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ナルバ山の遺跡編
episode77
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応接テーブルの上に、濃紺色で描かれた花柄の白い磁器のカップが並び、うっすらと湯気を燻らせる紅茶が注がれた。
紅茶の澄んだ香りが室内に広がり、そこへバターやチョコレート菓子の甘い香りが溶け合う。
ベルトルドとキュッリッキはソファセットには座らず、近くの長椅子に座った。そしてアルカネットも、長椅子のそばに控える。
ベルトルドは紅茶を一口啜ると、サイドテーブルにカップを置いた。
「アルケラ研究機関ケレヴィルの連中が、つい先日ソレル王国へ調査に出かけた。あの国は遺跡に関するものが多く出土することで有名だが、ケレヴィルの連中が見つけたものは、とあるエグザイル・システムだ」
一旦区切ると、ベルトルドはアルカネットに手を差し出した。アルカネットは抱えていた書類の束を手渡す。
「貴様らも知っての通り、エグザイル・システムは物質転送装置だ。そして、ケレヴィルが見つけたエグザイル・システムは、我々の知るものとは少々違うものだという」
「違うもの、ですか…」
カーティスが怪訝そうに復唱する。
「そう、違うものであると判った報告書がこうして届き、その直後、ケレヴィルの連中はソレル王国の兵隊たちに捕まったそうだ」
書類をめくりながら、ベルトルドは感情の伺えない声で言い放つ。
キュッリッキは首を伸ばして書類を覗き込む。真っ白な紙には丁寧な文字で、その件の報告が綴られていた。難しい字も多くて、キュッリッキは全部の内容を把握しきれなかった。
「隠れてコソコソ調査していたわけじゃあないんだが、何故このタイミングでソレル王国が動いたのか判らん。遺跡調査に関しての許可書類には、俺のハンコが押されていたんだがな。――あのエロメガネが勝手に押してったらしいが」
ベルトルドの顔が、忌まわしいことを思い出して歪む。リュリュにお仕置きされた直後にシ・アティウスが来て、気絶している間に勝手にペタペタ押していったらしい。
アルケラ研究機関ケレヴィルとは、伝説上の神々の世界アルケラに関する研究をするための組織である。その他にも、失われた超古代文明の研究、関連遺跡の調査、探索なども行っていた。そしてベルトルドはケレヴィルの所長職も兼任している。
「ソレル王国は独立の形をとってはいるが、所詮皇国の属国に過ぎん。ケレヴィルに手を出すということは、この俺を、ひいては皇国を敵に回すということだ」
「それでは、要請して軍を動かしますか?」
ルーファスが身を乗り出すと、ベルトルドは首を横に振った。
「いや、軍を出すには状況が中途半端だ。皇国を敵に回すような行いをしてはいるが、明らかな宣戦布告をしてきたわけじゃないしな。ソレル王国の真意も見えてこないし」
「それで、我々の出番というわけですか」
「そういうことだ」
小さく笑みを浮かべたカーティスに、ベルトルドは頷いた。
「今回は俺の依頼で動いてもらう。研究員たちの奪還、エグザイルシステムの確保、ついでに少々暴れてもらって構わない。そして人員は任せるし、全員連れて行ってもいい。詳細も全部お前に丸投げするから好きにやってくれて構わん。ただし、キュッリッキは必ず連れて行くように」
「判りました」
「リッキー、俺との連絡用に、その足元の仔犬を置いていってもらえるかな?」
ベルトルドはキュッリッキの足元に顔を向ける。何もいないはずだが、キュッリッキは驚いた顔でベルトルドを見上げた。
「見えるの?」
「ああ。銀色の毛並みが綺麗だな。召喚したものだね」
ベルトルドは優しく微笑んだ。
紅茶の澄んだ香りが室内に広がり、そこへバターやチョコレート菓子の甘い香りが溶け合う。
ベルトルドとキュッリッキはソファセットには座らず、近くの長椅子に座った。そしてアルカネットも、長椅子のそばに控える。
ベルトルドは紅茶を一口啜ると、サイドテーブルにカップを置いた。
「アルケラ研究機関ケレヴィルの連中が、つい先日ソレル王国へ調査に出かけた。あの国は遺跡に関するものが多く出土することで有名だが、ケレヴィルの連中が見つけたものは、とあるエグザイル・システムだ」
一旦区切ると、ベルトルドはアルカネットに手を差し出した。アルカネットは抱えていた書類の束を手渡す。
「貴様らも知っての通り、エグザイル・システムは物質転送装置だ。そして、ケレヴィルが見つけたエグザイル・システムは、我々の知るものとは少々違うものだという」
「違うもの、ですか…」
カーティスが怪訝そうに復唱する。
「そう、違うものであると判った報告書がこうして届き、その直後、ケレヴィルの連中はソレル王国の兵隊たちに捕まったそうだ」
書類をめくりながら、ベルトルドは感情の伺えない声で言い放つ。
キュッリッキは首を伸ばして書類を覗き込む。真っ白な紙には丁寧な文字で、その件の報告が綴られていた。難しい字も多くて、キュッリッキは全部の内容を把握しきれなかった。
「隠れてコソコソ調査していたわけじゃあないんだが、何故このタイミングでソレル王国が動いたのか判らん。遺跡調査に関しての許可書類には、俺のハンコが押されていたんだがな。――あのエロメガネが勝手に押してったらしいが」
ベルトルドの顔が、忌まわしいことを思い出して歪む。リュリュにお仕置きされた直後にシ・アティウスが来て、気絶している間に勝手にペタペタ押していったらしい。
アルケラ研究機関ケレヴィルとは、伝説上の神々の世界アルケラに関する研究をするための組織である。その他にも、失われた超古代文明の研究、関連遺跡の調査、探索なども行っていた。そしてベルトルドはケレヴィルの所長職も兼任している。
「ソレル王国は独立の形をとってはいるが、所詮皇国の属国に過ぎん。ケレヴィルに手を出すということは、この俺を、ひいては皇国を敵に回すということだ」
「それでは、要請して軍を動かしますか?」
ルーファスが身を乗り出すと、ベルトルドは首を横に振った。
「いや、軍を出すには状況が中途半端だ。皇国を敵に回すような行いをしてはいるが、明らかな宣戦布告をしてきたわけじゃないしな。ソレル王国の真意も見えてこないし」
「それで、我々の出番というわけですか」
「そういうことだ」
小さく笑みを浮かべたカーティスに、ベルトルドは頷いた。
「今回は俺の依頼で動いてもらう。研究員たちの奪還、エグザイルシステムの確保、ついでに少々暴れてもらって構わない。そして人員は任せるし、全員連れて行ってもいい。詳細も全部お前に丸投げするから好きにやってくれて構わん。ただし、キュッリッキは必ず連れて行くように」
「判りました」
「リッキー、俺との連絡用に、その足元の仔犬を置いていってもらえるかな?」
ベルトルドはキュッリッキの足元に顔を向ける。何もいないはずだが、キュッリッキは驚いた顔でベルトルドを見上げた。
「見えるの?」
「ああ。銀色の毛並みが綺麗だな。召喚したものだね」
ベルトルドは優しく微笑んだ。
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