43 / 882
ライオン傭兵団編
episode40
しおりを挟む
エーメリ少年は部屋の一角にしゃがみこみ、まめまめしく働いていた。
彼はオデット姫専属の従者である。なんと、副宰相自らに任命されたのだ。
シートの外側に撒き散らしてある砂を、小さなブラシでかき集め、砂場に入れる。そして、水入れの中の水を替えて、チモシーグラスを新しいものに替えた。
次に、部屋中に散らばる姫の粗相のあとを、丁寧に掃除していった。
「エーメリ」
「はっ、はい!」
突如副宰相に名を呼ばれ、エーメリ少年は鯱張って立ち上がった。
「毎日オデットの世話をありがとう。礼に褒美をつかわす」
「そ、そんな、勿体のうございます!」
「よいよい、こっちへきて、特別に姫の背中を撫でさせてやろう」
エーメリ少年は目を輝かせて、カクカクと手足を動かして、副宰相のデスクの傍らに立つ。
恐る恐る手を伸ばし、そのモフモフする背中を、指でそっと撫でた。
つるん。
柔らかくしなやかで、すべすべとした指触り。エーメリ少年は感動のあまり、ブルッと身震いした。
「気持ちいいだろう」
「はい! 閣下!」
「なぁに少年で遊んでンのよっ!」
ゴンッ!
「いでっ」
丸めた書類で脳天を叩かれたベルトルドは、涙目でリュリュを見上げる。
「痛いじゃないか」
「おだまり。痛いように叩いたのよ。それとエーメリ、あーたも世話済んだら下がんなさい」
「はいっ!」
飛び上がりそうなほど吃驚していたエーメリ少年は、ベルトルドとリュリュに敬礼すると、世話道具を片付けて、部屋を逃げ出すようにして出て行った。
「未成年にも通じるオカマの恐怖」
「なにか言ったかしら?」
「なにも言ってません」
「お仕事なさい」
「はい」
ベルトルドはオデット姫をデスクの隅に置いたカゴに入れると、山のように積まれた書類を上からとった。
「あの子は士官候補生でしょ、ペットの世話に抜擢してどうすンのよ」
「オデットが見つけてきて、あの少年がいいと言うんだ」
「ついに小動物の言葉も判るようになったのあーた…」
胡乱げなリュリュに、ベルトルドは首を振る。
「言葉じゃなく、頭に浮かんだイメージをな、透視したんだ。案の定エーメリ少年相手だと、オデットも機嫌がイイ」
カゴの中のオデットを見ると、ガーゼのクッションの上で、丸くなって眠っていた。
ネズミウサギと勝手に称したこの小動物は、チンチラという齧歯類だと判明した。知り合いがたまたま知っていたのだ。
チンチラが気に入ったベルトルドが屋敷に連れ帰ろうとすると、断固拒否した執事のアルカネットの反対にあい、泣く泣く自分の執務室で飼うことを決めた。そして、その世話係に、士官候補生のエーメリ少年を選んで就けたのだった。
「リスやネズミが嫌いだからな、アルカネットのやつ」
彼はオデット姫専属の従者である。なんと、副宰相自らに任命されたのだ。
シートの外側に撒き散らしてある砂を、小さなブラシでかき集め、砂場に入れる。そして、水入れの中の水を替えて、チモシーグラスを新しいものに替えた。
次に、部屋中に散らばる姫の粗相のあとを、丁寧に掃除していった。
「エーメリ」
「はっ、はい!」
突如副宰相に名を呼ばれ、エーメリ少年は鯱張って立ち上がった。
「毎日オデットの世話をありがとう。礼に褒美をつかわす」
「そ、そんな、勿体のうございます!」
「よいよい、こっちへきて、特別に姫の背中を撫でさせてやろう」
エーメリ少年は目を輝かせて、カクカクと手足を動かして、副宰相のデスクの傍らに立つ。
恐る恐る手を伸ばし、そのモフモフする背中を、指でそっと撫でた。
つるん。
柔らかくしなやかで、すべすべとした指触り。エーメリ少年は感動のあまり、ブルッと身震いした。
「気持ちいいだろう」
「はい! 閣下!」
「なぁに少年で遊んでンのよっ!」
ゴンッ!
「いでっ」
丸めた書類で脳天を叩かれたベルトルドは、涙目でリュリュを見上げる。
「痛いじゃないか」
「おだまり。痛いように叩いたのよ。それとエーメリ、あーたも世話済んだら下がんなさい」
「はいっ!」
飛び上がりそうなほど吃驚していたエーメリ少年は、ベルトルドとリュリュに敬礼すると、世話道具を片付けて、部屋を逃げ出すようにして出て行った。
「未成年にも通じるオカマの恐怖」
「なにか言ったかしら?」
「なにも言ってません」
「お仕事なさい」
「はい」
ベルトルドはオデット姫をデスクの隅に置いたカゴに入れると、山のように積まれた書類を上からとった。
「あの子は士官候補生でしょ、ペットの世話に抜擢してどうすンのよ」
「オデットが見つけてきて、あの少年がいいと言うんだ」
「ついに小動物の言葉も判るようになったのあーた…」
胡乱げなリュリュに、ベルトルドは首を振る。
「言葉じゃなく、頭に浮かんだイメージをな、透視したんだ。案の定エーメリ少年相手だと、オデットも機嫌がイイ」
カゴの中のオデットを見ると、ガーゼのクッションの上で、丸くなって眠っていた。
ネズミウサギと勝手に称したこの小動物は、チンチラという齧歯類だと判明した。知り合いがたまたま知っていたのだ。
チンチラが気に入ったベルトルドが屋敷に連れ帰ろうとすると、断固拒否した執事のアルカネットの反対にあい、泣く泣く自分の執務室で飼うことを決めた。そして、その世話係に、士官候補生のエーメリ少年を選んで就けたのだった。
「リスやネズミが嫌いだからな、アルカネットのやつ」
1
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる