だとばかり思っていたが、そうではなかった。

「おいで、リッキー」

 ベルトルドに手招きされて、キュッリッキはベルトルドの前に立つ。

「本当に、良い子だリッキー!!」

「きゃっ」

 素早くキュッリッキの身体を抱き寄せ、ベルトルドは自らの膝の上にキュッリッキを座らせた。

「今日は俺と一緒に寝よう、な、リッキー」

「え、えっ」

「何をしているのですかイヤラシイ! 今すぐリッキーさんをお放しなさい!」

 アルカネットが血相を変えてベルトルドの胸ぐらをつかんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...