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ライオン傭兵団編
episode28
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《うみぶた亭》で食事を終えた二人は、市場で食材をそれぞれ買い込んだ。あまり料理はしないが、外食ばかりだと出費がかさむので、なるべく自炊するようにはしている。
雑談をしながら港をぶらついて、二人は帰路に着いた。
「引越しは何時なんだ?」
「来週にする予定」
「今週は仕事もないし、暇してるから荷造り手伝うよ」
「ありがとう、助かる~」
「来週は恒例の仕事が入ってるから、荷運びが手伝えるかどうかだな」
「それほど多くはないし、手押し車借りたら、自分で運べると思う」
ごく当たり前のように言われて、ハドリーは眉間を寄せる。
「……やっぱ心配だな。時間の都合つけて手伝うわ…」
「タブン大丈夫だと思うんだけどなあ」
キュッリッキは自覚していないが、かなり非力である。それが判っているハドリーは、上り坂で難儀しているキュッリッキが容易に想像できて、不安でたまらない。
馬車を借りればいいが、生憎、街の中で馬車を操るには、専用の免許が必要になる。ハドリーは持っているが、キュッリッキは持っていなかった。
アパートに着いた二人は、そこで別れてそれぞれの部屋に戻った。
食材を保冷箱に入れて、お茶を沸かす。ご近所の主婦からもらった紅茶で、香りがとてもいい。
「おばちゃんたちとも、暫くお別れかあ」
人生の大先輩である”おばちゃんたち”は、人見知りなキュッリッキを、温かく迎えてくれ、時々他愛ない差し入れもくれたりする。
癇癪を起こして失敗すればすぐ戻ってくることになるだろうし、つつがなく続けていければ、お別れになってしまう。
複雑な思いと寂しさに、ちょっとうるっときて、キュッリッキは頭を振った。
「せっかく凄いとこに入れたんだし、頑張らなくっちゃね!」
両手の拳をギュッと握って、気合を入れたところで、お茶が沸いた。
お茶を飲み終えると、ベッドに足を投げ出して座り、キュッリッキはボーッとしていた。連日馬車での移動が、ちょっと身体に堪えているようだ。なんとなく疲労感に包まれていてダルイ。
窓の外に見える空は、だんだんと青みを薄くし、オレンジ色や紫色が侵食し始めている。夕刻だった。
「今日はもう、動きたくないかも…」
疲れたように言うと、コンコンっとドアを叩く音がして、小さく首をかしげた。
「? 誰だろう」
ハドリーなら、あんな上品なノックはしない。もうひとりの友人も、ノックは派手なほうだ。
出ないわけにもいかないので、キュッリッキは小走りに玄関ドアへと駆け寄った。
雑談をしながら港をぶらついて、二人は帰路に着いた。
「引越しは何時なんだ?」
「来週にする予定」
「今週は仕事もないし、暇してるから荷造り手伝うよ」
「ありがとう、助かる~」
「来週は恒例の仕事が入ってるから、荷運びが手伝えるかどうかだな」
「それほど多くはないし、手押し車借りたら、自分で運べると思う」
ごく当たり前のように言われて、ハドリーは眉間を寄せる。
「……やっぱ心配だな。時間の都合つけて手伝うわ…」
「タブン大丈夫だと思うんだけどなあ」
キュッリッキは自覚していないが、かなり非力である。それが判っているハドリーは、上り坂で難儀しているキュッリッキが容易に想像できて、不安でたまらない。
馬車を借りればいいが、生憎、街の中で馬車を操るには、専用の免許が必要になる。ハドリーは持っているが、キュッリッキは持っていなかった。
アパートに着いた二人は、そこで別れてそれぞれの部屋に戻った。
食材を保冷箱に入れて、お茶を沸かす。ご近所の主婦からもらった紅茶で、香りがとてもいい。
「おばちゃんたちとも、暫くお別れかあ」
人生の大先輩である”おばちゃんたち”は、人見知りなキュッリッキを、温かく迎えてくれ、時々他愛ない差し入れもくれたりする。
癇癪を起こして失敗すればすぐ戻ってくることになるだろうし、つつがなく続けていければ、お別れになってしまう。
複雑な思いと寂しさに、ちょっとうるっときて、キュッリッキは頭を振った。
「せっかく凄いとこに入れたんだし、頑張らなくっちゃね!」
両手の拳をギュッと握って、気合を入れたところで、お茶が沸いた。
お茶を飲み終えると、ベッドに足を投げ出して座り、キュッリッキはボーッとしていた。連日馬車での移動が、ちょっと身体に堪えているようだ。なんとなく疲労感に包まれていてダルイ。
窓の外に見える空は、だんだんと青みを薄くし、オレンジ色や紫色が侵食し始めている。夕刻だった。
「今日はもう、動きたくないかも…」
疲れたように言うと、コンコンっとドアを叩く音がして、小さく首をかしげた。
「? 誰だろう」
ハドリーなら、あんな上品なノックはしない。もうひとりの友人も、ノックは派手なほうだ。
出ないわけにもいかないので、キュッリッキは小走りに玄関ドアへと駆け寄った。
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