33 / 882
ライオン傭兵団編
episode30
しおりを挟む
乗合馬車が来るのを停留所で待ちながら、メルヴィンは傍らに立つキュッリッキを、チラッと横目で見る。
昨日、ルーファスのテレパシー中継で見せられた彼女の戦闘は、仰天するほど摩訶不思議なものだった。巨大な壁と黒い水。一瞬でソープワート軍を消し去った、その凄まじい力。
18歳と聞いているが、まだ幼さをまとった少女である。童顔というわけではなく、全体的に幼い雰囲気がするのだ。あどけなさと危なっかしさを同居させた、そばにいてやらないと、不安になるほどに。
こんな少女が、あれだけのことをやってのけてしまう。召喚スキル〈才能〉とは、恐ろしいものだと思った。
この先どういうふうにキュッリッキを使っていくか、悩みどころではある、とカーティスは言っていた。キュッリッキ自身は、力のコントロールは出来るだろうから、その強大すぎる力を、如何に仕事に活かしていくか。そこが、カーティスや他のメンバーたちに課せられた、最大の試練になるかもしれない。
仲間に取り込んだからには、その力を上手に活かしてやらなければならない。メルヴィンもそう思うのだった。
「ね、馬車きたよ」
「あ、はい」
キュッリッキに促されて、メルヴィンはハッとなって、慌てて馬車に乗り込んだ。すっかり自分の世界に入り込んでいた。
並んで座ると、メルヴィンはひっそりと息をつく。他にも乗客が2人いた。
「考え事でもしてたの?」
「ええ、まあ」
「ふーん」
一応聞いてみた、といった感じの口調で言われ、メルヴィンは苦笑する。
先程から、極力目を合わせようとしない。ツンケンしているわけでもなく、もしかしたら人見知りする子なのだろうか、とメルヴィンは気づく。小さな身体を固くして、どう接すればいいのか判らないといった感じだ。
「昨日の戦闘、凄かったですね」
唐突に切り出されて、キュッリッキはビクッと思わず身構える。
「召喚スキル〈才能〉の力というのは、凄いものなんですね。初めて見たので驚きましたが、この先色々な力を見ることが出来るのは、楽しみでもあります」
「あ、ありがとう」
頬を赤く染めて、キュッリッキは少し俯いた。こうして率直に褒められることはあまりないので、つい照れてしまう。
「あれは、魔法のようなものなんですか?」
純粋に問われ、否定するように首を横に振る。
「アルケラに住んでいる子たちを、こちらの世界に呼ぶの。そして、アタシの思った通りに動いてくれるんだよ。だから、魔法とは違うの」
いざ言葉にして説明しようとすると、どう伝えればいいか困ってしまう。
「うーん、どう説明したら判りやすいかなあ…」
細い顎に人差し指をあてて、キュッリッキは上目遣いに、暗くなってきた空を見上げた。
昨日、ルーファスのテレパシー中継で見せられた彼女の戦闘は、仰天するほど摩訶不思議なものだった。巨大な壁と黒い水。一瞬でソープワート軍を消し去った、その凄まじい力。
18歳と聞いているが、まだ幼さをまとった少女である。童顔というわけではなく、全体的に幼い雰囲気がするのだ。あどけなさと危なっかしさを同居させた、そばにいてやらないと、不安になるほどに。
こんな少女が、あれだけのことをやってのけてしまう。召喚スキル〈才能〉とは、恐ろしいものだと思った。
この先どういうふうにキュッリッキを使っていくか、悩みどころではある、とカーティスは言っていた。キュッリッキ自身は、力のコントロールは出来るだろうから、その強大すぎる力を、如何に仕事に活かしていくか。そこが、カーティスや他のメンバーたちに課せられた、最大の試練になるかもしれない。
仲間に取り込んだからには、その力を上手に活かしてやらなければならない。メルヴィンもそう思うのだった。
「ね、馬車きたよ」
「あ、はい」
キュッリッキに促されて、メルヴィンはハッとなって、慌てて馬車に乗り込んだ。すっかり自分の世界に入り込んでいた。
並んで座ると、メルヴィンはひっそりと息をつく。他にも乗客が2人いた。
「考え事でもしてたの?」
「ええ、まあ」
「ふーん」
一応聞いてみた、といった感じの口調で言われ、メルヴィンは苦笑する。
先程から、極力目を合わせようとしない。ツンケンしているわけでもなく、もしかしたら人見知りする子なのだろうか、とメルヴィンは気づく。小さな身体を固くして、どう接すればいいのか判らないといった感じだ。
「昨日の戦闘、凄かったですね」
唐突に切り出されて、キュッリッキはビクッと思わず身構える。
「召喚スキル〈才能〉の力というのは、凄いものなんですね。初めて見たので驚きましたが、この先色々な力を見ることが出来るのは、楽しみでもあります」
「あ、ありがとう」
頬を赤く染めて、キュッリッキは少し俯いた。こうして率直に褒められることはあまりないので、つい照れてしまう。
「あれは、魔法のようなものなんですか?」
純粋に問われ、否定するように首を横に振る。
「アルケラに住んでいる子たちを、こちらの世界に呼ぶの。そして、アタシの思った通りに動いてくれるんだよ。だから、魔法とは違うの」
いざ言葉にして説明しようとすると、どう伝えればいいか困ってしまう。
「うーん、どう説明したら判りやすいかなあ…」
細い顎に人差し指をあてて、キュッリッキは上目遣いに、暗くなってきた空を見上げた。
1
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】
小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。
これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。
失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。
無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。
そんなある日のこと。
ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。
『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。
そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる