片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
55 / 882
ライオン傭兵団編

episode52

しおりを挟む
 キュッリッキとギャリーが仲直りして、団の雰囲気も和やかになったところで、またもや問題が発生した。正確には、キュッリッキだけには大問題である。

 仕事で出ていたザカリーやルーファスたちが、仕事を終え5日ほどで戻ってきて、アジトで打ち上げを開いていたときのことである。

 酒が足りねえ、つまみを寄越せ、オレサマ武勇伝、などと盛り上がる中、突如ヴァルトが大声を上げて立ち上がった。

「やい、こら、てめー! その舌噛みそうな名前をどうにかしろ!!」

 ビシッと人差し指を突きつけた先に、キュッリッキがぽかんと口を開けて座っている。どうやらキュッリッキの前に置かれた料理の皿を、取って欲しいとキュッリッキに言おうとして、名前を噛んだようだ。

 いきなりキレられて、キュッリッキは頭上にクエスチョンマークを点滅させた。

「なにキレてんだ? おめーは…」

 ギャリーがボソリとツッコむと、ヴァルトは腕を組んでふんぞり返る。

「とにかくお前の名前は言いにくくて困る!」

「べ、別にアタシが自分でつけたわけじゃないもん!」

 つられて憤慨すると、キュッリッキは拳をぎゅっと握って立ち上がった。

「この俺様が、ジキジキにお前にあだ名を授けてやる!」

「授けてくれなくってもいいわよ!」

「よし! お前は今日から”キューリ”だ!!!」

 食堂が一斉に静まり返る。

 暫し間を空けたあと、ルーファスが真っ先に吹き出した。

「それ、イイ!」

 その言葉に、キュッリッキも我を取り戻す。

「全然良くないわよっ!」

「あー、確かにそれイイな」

「言いやすいですねえ」

「可愛いじゃなぁ~い」

 同意する声が次々とあがる。

 得意満面に「ふふーん」とするヴァルトに、キュッリッキは噛み付かんばかりに叫ぶ。

「アタシには”リッキー”ってあだ名があるの! そんな野菜の名前で呼ばれたくないんだから!」

「却下だ! お前は今日から”キューリ”で決まりなのだ!」

「絶対に、嫌だもん!!」

 認めないキュッリッキは置き去りに、みんな”キューリ”というあだ名がお気に召したようだった。

「あだ名ってイイよね、結束感が高まるっていうか」

 ルーファスがニコニコ言うと、

「ほ、本当にそれでみなさん、イイんですか…」

 メルヴィンが困ったように肩をすくめた。

「あのヴァルトにしては、中々にナイスネーミングですよ」

 カーティスがご機嫌で頷く。

「キューリなんて、絶対嫌なの~~~~!」

 キュッリッキは必死に言うが、結局メルヴィンを除いた全員が、ヴァルト考案の”キューリ”を採用して、以降”キューリ”と呼ばれることになってしまうのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】

小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。 これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。 失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。 無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。 そんなある日のこと。 ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。 『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。 そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……

処理中です...