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ライオン傭兵団編
episode54
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「そ~~~~~~~いっ!」
ヴァルトは元気に掛け声をあげると、キュッリッキを藁束の上に、ぽいっと放り落とした。
上空三メートルから放り落とされて、顔面から藁束に突っ込み、盛大に舞ったホコリと藁くずにまみれてしまった。
「俺様ナイスコントロール!」
ヴァルトは腕組をしながら、ふふーんと満足そうに頷く。
(いつか……絶対……ぶっ殺す!!)
藁から顔を引っこ抜き、よろよろと上体を起すと、キュッリッキは心の中で拳を固く握った。スカートがめくれて、水色のストライプパンツが、丸見えになっていることにも気づいていない。いきなりこんなことをされて、腹が立っているからだ。
ホコリと藁くずの舞がおさまるのを見計らって、ヴァルトはゆっくり降りてくると、キュッリッキの横に着地して、すとんっと胡座をかいた。
ここは家畜の餌用にまとめられた大きな藁束が、いくつも無造作に置かれた倉庫裏の一画だった。人気もなく辺りは静まり返っている。
「で……話って、なに?」
ムスっと唇を尖らせたキュッリッキは、身体についたホコリと藁くずを叩き落としながら、藁束の上から飛び降りる。
「オマエ、あの片翼の出来損ないだろ?」
着地と同時に言われて、キュッリッキはハッとなる。
片翼の出来損、何年ぶりに聞いただろう、忌まわしい言葉。
「暫く思い出せなかったんだけどよー、今朝いきなり思い出したんだ」
ヴァルトは胡座をかいた上に肩肘をついて、じっとキュッリッキを見おろしている。表情も声も、淡々としていた。
硬直したようにヴァルトに背を向けていたキュッリッキは、ゆっくりとヴァルトのほうを向いて、そして怯えの色を滲ませながら睨みつけた。
「……同族なんだから、知ってるでしょ」
「まーね。オマエが生まれたとき、他惑星のアイオン族のとこにも、話題が広まるほどユーメイだったからな」
睨みつけてくるキュッリッキの視線を真っ向から受け止め、ヴァルトは青い瞳を揺るがすことなく見つめ返す。そして、ふいっと視線を空へ向けた。
「アイオン族はもとからイケスカナイ一族だが、極めつけのオーサマを生み出しちまった。第57代皇帝アルファルド、コイツのせーで、アイオン族は益々嫌われ者になった」
「……」
「”アイオン族は完璧であらねばならない。欠陥品はクズ同然、アイオン族を名乗るのもおこがましい。飛ばない鳥を、鳥とは言わない。アイオン族の面汚し”。――こんなこと言い出しちまったせーで、オマエみたいな奇形児は、風当たりが冷たかったんだろうな」
第57代皇帝アルファルドは、今から3代前に皇帝の座に就いた、フルメヴァーラ皇家の者である。
ヴァルトの言った皇帝アルファルドの言葉を、キュッリッキもよく知っている。心の傷とともに、深く深く、胸に刻み込まれているからだ。
キュッリッキの脳裏に浮かぶ、幼い頃の光景。
空を見上げている少女、ボロをまとって悲しげに、すがるように、ただただ空を見上げていた。
キュッリッキはそっと目を伏せた。
ヴァルトは元気に掛け声をあげると、キュッリッキを藁束の上に、ぽいっと放り落とした。
上空三メートルから放り落とされて、顔面から藁束に突っ込み、盛大に舞ったホコリと藁くずにまみれてしまった。
「俺様ナイスコントロール!」
ヴァルトは腕組をしながら、ふふーんと満足そうに頷く。
(いつか……絶対……ぶっ殺す!!)
藁から顔を引っこ抜き、よろよろと上体を起すと、キュッリッキは心の中で拳を固く握った。スカートがめくれて、水色のストライプパンツが、丸見えになっていることにも気づいていない。いきなりこんなことをされて、腹が立っているからだ。
ホコリと藁くずの舞がおさまるのを見計らって、ヴァルトはゆっくり降りてくると、キュッリッキの横に着地して、すとんっと胡座をかいた。
ここは家畜の餌用にまとめられた大きな藁束が、いくつも無造作に置かれた倉庫裏の一画だった。人気もなく辺りは静まり返っている。
「で……話って、なに?」
ムスっと唇を尖らせたキュッリッキは、身体についたホコリと藁くずを叩き落としながら、藁束の上から飛び降りる。
「オマエ、あの片翼の出来損ないだろ?」
着地と同時に言われて、キュッリッキはハッとなる。
片翼の出来損、何年ぶりに聞いただろう、忌まわしい言葉。
「暫く思い出せなかったんだけどよー、今朝いきなり思い出したんだ」
ヴァルトは胡座をかいた上に肩肘をついて、じっとキュッリッキを見おろしている。表情も声も、淡々としていた。
硬直したようにヴァルトに背を向けていたキュッリッキは、ゆっくりとヴァルトのほうを向いて、そして怯えの色を滲ませながら睨みつけた。
「……同族なんだから、知ってるでしょ」
「まーね。オマエが生まれたとき、他惑星のアイオン族のとこにも、話題が広まるほどユーメイだったからな」
睨みつけてくるキュッリッキの視線を真っ向から受け止め、ヴァルトは青い瞳を揺るがすことなく見つめ返す。そして、ふいっと視線を空へ向けた。
「アイオン族はもとからイケスカナイ一族だが、極めつけのオーサマを生み出しちまった。第57代皇帝アルファルド、コイツのせーで、アイオン族は益々嫌われ者になった」
「……」
「”アイオン族は完璧であらねばならない。欠陥品はクズ同然、アイオン族を名乗るのもおこがましい。飛ばない鳥を、鳥とは言わない。アイオン族の面汚し”。――こんなこと言い出しちまったせーで、オマエみたいな奇形児は、風当たりが冷たかったんだろうな」
第57代皇帝アルファルドは、今から3代前に皇帝の座に就いた、フルメヴァーラ皇家の者である。
ヴァルトの言った皇帝アルファルドの言葉を、キュッリッキもよく知っている。心の傷とともに、深く深く、胸に刻み込まれているからだ。
キュッリッキの脳裏に浮かぶ、幼い頃の光景。
空を見上げている少女、ボロをまとって悲しげに、すがるように、ただただ空を見上げていた。
キュッリッキはそっと目を伏せた。
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