片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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ナルバ山の遺跡編

episode62

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(なんという、忌々しい小僧めが…)

 もちろん、身長差ではない。傲岸な表情も態度も改めず、不躾に見下ろしてくるその目が気に入らない。

(フンッ、まあいい。きゃつをこの場で、その不釣合いな地位から蹴り落としてくれる)

 そうキャラウェイ将軍は胸の内で嘲笑した。

 一方ベルトルドは、

(ふーん)

 呆れたように、小さく鼻を鳴らしていた。

 玉座で笑いを噛み殺していた皇王は、わざとらしく咳払いをする。

「して、何用じゃ、キャラウェイ」

 皇王に声をかけられ、キャラウェイ将軍は慌ててその場に跪いた。

「はっ! 実は陛下に申し上げたい義がございます!」

「ほほう」

「過日、隣におられる副宰相殿の良からぬ噂を耳にいたしまして。そのような不穏な噂など言語道断! 至急出処を掴み、処罰しようとした矢先、このようなものを発見したのでございます」

 皇王の傍近くに控える侍従を手招きし、キャラウェイ将軍は封筒を手渡した。

 侍従は速やかにこれを皇王に手渡し、皇王が中身を抜き取ると、封筒だけを受け取り控えた。

 皇王は一通の書類に添付されたものを見て、大袈裟な溜め息をついてみせた。

「ベルトルドや、そなた、サイヨンマー伯夫人にまで手を出しておったのか」

「ぬ?」

 ベルトルドは大股で玉座に近寄り、皇王の手にしている書類を覗き込んだ。

「……ああ、淫乱夫人か」

 サイヨンマー伯爵は、貴族でありながら商才のある人物で、家督を継ぐ前から家業の商売を手伝い、莫大な富を築いている。その夫人ヘルカは、社交界でも上位の美貌の持ち主として、あらゆる男性との浮名を流していた。

「言っておくが、俺が手を出したわけじゃないぞ、淫乱夫人が手を出してきたんだ」

 ベルトルドは腕を組むと、キャラウェイ将軍をジロリと睨む。

「セックスは上手いが、淫乱すぎるんだ。俺の股間に食らいついて、離れようとしないからさすがに呆れて蹴飛ばした。その件で俺を恨んでるのかな?」

「そんな個人的な恨みなど知らぬ……」

 キャラウェイ将軍は眉をピクピクさせて、ベルトルドを睨み返した。

「しかし女は怖いなあ、堂々と浮気をボケジジイに披露してしまうんだから」

「浮気の証拠写真を見て、開き直ってるそなたのほうが怖いぞ」

「だいたいこれは、俺は後ろ姿で後頭部と背中しか見えないじゃないか。淫乱夫人の乱れ切った喘顔だけは、ハッキリと写っているが」

 それに、と言ってベルトルドは肩をすくめる。

「一体何時撮ったんだコレ? 天蓋付きのベッドだったと記憶にあるんだがな…」

「天蓋に監視カメラでも設置してあったんじゃろ…」

「ああ。悪趣味だなあ~」

 すっかり世間話のように話し始めたベルトルドと皇王を見て、キャラウェイ将軍は予想外の展開に頭を激しく混乱させていた。
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