片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
877 / 882
番外編・3

彼らのある日の悩み キュッリッキ編:牛乳飲んだらきっと解決!

しおりを挟む
 毎日毎日、暇さえあれば――ほぼ暇そうだ――腕立て伏せなどをしているヴァルトに、キュッリッキは神妙に話しかけた。

「ねえねえヴァルトぉ、どうやったらそんなに背、伸びるの?」

「ああ?」

 腕立て伏せは止めず、突っ慳貪に返事をする。

「ちょーどいいや、おいきゅーり、俺様の背に乗れ! クマやろーにやってるみたいに」

 キュッリッキは近くにあったクッションを取ると、ヴァルトの背に置いて、その上に勢いよく飛び乗った。

「げふっ」

 ヴィプネン族やトゥーリ族に比べると、極端すぎるほど軽いアイオン族のキュッリッキでも、勢いをつけて座ればかなりの衝撃になる。

「てめーこのきゅーり! 俺様が潰れるだろが!!」

「ガエルはこんくらい屁でもナイって、いつも平気で腕立て伏せ続けてるけどお~?」

 嫌味ったらしく返すと、ヴァルトはカチンときて鼻の穴を膨らませた。

「この俺様が、あんなクマやろーに負けるわけがねえ!!!」

 フンッと鼻息を吹き出し、ヴァルトは勢いよく腕立て伏せを再開した。

「ねーヴァルトの背の高いの、どうやったらなるのよー?」

 激しく動く背中の上にあぐらをかいて、キュッリッキは絶妙なバランスで座り続けた。

「知るか! こーゆーのは親の問題だろ親の」

 親なぞ片手の指で足りるくらいしか会ったことがない。背が高いかどうかなんて知る訳もなく。

「ヴァルトのバカちん!!」

 小さな拳を作り、ヴァルトの頭をぽかすか殴る。

「いてえ! なんなんだよ!! ぎゅーにゅーでも飲んでろ牛の乳を!」

「牛乳なんだ?」



 キュッリッキは地下の食料貯蔵庫へ行って、牛乳の入っている大きな缶の中を覗き込んだ。

「むぅー、入ってなぁい」

 牛乳は毎朝配達に来る分を、朝のうちにみんなで消費してしまうので、すでに空っぽだった。

 一旦部屋へ戻って財布を持つと、キュッリッキはアジトを飛び出した。そしてエルダー街の中を駆け回り、ライオン傭兵団御用達の飲み屋〈豪快屋〉へ駆け込んだ。

「おやっさーん! 牛乳ちょうだい!!」

 開店前なのに店に飛び込んできた少女を、〈豪快屋〉の主は目をぱちくりさせながらみやった。

「なんでえライオンとこの嬢ちゃんか。随分と早い来店だが、酒じゃなく牛乳ってか……」

 ライオン傭兵団の新入り傭兵として、グルフはしっかり覚えていたが、酒を楽しむ店に来て牛乳を出せと言われてガッカリする。

「おやっさんの牛乳で、アタシの背が伸びるかどうかの瀬戸際なの!」

「へっ?」

「バカヴァルトが牛乳飲んだら背が伸びるって言うんだもん! だから牛乳ちょうだい」

 両手を前に広げて催促するキュッリッキに、グルフは目を白黒させながらも、バイトの店員に牛乳を取ってこさせた。

「ホントに背ぇ伸びるのかあ?」

 大ジョッキに並々注がれた牛乳を、キュッリッキは両手でジョッキを抱えてグビグビ飲みだした。

 キュッリッキの身長は、平均的女子の中では若干低い。気にするほど低くはないが、どうしても周りが長身の男ばかりなので、もう少し高くなりたい。マリオンやマーゴットなどは、キュッリッキよりも身長が高い。シビルやハーマンはトゥーリ族だから、低くても身長を比べてもしょうがない。ペルラやブルニタルもトゥーリ族だが、スラリと身長が高かった。

 とにかくあと5センチは伸びたい。そうすれば、もうちょっとみんなの中でも子供扱いされないと思うからだ。身長が低いばっかりに、子供扱いされている。そう、キュッリッキは信じ込んでいた。

 全部、身長が低いせい! この際年齢の差は頭の中から隔離されていた。

「いい飲みっぷりだが、腹ぁ壊すなよ……」

 心配そうにカウンターの中で首をすくめるグルフに、口の周りを真っ白にしたキュッリッキは、小さなゲップをしながらにっこり笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

処理中です...