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ライオン傭兵団編
episode56
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人間としてマトモな両親たちに育てられたヴァルトも、偏見意識は殆どない。蔑まれる女児を可哀想だとも思ったし、出会うことがあれば、力になってあげたいとも思っていた。
その話題の女児が目の前にいる。
そしてなにより興味深いことがあった。それを確かめたくて、キュッリッキを攫うようにして、ひとけのないここまで連れてきたのだ。
「翼見して」
ヴァルトは何の感情もこもらぬ声で言う。
キュッリッキは複雑な表情を浮かべ、きゅっと下唇を噛んだ。両手の拳を握り、肩を震わせる。無言で恨めしそうにヴァルトを睨みつけた。
そんなキュッリッキの目をものともせず、ヴァルトは青い瞳でただ、キュッリッキの瞳を見つめ返した。その、黄緑色の瞳にまといつく虹色の光彩を。
ヴァルトは何も言わず、キュッリッキが翼を出すまで黙って見ていた。
残酷なことを言っているのは判っている。心の傷を抉り出し、不遇の原因となった翼を見せろと言っているのだ。キュッリッキにとって、耐え難い苦痛と屈辱だろうに。それでも、ヴァルトは見たかった。
キュッリッキはヴァルトを睨み続けていたが、顎を引くと、やがて観念したように目を伏せる。
(どうせ、アタシのこと知ってるんだもんね…)
カッと怒りが頭にのぼったが、悲しい気持ちがすぐに心に広がっていった。
――醜い子! 醜い翼!!
――こんな出来損ないを私が生んだなんて!
この翼のせいで、片翼のせいで、幼い頃から浴びせられ続けた酷い言葉の数々。それがゆっくりと心に浮かび上がってきた。その度に、心がズキリと痛みに震える。
(なんでこんなものが、見たいんだろ…)
親にも嫌われた、醜い翼なんて。
急に、どうでもいい気がしてきて、キュッリッキは苦笑した。
両手を胸の前で交差させ、腕を抱く。僅かに前のめりになるようにして、腕を抱いた手に若干力を込めた。
バサアアッ。
粉雪のように、羽根がヒラヒラ舞い落ちる。ヴァルトは大きく目を見開いた。
そこには見事な翼が右側に一つと、むしり取られた残骸のような翼が左側に一つ。
「噂は、本当だったんだなあ……」
上ずったような声でヴァルトは呟いた。
その呟きを、キュッリッキは片翼のことだと思って顔を俯かせた。
「瞳と同じように、翼も虹色の光彩をまとっているのか~。キレーだなあ」
「え?」
「オマエの噂話を聞いたとき、その翼の話も聞いたんだ。召喚スキル〈才能〉を持つと、翼までチガウもんなんだなーって」
アイオン族の翼は本来白色をしている。クリーム色系をしていたり、青みがかっていたり、個人差は多少あるものの、真っ白な翼をしているものだ。しかし、キュッリッキは生まれ落ちた時から、翼にも虹色の光彩が散らばっていて、それは珍しいと噂になった。
「会うことがあれば、どーーしても、一回見たかったんだ~」
ヴァルトはニッコリと笑った。
「あんがとな! もう仕舞っていいぞ」
大満足そうに鼻息をつくと、ヴァルトはふとキュッリッキの背後に目を走らせた。
「おーーーい! そこでなに覗き見してるんだ覗き魔!!」
その話題の女児が目の前にいる。
そしてなにより興味深いことがあった。それを確かめたくて、キュッリッキを攫うようにして、ひとけのないここまで連れてきたのだ。
「翼見して」
ヴァルトは何の感情もこもらぬ声で言う。
キュッリッキは複雑な表情を浮かべ、きゅっと下唇を噛んだ。両手の拳を握り、肩を震わせる。無言で恨めしそうにヴァルトを睨みつけた。
そんなキュッリッキの目をものともせず、ヴァルトは青い瞳でただ、キュッリッキの瞳を見つめ返した。その、黄緑色の瞳にまといつく虹色の光彩を。
ヴァルトは何も言わず、キュッリッキが翼を出すまで黙って見ていた。
残酷なことを言っているのは判っている。心の傷を抉り出し、不遇の原因となった翼を見せろと言っているのだ。キュッリッキにとって、耐え難い苦痛と屈辱だろうに。それでも、ヴァルトは見たかった。
キュッリッキはヴァルトを睨み続けていたが、顎を引くと、やがて観念したように目を伏せる。
(どうせ、アタシのこと知ってるんだもんね…)
カッと怒りが頭にのぼったが、悲しい気持ちがすぐに心に広がっていった。
――醜い子! 醜い翼!!
――こんな出来損ないを私が生んだなんて!
この翼のせいで、片翼のせいで、幼い頃から浴びせられ続けた酷い言葉の数々。それがゆっくりと心に浮かび上がってきた。その度に、心がズキリと痛みに震える。
(なんでこんなものが、見たいんだろ…)
親にも嫌われた、醜い翼なんて。
急に、どうでもいい気がしてきて、キュッリッキは苦笑した。
両手を胸の前で交差させ、腕を抱く。僅かに前のめりになるようにして、腕を抱いた手に若干力を込めた。
バサアアッ。
粉雪のように、羽根がヒラヒラ舞い落ちる。ヴァルトは大きく目を見開いた。
そこには見事な翼が右側に一つと、むしり取られた残骸のような翼が左側に一つ。
「噂は、本当だったんだなあ……」
上ずったような声でヴァルトは呟いた。
その呟きを、キュッリッキは片翼のことだと思って顔を俯かせた。
「瞳と同じように、翼も虹色の光彩をまとっているのか~。キレーだなあ」
「え?」
「オマエの噂話を聞いたとき、その翼の話も聞いたんだ。召喚スキル〈才能〉を持つと、翼までチガウもんなんだなーって」
アイオン族の翼は本来白色をしている。クリーム色系をしていたり、青みがかっていたり、個人差は多少あるものの、真っ白な翼をしているものだ。しかし、キュッリッキは生まれ落ちた時から、翼にも虹色の光彩が散らばっていて、それは珍しいと噂になった。
「会うことがあれば、どーーしても、一回見たかったんだ~」
ヴァルトはニッコリと笑った。
「あんがとな! もう仕舞っていいぞ」
大満足そうに鼻息をつくと、ヴァルトはふとキュッリッキの背後に目を走らせた。
「おーーーい! そこでなに覗き見してるんだ覗き魔!!」
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