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ライオン傭兵団編
episode42
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いつもなら、すぐにドアを開けてくれたのに、今日は神妙な顔で敬礼されただけだった。それが不思議で、シ・アティウスは軽く首をかしげてみせた。
「そ……そのっ」
「バカ、黙ってろ」
左右の衛兵同士、何やら小声で言い合っている。
「……すまないが、すぐにハンコをもらって、出発したいんだが」
「ですがあ、そのお…」
「ふむ」
シ・アティウスは眼鏡をかけていて、色付きレンズで表情が判別しにくい。口元にも表情が浮かんでいないから、無表情に見えてしまう。そのシ・アティウスの顔を見て、左右の衛兵は顔を見合わせると、右に居る衛兵が溜め息をついて顔を上げた。
「リュリュ様のお仕置きが、その、始まったようで…」
「ああ、なるほど」
シ・アティウスは大きく頷いた。
「それなら問題ない。見慣れてるから」
ギョッとした衛兵たちに、シ・アティウスは小さく笑ってみせた。
「急ぐから開けてほしい」
「わ、判りました」
「ありがとう」
衛兵たちはドアを開けて、シ・アティウスが入ったのを確認してドアを閉めた。
シ・アティウスは奥のデスクの方を見るが、ベルトルドもリュリュもいない。部屋を見回すが見当たらない。
「おや、空間転移でどっかいったのかな?」
困ったように佇んでいると、デスクの奥からリュリュが立ち上がった。そしてシ・アティウスのほうへ目をくれる。
「あらん、シ・アティウスじゃない」
「いた」
ボソリと呟き、シ・アティウスはデスクのほうへと行く。
「居ないのかと思った」
「あら、ごめんあそばせ。ちょっと、ベルにお仕置きしてたから」
語尾にハートマークでもつきそうな顔で、ニッコリとリュリュは笑う。心なしか肌がツヤツヤして見えた。
「ベルトルド様は?」
「あン、すぐパンツとズボンはかせるから、ちょっと待っててん」
嬉しそうな顔でリュリュはしゃがむと、身動きしないベルトルドを着替え直してやる。
「もうお仕置きすんだのか」
「ええ、美味しかったわ」
「そうか」
「見たかったの? あーたも好きねえ」
「いや、見たら暫く笑いが止まらなくなる」
「あら失礼しちゃう。アタシの口は、とぉーっても上手いンだから」
拗ねたようなリュリュから目を背け、
「オカマは怖いな…」
囁くように呟いた。が、
「なんか言った?」
「いや、なにも」
オカマは地獄耳、と胸中でさらに呟く。
「ちょっとベルぅ、シ・アティウス来てるわよ」
リュリュが顔をペチペチ叩くが、ベルトルドは魂が抜けたように気絶して、白目をむいていた。昇天するほど気持ちよかったのねン、などとリュリュは嬉しそうにベルトルドの顔を舐めていた。
「起きそうもないな、すまないがハンコ勝手に借りるぞ。時間がない」
「イイケド、例のソレル王国の?」
「そうだ。ナルバ山の遺跡調査へ行ってくる」
シ・アティウスは勝手にハンコにインクをつけて、書類にペタペタ押しまくった。
「そ……そのっ」
「バカ、黙ってろ」
左右の衛兵同士、何やら小声で言い合っている。
「……すまないが、すぐにハンコをもらって、出発したいんだが」
「ですがあ、そのお…」
「ふむ」
シ・アティウスは眼鏡をかけていて、色付きレンズで表情が判別しにくい。口元にも表情が浮かんでいないから、無表情に見えてしまう。そのシ・アティウスの顔を見て、左右の衛兵は顔を見合わせると、右に居る衛兵が溜め息をついて顔を上げた。
「リュリュ様のお仕置きが、その、始まったようで…」
「ああ、なるほど」
シ・アティウスは大きく頷いた。
「それなら問題ない。見慣れてるから」
ギョッとした衛兵たちに、シ・アティウスは小さく笑ってみせた。
「急ぐから開けてほしい」
「わ、判りました」
「ありがとう」
衛兵たちはドアを開けて、シ・アティウスが入ったのを確認してドアを閉めた。
シ・アティウスは奥のデスクの方を見るが、ベルトルドもリュリュもいない。部屋を見回すが見当たらない。
「おや、空間転移でどっかいったのかな?」
困ったように佇んでいると、デスクの奥からリュリュが立ち上がった。そしてシ・アティウスのほうへ目をくれる。
「あらん、シ・アティウスじゃない」
「いた」
ボソリと呟き、シ・アティウスはデスクのほうへと行く。
「居ないのかと思った」
「あら、ごめんあそばせ。ちょっと、ベルにお仕置きしてたから」
語尾にハートマークでもつきそうな顔で、ニッコリとリュリュは笑う。心なしか肌がツヤツヤして見えた。
「ベルトルド様は?」
「あン、すぐパンツとズボンはかせるから、ちょっと待っててん」
嬉しそうな顔でリュリュはしゃがむと、身動きしないベルトルドを着替え直してやる。
「もうお仕置きすんだのか」
「ええ、美味しかったわ」
「そうか」
「見たかったの? あーたも好きねえ」
「いや、見たら暫く笑いが止まらなくなる」
「あら失礼しちゃう。アタシの口は、とぉーっても上手いンだから」
拗ねたようなリュリュから目を背け、
「オカマは怖いな…」
囁くように呟いた。が、
「なんか言った?」
「いや、なにも」
オカマは地獄耳、と胸中でさらに呟く。
「ちょっとベルぅ、シ・アティウス来てるわよ」
リュリュが顔をペチペチ叩くが、ベルトルドは魂が抜けたように気絶して、白目をむいていた。昇天するほど気持ちよかったのねン、などとリュリュは嬉しそうにベルトルドの顔を舐めていた。
「起きそうもないな、すまないがハンコ勝手に借りるぞ。時間がない」
「イイケド、例のソレル王国の?」
「そうだ。ナルバ山の遺跡調査へ行ってくる」
シ・アティウスは勝手にハンコにインクをつけて、書類にペタペタ押しまくった。
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