片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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ライオン傭兵団編

episode35

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 0時を過ぎた時点で、キュッリッキは眠ってしまった。昨日までの仕事の疲れと、全員と初めての顔合わせ、緊張とアルコールで限界突破してしまったのだ。

 頬を紅潮させたまま、無防備な寝顔をさらけ出している。

「ハーツイーズのアパートまで、送ってきます」

 メルヴィンは立ち上がると、机に突っ伏して寝ているキュッリッキを、そっと腕に抱き上げた。

(見た目通り、やけに軽い子だな…)

 どんなに痩せている少女でも、もっと重いだろうと思う。

「あ、オレも一緒についていくよ」

 ザカリーはジョッキのビールを飲みながら、慌てて立ち上がった。

「ヤダあ、ザカリーってばあ~、部屋がどこか確認してぇ、ナニするつもりなのぉ~?」

 派手な化粧の女――マリオンは、ニヤニヤと意味深な表情でザカリーをからかう。

「んなっ、ちげーよブス!」

「えーん、ブスって言われたあ」

「行こうぜメルヴィン」

「はい。――では、カーティスさん、送ってきます」

「お願いします。気をつけて」

 泣き真似をするマリオンを苦笑しながら見やり、肩を怒らせて歩いていくザカリーの後を、メルヴィンはゆっくりとついていった。



 すでに乗合馬車は走っていない。エルダー街からハーツイーズ街までは、普通に歩いて片道1時間はかかる。

 二人はハーツイーズ方面へ歩き始めた。

「腕が疲れたら、替わるからよ」

「ええ、ありがとうございます」

 ぐっすりと眠っているが、気にならないほどキュッリッキは軽かった。

 ライオン傭兵団のアジトのほうが断然近いのだが、人見知り体質のキュッリッキを、アジトに泊めるのはどうかな、とメルヴィンは思った。まだ引っ越してきていないし、着替えも何もない中、朝目を覚まして恐縮する姿を想像すると、アパートまで送ってやりたくなったのだ。

 歓迎会の席では、ちょっとずつみんなと話をしていたが、アルコールの手助けもある。素面で話すのには、まだ少し時間が必要だろう。

 二人は黙々と暗い夜道を歩いていた。仲が悪いわけでもないし、会話がないということもない。ただ、普段からそれほど積極的に、お互い話をするわけではなかった。

 30分ほど歩いた頃、ザカリーがボソリと口を開いた。

「そいつがさ、ソープワート軍を消し去ったとき、ちょっと怖くなってよ」

「怖い…?」

 少し前を歩くザカリーを、メルヴィンは首をかしげて見つめる。

「直接魔法やサイ《超能力》を使ったわけじゃなく、見たこともない凄い力を呼び出して、それでやってのけてる姿は、初めて見たせいか、なんか怖く感じて」

 ハフッゥっとため息をつき、ザカリーは顔を上げて空を見る。
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