片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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ライオン傭兵団編

episode40

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 エーメリ少年は部屋の一角にしゃがみこみ、まめまめしく働いていた。

 彼はオデット姫専属の従者である。なんと、副宰相自らに任命されたのだ。

 シートの外側に撒き散らしてある砂を、小さなブラシでかき集め、砂場に入れる。そして、水入れの中の水を替えて、チモシーグラスを新しいものに替えた。

 次に、部屋中に散らばる姫の粗相のあとを、丁寧に掃除していった。

「エーメリ」

「はっ、はい!」

 突如副宰相に名を呼ばれ、エーメリ少年は鯱張って立ち上がった。

「毎日オデットの世話をありがとう。礼に褒美をつかわす」

「そ、そんな、勿体のうございます!」

「よいよい、こっちへきて、特別に姫の背中を撫でさせてやろう」

 エーメリ少年は目を輝かせて、カクカクと手足を動かして、副宰相のデスクの傍らに立つ。

 恐る恐る手を伸ばし、そのモフモフする背中を、指でそっと撫でた。

 つるん。

 柔らかくしなやかで、すべすべとした指触り。エーメリ少年は感動のあまり、ブルッと身震いした。

「気持ちいいだろう」

「はい! 閣下!」

「なぁに少年で遊んでンのよっ!」

 ゴンッ!

「いでっ」

 丸めた書類で脳天を叩かれたベルトルドは、涙目でリュリュを見上げる。

「痛いじゃないか」

「おだまり。痛いように叩いたのよ。それとエーメリ、あーたも世話済んだら下がんなさい」

「はいっ!」

 飛び上がりそうなほど吃驚していたエーメリ少年は、ベルトルドとリュリュに敬礼すると、世話道具を片付けて、部屋を逃げ出すようにして出て行った。

「未成年にも通じるオカマの恐怖」

「なにか言ったかしら?」

「なにも言ってません」

「お仕事なさい」

「はい」

 ベルトルドはオデット姫をデスクの隅に置いたカゴに入れると、山のように積まれた書類を上からとった。

「あの子は士官候補生でしょ、ペットの世話に抜擢してどうすンのよ」

「オデットが見つけてきて、あの少年がいいと言うんだ」

「ついに小動物の言葉も判るようになったのあーた…」

 胡乱げなリュリュに、ベルトルドは首を振る。

「言葉じゃなく、頭に浮かんだイメージをな、透視したんだ。案の定エーメリ少年相手だと、オデットも機嫌がイイ」

 カゴの中のオデットを見ると、ガーゼのクッションの上で、丸くなって眠っていた。

 ネズミウサギと勝手に称したこの小動物は、チンチラという齧歯類だと判明した。知り合いがたまたま知っていたのだ。

 チンチラが気に入ったベルトルドが屋敷に連れ帰ろうとすると、断固拒否した執事のアルカネットの反対にあい、泣く泣く自分の執務室で飼うことを決めた。そして、その世話係に、士官候補生のエーメリ少年を選んで就けたのだった。

「リスやネズミが嫌いだからな、アルカネットのやつ」
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