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番外編・3
人魚姫と王子様(?)・4
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「真面目に戦う気あんのかよこの魚人間ども」
銃口から吹き上がる硝煙を軽く吹き飛ばしながら、いかにもな人相の悪い顔を歪めて中年男は唾を吐き捨てた。
海面にはうつ伏せに漂う人魚の死体が、5体無残に浮かんでいた。
「しょーがねーよ、人魚族は温厚だからな。戦闘にゃ向いてねえ」
「死体はどーするよ」
「ほっとけばどっかに勝手に流れ着くだろ」
「とっとと珊瑚取ってずらかるぜ」
小型船に乗り込んでいる傭兵たちは10名ほど、それぞれに火器を手にしているところから、武器系スキル〈才能〉の集団らしかった。
「くおらああああ! 悪さしてんのはどこのどいつだあーーー」
あまりにも元気な声がいきなり上から降ってきて、全員揃って空を見上げた。
「な、なんだ!?」
真っ白な翼を持った綺麗な顔をした男が、全裸で舞い降りてきて、タコのような頭をした男をいきなり拳で殴り飛ばした。
「魚人をこんなに殺しやがって、俺様が徹底的に成敗してくれる!!」
顔も大真面目なのだが、皆どうにも股間に視線を注いで呆気にとられてしまっている。同性が羨むその見事なサイズ。
「いやっ、人魚だし!」
タバコを咥えた男が、ついズレた反応を叫び返してしまった。そこで残りの傭兵たちもハッと我に返って銃を構えた。
「銃ごときで俺様がヤられると、マジ思っているのか大馬鹿者がー!」
言うやいなや、男は目にも止まらぬスピードで動くと、次々と銃を手刀で叩き落とし、すべて海の中に蹴り捨ててしまった。
「さあ、覚悟しろ愚民ども」
拳をポキポキ鳴らしながら仁王立ちする。
「フルチンでナニかっこつけてやがるんだ……」
痺れる手を摩りながら、傭兵たちは翼を広げた男を睨みつけた。
「待てよ、こいつたしか……」
人相の悪い中年男が記憶の中から、目の前の男の名前を思い出した。
「そうだよ、ライオン傭兵団のヴァルトだ!」
「キサマ!! ヴァルト様と呼べ”様”を付け忘れんな!!」
そう叫んで、あとはもう秒殺する勢いで傭兵たちを叩きのめしていった。
「きゃああ」
マルユッカは海に浮かぶ仲間の死体を見て悲鳴を上げて泣き出した。
死体はどれも複数の銃痕が残り、あたりを血の色に染め上げていた。
「そこのイルカ」
マルユッカに寄り添うようにしていたイルカのヨーランに、ヴァルトは呼びかけた。
「魚人の仲間たちに報せてやるんだぞ、今すぐ」
ヨーランはキュッと鳴くと、ちゃぷんと海に潜った。
仲間たちの死体の前で顔を両手で覆って泣きじゃくるマルユッカを、船上から黙って見ていたヴァルトは、その細い肩を震わせて泣く姿が、ある少女の姿と重なってため息をついた。
ヴァルトは無言でマルユッカの後ろに立つと、そっとマルユッカを抱き上げて飛び上がった。
水から離れる感触がして、マルユッカは何だろうと顔から手を離す。そしてすぐ身体がすとんと抱きかかえられて、慌ててヴァルトにしがみついた。
恐る恐る下を見ると、そこは海が広がっていて、そして風が気持ちいいくらい身体に吹き付けてきた。
「空を………飛んでる――」
見慣れた海のはずだ。しかし視点が違うとこんなにも別世界に見えるものなのだろうか。初めて海を見おろしたマルユッカは、あまりの驚きに涙も乾いてひたすら海と空を交互に見ていた。
そして先程から一言も発しないヴァルトを見上げた。
空はもうじき夕闇に染まろうとしている。うっすらと赤く染まった陽の光を浴びて風になびく黄金色の髪が、どこまでもキラキラしていて綺麗だった。整った顔立ちも青い瞳も綺麗で、これではまるで――
(童話に出てくる王子様みたい)
マルユッカは胸のあたりが小さくキュンッとするのを感じて、頬を赤く染めた。
「あれ~? ヴァルトこんな時間までドコ行ってたの?」
玄関ホールでキュッリッキとバッタリ会ったヴァルトは、真顔でキュッリッキを見つめ、両手を腰にあてて得意そうに胸を張った。
「オマエ並みのぺちゃぱい魚人と遊んでた!」
反射的にキュッリッキはムカッと顔を歪ませると、
「ぺちゃぱいってゆーなー!!」
そう叫びながらグーを作ってヴァルトに殴りかかった。
「オマエの攻撃があたるような俺様じゃないわ、ぺちゃぱいめ!!」
からかうように笑ってヒョイッと拳をかわし、ヴァルトはドタバタと談話室に逃げ込んでいった。
「きぃいいいっ! 許さないんだからー!!」
顔を真っ赤にしたキュッリッキは、拳を振り上げあとを追いかけた。
銃口から吹き上がる硝煙を軽く吹き飛ばしながら、いかにもな人相の悪い顔を歪めて中年男は唾を吐き捨てた。
海面にはうつ伏せに漂う人魚の死体が、5体無残に浮かんでいた。
「しょーがねーよ、人魚族は温厚だからな。戦闘にゃ向いてねえ」
「死体はどーするよ」
「ほっとけばどっかに勝手に流れ着くだろ」
「とっとと珊瑚取ってずらかるぜ」
小型船に乗り込んでいる傭兵たちは10名ほど、それぞれに火器を手にしているところから、武器系スキル〈才能〉の集団らしかった。
「くおらああああ! 悪さしてんのはどこのどいつだあーーー」
あまりにも元気な声がいきなり上から降ってきて、全員揃って空を見上げた。
「な、なんだ!?」
真っ白な翼を持った綺麗な顔をした男が、全裸で舞い降りてきて、タコのような頭をした男をいきなり拳で殴り飛ばした。
「魚人をこんなに殺しやがって、俺様が徹底的に成敗してくれる!!」
顔も大真面目なのだが、皆どうにも股間に視線を注いで呆気にとられてしまっている。同性が羨むその見事なサイズ。
「いやっ、人魚だし!」
タバコを咥えた男が、ついズレた反応を叫び返してしまった。そこで残りの傭兵たちもハッと我に返って銃を構えた。
「銃ごときで俺様がヤられると、マジ思っているのか大馬鹿者がー!」
言うやいなや、男は目にも止まらぬスピードで動くと、次々と銃を手刀で叩き落とし、すべて海の中に蹴り捨ててしまった。
「さあ、覚悟しろ愚民ども」
拳をポキポキ鳴らしながら仁王立ちする。
「フルチンでナニかっこつけてやがるんだ……」
痺れる手を摩りながら、傭兵たちは翼を広げた男を睨みつけた。
「待てよ、こいつたしか……」
人相の悪い中年男が記憶の中から、目の前の男の名前を思い出した。
「そうだよ、ライオン傭兵団のヴァルトだ!」
「キサマ!! ヴァルト様と呼べ”様”を付け忘れんな!!」
そう叫んで、あとはもう秒殺する勢いで傭兵たちを叩きのめしていった。
「きゃああ」
マルユッカは海に浮かぶ仲間の死体を見て悲鳴を上げて泣き出した。
死体はどれも複数の銃痕が残り、あたりを血の色に染め上げていた。
「そこのイルカ」
マルユッカに寄り添うようにしていたイルカのヨーランに、ヴァルトは呼びかけた。
「魚人の仲間たちに報せてやるんだぞ、今すぐ」
ヨーランはキュッと鳴くと、ちゃぷんと海に潜った。
仲間たちの死体の前で顔を両手で覆って泣きじゃくるマルユッカを、船上から黙って見ていたヴァルトは、その細い肩を震わせて泣く姿が、ある少女の姿と重なってため息をついた。
ヴァルトは無言でマルユッカの後ろに立つと、そっとマルユッカを抱き上げて飛び上がった。
水から離れる感触がして、マルユッカは何だろうと顔から手を離す。そしてすぐ身体がすとんと抱きかかえられて、慌ててヴァルトにしがみついた。
恐る恐る下を見ると、そこは海が広がっていて、そして風が気持ちいいくらい身体に吹き付けてきた。
「空を………飛んでる――」
見慣れた海のはずだ。しかし視点が違うとこんなにも別世界に見えるものなのだろうか。初めて海を見おろしたマルユッカは、あまりの驚きに涙も乾いてひたすら海と空を交互に見ていた。
そして先程から一言も発しないヴァルトを見上げた。
空はもうじき夕闇に染まろうとしている。うっすらと赤く染まった陽の光を浴びて風になびく黄金色の髪が、どこまでもキラキラしていて綺麗だった。整った顔立ちも青い瞳も綺麗で、これではまるで――
(童話に出てくる王子様みたい)
マルユッカは胸のあたりが小さくキュンッとするのを感じて、頬を赤く染めた。
「あれ~? ヴァルトこんな時間までドコ行ってたの?」
玄関ホールでキュッリッキとバッタリ会ったヴァルトは、真顔でキュッリッキを見つめ、両手を腰にあてて得意そうに胸を張った。
「オマエ並みのぺちゃぱい魚人と遊んでた!」
反射的にキュッリッキはムカッと顔を歪ませると、
「ぺちゃぱいってゆーなー!!」
そう叫びながらグーを作ってヴァルトに殴りかかった。
「オマエの攻撃があたるような俺様じゃないわ、ぺちゃぱいめ!!」
からかうように笑ってヒョイッと拳をかわし、ヴァルトはドタバタと談話室に逃げ込んでいった。
「きぃいいいっ! 許さないんだからー!!」
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