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ライオン傭兵団編
episode26
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ハワドウレ皇国副宰相ベルトルドは現在41歳で、副宰相に叙されたのは、僅か18歳だったと言われている。
国政を担うエリート養成機関ターヴェッティ学院を、歴代1位の首席で卒業するほどの天才で、生まれ持ったスキル〈才能〉はサイ《超能力》、歴史上滅多にいないOverランクだという。
容姿も格段に優れており、貴婦人たちを虜にしてやまず、社交界では”白銀の薔薇”とも呼ばれている。
しかし世間的に最も有名なのは、”泣く子も黙らせる副宰相”という通り名だ。
泣いている子が泣き止むのを待つ時間がもったいないので、早急に問答無用で黙らせる、という事実が込められていた。
「色々な逸話や伝説が尾ひれにつきまくる御仁だが、何にせよ、物凄い大物であることは間違いない」
「うわあ……、ベルトルドさんって、凄いんだねえ~」
一昨日会った時の印象では、優しくてちょっと面白いおにいさん、という感じだった。でも、おにいさんどころではなく、オジさんな年齢にはちょっと驚いた。
「そうかあ、ライオン傭兵団の後ろ盾は、かなり強い権力を持ったやつだって噂はあったんだが、まさか副宰相が後ろ盾をしているとはなあ」
ハドリーはゲッソリと肩を落とした。強いどころか最強である。
「現在の宰相は高齢とかで、皇王から全権を委譲されて、副宰相が事実上の国政の長だとも言われてるんだ。んで、身軽になった宰相の仕事は、皇王の茶飲み話の相手だってよ」
「ふ~ん、でもそれなら、ベルトルドさんが宰相に就いちゃったら早いのにね。世間話するだけなら、引退しても出来るじゃない、宰相?」
「普通はそう考えるけどな。宮仕えのアレコレは、オレみたいな傭兵風情には判んねえ」
「アタシも判んないや」
揃って肩をすくめたところで、《うみぶた亭》に到着した。
店内はお昼どきで混雑していたが、ちょうど入れ替わりで待つことなく、二人は港が見渡せるテラス席に通された。
「アタシ、カニと海老のクリームパスタ」
「オレは海老フライセット、ライスのほうで」
メニュー表を見ることなく、いつものメニューをオーダーする。
「仕事とテスト?は、ちゃんと出来たのか?」
「うん、度肝を抜いてやったもん」
自信たっぷりに言うキュッリッキに、ハドリーは破顔する。
「じゃあ入団決定したんだな。おめでとう」
「えへへ、ありがとう」
にこっと笑ったところで、キュッリッキはすぐに表情を曇らせた。
「でもね、またいつもみたいに、失敗しちゃったらどうしようって、不安なの」
キュッリッキの言う失敗のことは、ハドリーもよく判っている。ハドリーはキュッリッキの数少ない友人の一人だ。失敗して舞い戻ってくるたびに、慰め、励ましているのだから。
国政を担うエリート養成機関ターヴェッティ学院を、歴代1位の首席で卒業するほどの天才で、生まれ持ったスキル〈才能〉はサイ《超能力》、歴史上滅多にいないOverランクだという。
容姿も格段に優れており、貴婦人たちを虜にしてやまず、社交界では”白銀の薔薇”とも呼ばれている。
しかし世間的に最も有名なのは、”泣く子も黙らせる副宰相”という通り名だ。
泣いている子が泣き止むのを待つ時間がもったいないので、早急に問答無用で黙らせる、という事実が込められていた。
「色々な逸話や伝説が尾ひれにつきまくる御仁だが、何にせよ、物凄い大物であることは間違いない」
「うわあ……、ベルトルドさんって、凄いんだねえ~」
一昨日会った時の印象では、優しくてちょっと面白いおにいさん、という感じだった。でも、おにいさんどころではなく、オジさんな年齢にはちょっと驚いた。
「そうかあ、ライオン傭兵団の後ろ盾は、かなり強い権力を持ったやつだって噂はあったんだが、まさか副宰相が後ろ盾をしているとはなあ」
ハドリーはゲッソリと肩を落とした。強いどころか最強である。
「現在の宰相は高齢とかで、皇王から全権を委譲されて、副宰相が事実上の国政の長だとも言われてるんだ。んで、身軽になった宰相の仕事は、皇王の茶飲み話の相手だってよ」
「ふ~ん、でもそれなら、ベルトルドさんが宰相に就いちゃったら早いのにね。世間話するだけなら、引退しても出来るじゃない、宰相?」
「普通はそう考えるけどな。宮仕えのアレコレは、オレみたいな傭兵風情には判んねえ」
「アタシも判んないや」
揃って肩をすくめたところで、《うみぶた亭》に到着した。
店内はお昼どきで混雑していたが、ちょうど入れ替わりで待つことなく、二人は港が見渡せるテラス席に通された。
「アタシ、カニと海老のクリームパスタ」
「オレは海老フライセット、ライスのほうで」
メニュー表を見ることなく、いつものメニューをオーダーする。
「仕事とテスト?は、ちゃんと出来たのか?」
「うん、度肝を抜いてやったもん」
自信たっぷりに言うキュッリッキに、ハドリーは破顔する。
「じゃあ入団決定したんだな。おめでとう」
「えへへ、ありがとう」
にこっと笑ったところで、キュッリッキはすぐに表情を曇らせた。
「でもね、またいつもみたいに、失敗しちゃったらどうしようって、不安なの」
キュッリッキの言う失敗のことは、ハドリーもよく判っている。ハドリーはキュッリッキの数少ない友人の一人だ。失敗して舞い戻ってくるたびに、慰め、励ましているのだから。
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