片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
29 / 882
ライオン傭兵団編

episode26

しおりを挟む
 ハワドウレ皇国副宰相ベルトルドは現在41歳で、副宰相に叙されたのは、僅か18歳だったと言われている。

 国政を担うエリート養成機関ターヴェッティ学院を、歴代1位の首席で卒業するほどの天才で、生まれ持ったスキル〈才能〉はサイ《超能力》、歴史上滅多にいないOverランクだという。

 容姿も格段に優れており、貴婦人たちを虜にしてやまず、社交界では”白銀の薔薇”とも呼ばれている。

 しかし世間的に最も有名なのは、”泣く子も黙らせる副宰相”という通り名だ。

 泣いている子が泣き止むのを待つ時間がもったいないので、早急に問答無用で黙らせる、という事実が込められていた。

「色々な逸話や伝説が尾ひれにつきまくる御仁だが、何にせよ、物凄い大物であることは間違いない」

「うわあ……、ベルトルドさんって、凄いんだねえ~」

 一昨日会った時の印象では、優しくてちょっと面白いおにいさん、という感じだった。でも、おにいさんどころではなく、オジさんな年齢にはちょっと驚いた。

「そうかあ、ライオン傭兵団の後ろ盾は、かなり強い権力を持ったやつだって噂はあったんだが、まさか副宰相が後ろ盾をしているとはなあ」

 ハドリーはゲッソリと肩を落とした。強いどころか最強である。

「現在の宰相は高齢とかで、皇王から全権を委譲されて、副宰相が事実上の国政の長だとも言われてるんだ。んで、身軽になった宰相の仕事は、皇王の茶飲み話の相手だってよ」

「ふ~ん、でもそれなら、ベルトルドさんが宰相に就いちゃったら早いのにね。世間話するだけなら、引退しても出来るじゃない、宰相?」

「普通はそう考えるけどな。宮仕えのアレコレは、オレみたいな傭兵風情には判んねえ」

「アタシも判んないや」

 揃って肩をすくめたところで、《うみぶた亭》に到着した。

 店内はお昼どきで混雑していたが、ちょうど入れ替わりで待つことなく、二人は港が見渡せるテラス席に通された。

「アタシ、カニと海老のクリームパスタ」

「オレは海老フライセット、ライスのほうで」

 メニュー表を見ることなく、いつものメニューをオーダーする。

「仕事とテスト?は、ちゃんと出来たのか?」

「うん、度肝を抜いてやったもん」

 自信たっぷりに言うキュッリッキに、ハドリーは破顔する。

「じゃあ入団決定したんだな。おめでとう」

「えへへ、ありがとう」

 にこっと笑ったところで、キュッリッキはすぐに表情を曇らせた。

「でもね、またいつもみたいに、失敗しちゃったらどうしようって、不安なの」

 キュッリッキの言う失敗のことは、ハドリーもよく判っている。ハドリーはキュッリッキの数少ない友人の一人だ。失敗して舞い戻ってくるたびに、慰め、励ましているのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...