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番外編・3
彼らのある日の悩み キュッリッキ編:牛乳飲んだらきっと解決!
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毎日毎日、暇さえあれば――ほぼ暇そうだ――腕立て伏せなどをしているヴァルトに、キュッリッキは神妙に話しかけた。
「ねえねえヴァルトぉ、どうやったらそんなに背、伸びるの?」
「ああ?」
腕立て伏せは止めず、突っ慳貪に返事をする。
「ちょーどいいや、おいきゅーり、俺様の背に乗れ! クマやろーにやってるみたいに」
キュッリッキは近くにあったクッションを取ると、ヴァルトの背に置いて、その上に勢いよく飛び乗った。
「げふっ」
ヴィプネン族やトゥーリ族に比べると、極端すぎるほど軽いアイオン族のキュッリッキでも、勢いをつけて座ればかなりの衝撃になる。
「てめーこのきゅーり! 俺様が潰れるだろが!!」
「ガエルはこんくらい屁でもナイって、いつも平気で腕立て伏せ続けてるけどお~?」
嫌味ったらしく返すと、ヴァルトはカチンときて鼻の穴を膨らませた。
「この俺様が、あんなクマやろーに負けるわけがねえ!!!」
フンッと鼻息を吹き出し、ヴァルトは勢いよく腕立て伏せを再開した。
「ねーヴァルトの背の高いの、どうやったらなるのよー?」
激しく動く背中の上にあぐらをかいて、キュッリッキは絶妙なバランスで座り続けた。
「知るか! こーゆーのは親の問題だろ親の」
親なぞ片手の指で足りるくらいしか会ったことがない。背が高いかどうかなんて知る訳もなく。
「ヴァルトのバカちん!!」
小さな拳を作り、ヴァルトの頭をぽかすか殴る。
「いてえ! なんなんだよ!! ぎゅーにゅーでも飲んでろ牛の乳を!」
「牛乳なんだ?」
キュッリッキは地下の食料貯蔵庫へ行って、牛乳の入っている大きな缶の中を覗き込んだ。
「むぅー、入ってなぁい」
牛乳は毎朝配達に来る分を、朝のうちにみんなで消費してしまうので、すでに空っぽだった。
一旦部屋へ戻って財布を持つと、キュッリッキはアジトを飛び出した。そしてエルダー街の中を駆け回り、ライオン傭兵団御用達の飲み屋〈豪快屋〉へ駆け込んだ。
「おやっさーん! 牛乳ちょうだい!!」
開店前なのに店に飛び込んできた少女を、〈豪快屋〉の主は目をぱちくりさせながらみやった。
「なんでえライオンとこの嬢ちゃんか。随分と早い来店だが、酒じゃなく牛乳ってか……」
ライオン傭兵団の新入り傭兵として、グルフはしっかり覚えていたが、酒を楽しむ店に来て牛乳を出せと言われてガッカリする。
「おやっさんの牛乳で、アタシの背が伸びるかどうかの瀬戸際なの!」
「へっ?」
「バカヴァルトが牛乳飲んだら背が伸びるって言うんだもん! だから牛乳ちょうだい」
両手を前に広げて催促するキュッリッキに、グルフは目を白黒させながらも、バイトの店員に牛乳を取ってこさせた。
「ホントに背ぇ伸びるのかあ?」
大ジョッキに並々注がれた牛乳を、キュッリッキは両手でジョッキを抱えてグビグビ飲みだした。
キュッリッキの身長は、平均的女子の中では若干低い。気にするほど低くはないが、どうしても周りが長身の男ばかりなので、もう少し高くなりたい。マリオンやマーゴットなどは、キュッリッキよりも身長が高い。シビルやハーマンはトゥーリ族だから、低くても身長を比べてもしょうがない。ペルラやブルニタルもトゥーリ族だが、スラリと身長が高かった。
とにかくあと5センチは伸びたい。そうすれば、もうちょっとみんなの中でも子供扱いされないと思うからだ。身長が低いばっかりに、子供扱いされている。そう、キュッリッキは信じ込んでいた。
全部、身長が低いせい! この際年齢の差は頭の中から隔離されていた。
「いい飲みっぷりだが、腹ぁ壊すなよ……」
心配そうにカウンターの中で首をすくめるグルフに、口の周りを真っ白にしたキュッリッキは、小さなゲップをしながらにっこり笑った。
「ねえねえヴァルトぉ、どうやったらそんなに背、伸びるの?」
「ああ?」
腕立て伏せは止めず、突っ慳貪に返事をする。
「ちょーどいいや、おいきゅーり、俺様の背に乗れ! クマやろーにやってるみたいに」
キュッリッキは近くにあったクッションを取ると、ヴァルトの背に置いて、その上に勢いよく飛び乗った。
「げふっ」
ヴィプネン族やトゥーリ族に比べると、極端すぎるほど軽いアイオン族のキュッリッキでも、勢いをつけて座ればかなりの衝撃になる。
「てめーこのきゅーり! 俺様が潰れるだろが!!」
「ガエルはこんくらい屁でもナイって、いつも平気で腕立て伏せ続けてるけどお~?」
嫌味ったらしく返すと、ヴァルトはカチンときて鼻の穴を膨らませた。
「この俺様が、あんなクマやろーに負けるわけがねえ!!!」
フンッと鼻息を吹き出し、ヴァルトは勢いよく腕立て伏せを再開した。
「ねーヴァルトの背の高いの、どうやったらなるのよー?」
激しく動く背中の上にあぐらをかいて、キュッリッキは絶妙なバランスで座り続けた。
「知るか! こーゆーのは親の問題だろ親の」
親なぞ片手の指で足りるくらいしか会ったことがない。背が高いかどうかなんて知る訳もなく。
「ヴァルトのバカちん!!」
小さな拳を作り、ヴァルトの頭をぽかすか殴る。
「いてえ! なんなんだよ!! ぎゅーにゅーでも飲んでろ牛の乳を!」
「牛乳なんだ?」
キュッリッキは地下の食料貯蔵庫へ行って、牛乳の入っている大きな缶の中を覗き込んだ。
「むぅー、入ってなぁい」
牛乳は毎朝配達に来る分を、朝のうちにみんなで消費してしまうので、すでに空っぽだった。
一旦部屋へ戻って財布を持つと、キュッリッキはアジトを飛び出した。そしてエルダー街の中を駆け回り、ライオン傭兵団御用達の飲み屋〈豪快屋〉へ駆け込んだ。
「おやっさーん! 牛乳ちょうだい!!」
開店前なのに店に飛び込んできた少女を、〈豪快屋〉の主は目をぱちくりさせながらみやった。
「なんでえライオンとこの嬢ちゃんか。随分と早い来店だが、酒じゃなく牛乳ってか……」
ライオン傭兵団の新入り傭兵として、グルフはしっかり覚えていたが、酒を楽しむ店に来て牛乳を出せと言われてガッカリする。
「おやっさんの牛乳で、アタシの背が伸びるかどうかの瀬戸際なの!」
「へっ?」
「バカヴァルトが牛乳飲んだら背が伸びるって言うんだもん! だから牛乳ちょうだい」
両手を前に広げて催促するキュッリッキに、グルフは目を白黒させながらも、バイトの店員に牛乳を取ってこさせた。
「ホントに背ぇ伸びるのかあ?」
大ジョッキに並々注がれた牛乳を、キュッリッキは両手でジョッキを抱えてグビグビ飲みだした。
キュッリッキの身長は、平均的女子の中では若干低い。気にするほど低くはないが、どうしても周りが長身の男ばかりなので、もう少し高くなりたい。マリオンやマーゴットなどは、キュッリッキよりも身長が高い。シビルやハーマンはトゥーリ族だから、低くても身長を比べてもしょうがない。ペルラやブルニタルもトゥーリ族だが、スラリと身長が高かった。
とにかくあと5センチは伸びたい。そうすれば、もうちょっとみんなの中でも子供扱いされないと思うからだ。身長が低いばっかりに、子供扱いされている。そう、キュッリッキは信じ込んでいた。
全部、身長が低いせい! この際年齢の差は頭の中から隔離されていた。
「いい飲みっぷりだが、腹ぁ壊すなよ……」
心配そうにカウンターの中で首をすくめるグルフに、口の周りを真っ白にしたキュッリッキは、小さなゲップをしながらにっこり笑った。
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