56 / 882
ライオン傭兵団編
episode53
しおりを挟む
ライオン傭兵団に引っ越してきて、一週間ほど過ぎても、キュッリッキはまだ談話室に入ることができずにいた。
今はアジトに全員顔を揃えているし、たいていみんな談話室に揃っている。
みんな集まる食堂へは、食事をする大義名分があるので行ける。でもどうしても、まだ談話室デビューができない。そんなキュッリッキの様子に、いつ自分から入ってくるだろうと、仲間たちで密かに賭け事が行われていることは知らない。そのせいで、誰かが引っ張っていってくれることもなかった。
部屋から出て、階段の踊り場でモジモジと、降りる降りないをしながら、溜め息混じりに窓の外を眺めるのが日課になっている。談話室へ行けたとしても、そのあとどう行動すればいいか悩む。
好きなことをすればいい、と言われていても、その好きなことが思いつかない。話をしてみたいと思っても、どんな話をすればいいかさえ思いつかなかった。
今日も勇気が出なくて、心の中で葛藤しながら、窓の外をただ眺めていると、
「なーに一人で暗く落ち込んでんだ??」
「きゃっ…」
背後からいきなり声をかけられて、ぎょっと振り返る。
そこには両腕を組んで、仁王立ちしながらキュッリッキを見下ろしているヴァルトがいた。
「ちょっとハナシあんだ。付き合えよ」
「……え?」
ヴァルトは長い腕を伸ばし、窓を全開に開ける。
「あっちいこーぜ!」
「ちょっ」
ヴァルトはキュッリッキの両脇に手を入れると、そのまま抱えて窓の外に飛び出た。
「やっ」
浮遊感に一瞬目を瞑ったが、急にガクンっと身体が弾み、すいーっと風が頬を凪いでいった。
「え?」
目を開けて後ろを向くと、ヴァルトの背から真っ白で大きな翼が生えているのが見える。
(あれって…)
アイオン族の翼だ。
それが判った瞬間、キュッリッキの表情に苦いものが過ぎり、辛そうに俯いて唇を噛み締めた。
「ん? ありゃ…」
タバコを買いに出ていたザカリーは、ヴァルトとキュッリッキが飛んでいく姿を偶然見かけた。しかしその様子に呆れた溜め息が出る。
「せめてお姫様抱っこしてけよ、あのバカ」
両脇を掴んでぶら下げた格好にして飛んでいるため、ミニスカート姿のキュッリッキのパンツが丸見えである。あれではスカートを押さえることができない。
今日は可愛い水色のストライプだと判り、ザカリーはちょっと嬉しくなった。
「いやいやパンツの柄じゃなくってだな、ドコ行くんだあいつら」
急に興味が湧いて、ザカリーは二人を目で追いながら走り出した。遠隔武器スキル〈才能〉を持つザカリーなら、見失うことはない。
「倉庫街のほうだな」
だいたいの位置が判り、ザカリーは二人を追跡し始めた。
今はアジトに全員顔を揃えているし、たいていみんな談話室に揃っている。
みんな集まる食堂へは、食事をする大義名分があるので行ける。でもどうしても、まだ談話室デビューができない。そんなキュッリッキの様子に、いつ自分から入ってくるだろうと、仲間たちで密かに賭け事が行われていることは知らない。そのせいで、誰かが引っ張っていってくれることもなかった。
部屋から出て、階段の踊り場でモジモジと、降りる降りないをしながら、溜め息混じりに窓の外を眺めるのが日課になっている。談話室へ行けたとしても、そのあとどう行動すればいいか悩む。
好きなことをすればいい、と言われていても、その好きなことが思いつかない。話をしてみたいと思っても、どんな話をすればいいかさえ思いつかなかった。
今日も勇気が出なくて、心の中で葛藤しながら、窓の外をただ眺めていると、
「なーに一人で暗く落ち込んでんだ??」
「きゃっ…」
背後からいきなり声をかけられて、ぎょっと振り返る。
そこには両腕を組んで、仁王立ちしながらキュッリッキを見下ろしているヴァルトがいた。
「ちょっとハナシあんだ。付き合えよ」
「……え?」
ヴァルトは長い腕を伸ばし、窓を全開に開ける。
「あっちいこーぜ!」
「ちょっ」
ヴァルトはキュッリッキの両脇に手を入れると、そのまま抱えて窓の外に飛び出た。
「やっ」
浮遊感に一瞬目を瞑ったが、急にガクンっと身体が弾み、すいーっと風が頬を凪いでいった。
「え?」
目を開けて後ろを向くと、ヴァルトの背から真っ白で大きな翼が生えているのが見える。
(あれって…)
アイオン族の翼だ。
それが判った瞬間、キュッリッキの表情に苦いものが過ぎり、辛そうに俯いて唇を噛み締めた。
「ん? ありゃ…」
タバコを買いに出ていたザカリーは、ヴァルトとキュッリッキが飛んでいく姿を偶然見かけた。しかしその様子に呆れた溜め息が出る。
「せめてお姫様抱っこしてけよ、あのバカ」
両脇を掴んでぶら下げた格好にして飛んでいるため、ミニスカート姿のキュッリッキのパンツが丸見えである。あれではスカートを押さえることができない。
今日は可愛い水色のストライプだと判り、ザカリーはちょっと嬉しくなった。
「いやいやパンツの柄じゃなくってだな、ドコ行くんだあいつら」
急に興味が湧いて、ザカリーは二人を目で追いながら走り出した。遠隔武器スキル〈才能〉を持つザカリーなら、見失うことはない。
「倉庫街のほうだな」
だいたいの位置が判り、ザカリーは二人を追跡し始めた。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる