875 / 882
番外編・3
人魚姫と王子様(?)・3
しおりを挟む
思いっきり真顔で問われ、しかし初めて聞く単語にマルユッカはきょとんとした。
「コドモはどうやって作るんだ? って聞いてるんだ!」
これにもマルユッカは答えられなかった。何故なら知らないからだ。
質問に答えられないことで落ち込んだマルユッカは、愛らしい顔を悲しげに俯かせてしまう。しかし男はそんなマルユッカの様子にも頓着せず、ぶつぶつと独りごちながら神妙な顔つきで考え込んでいた。
「俺様はペルラが大好きだ! ペルラはトゥーリ族のネコ人間だ。だから俺様とペルラは子供が作れない」
男は水平線を眺めながら、複雑な感情の色を乗せた声で淡々と語りだした。
「オマエたち魚人は上半身は人間だけど下半身は魚だろ、だったらネコと人間も交配出来てイイはずなんだ」
30種からなるトゥーリ族の人々は、同種族の者としか子孫が残せない。ヴィプネン族やアイオン族との交配も当然出来なかった。異種族同士で交配出来るのはヴィプネン族とアイオン族だけだ。
人魚だけが魚の特性と人間の特性を持ち、姿も半々でうまく混ざっていた。そしてなにより水陸どちらでも呼吸が可能な点が、もっとも優れていると言われている。
「時々タピオにきて、どうにか出来ないものか探してるんだケド、方法がウマク見つからないんだよなあ」
この男の人はよっぽどペルラという女性を愛してるんだ、そうマルユッカは思い、なんだかこの綺麗な男の人が可哀想に思えてならなかった。
「キレーな海だな」
ぼんやりとした口調で男が言うと、マルユッカは嬉しそうに頷いた。
惑星ペッコや惑星ヒイシにも、これほど美しい海はない、と言われている。そしてそれはソーダヴェッタに暮らす人魚たちの自慢だった。
「よし、俺様もひと泳ぎするぞ!!」
そう言って男は立ち上がると、いきなり勢いよく服を脱ぎだした。
先程までの淡い感傷は一体どこへ!? とツッコミたくなるほどの180度変貌ぶりに、マルユッカは再び頭をグルグルさせた。
男は全裸になると、岩の上に仁王立ちして両手を腰に当ててふんぞり返った。
その姿をマルユッカはまじまじと下から見上げる。
上半身は男の人魚と変わらない。だが――
下半身に奇妙なものがぶら下がっているのがえらく気になった。形といい色といい、綺麗な面立ちには到底似合わないものだなとマルユッカは唸る。
「それっ!」
男は勢いよく海に飛び込むと、わははははと笑い声をあげながら見事なスクロールで泳いでいた。
天気も良く波はいつも以上に穏やかだったので、人魚じゃなくても泳ぎやすい。
泳ぐ男の姿を楽しそうに見て、マルユッカも男に続いて海に潜った。
男の長い手足が水をかき分けスムーズに泳ぐ。しかしそれ以上に、水の抵抗を感じさせないほど静かで優雅にマルユッカは泳いだ。水の流れのような泳ぎは、人魚特有の泳ぎ方だ。
そんなマルユッカの姿を見て男は嬉しそうに微笑んだが、呼吸をするために海面にあがる。
「ぷはーっ! さすがに1分近く潜ってると苦しーな」
男の傍で顔を出したマルユッカは、無邪気な笑みを男に向けた。
その時――
大きな振動が海を震わせ、小魚が海面を跳ね踊る。
「なんか爆発でもしたな」
男は服を置いてある岩に戻ると、よいしょっと小さく掛け声をして岩に登って立ち上がった。
「南のほうになんかいるなー……」
マルユッカも南のほうを不安げに見ていると、そこへ一匹のイルカが海面に顔を出した。
「まあ、ヨーランどうしたの?」
ただ鳴き声をあげるイルカと人語を話す少女を見おろしながら、男は腕を組んで首をかしげていた。
「あのね、南の方に密漁船がきていて、自警団の人達と戦っているって」
「ほほう、密漁船かー」
なんだか嬉しそうな声で男は呟くと、ニヤリと口の端を歪めた。そして――
マルユッカは目を見張った。
男の背に突然巨大な白い翼が生えたのだ。
真っ青な空と海を背景に、柔らかそうで高貴とさえ思える翼が優雅に広がる。
「俺様が成敗してやる!!」
何度か翼を羽ばたかせると、男はまっすぐ南に向かって飛んでいってしまった。
その飛んでいく後ろ姿をびっくりしながら見送っていたマルユッカは、イルカのヨーランに促されて慌ててあとを追った。
「コドモはどうやって作るんだ? って聞いてるんだ!」
これにもマルユッカは答えられなかった。何故なら知らないからだ。
質問に答えられないことで落ち込んだマルユッカは、愛らしい顔を悲しげに俯かせてしまう。しかし男はそんなマルユッカの様子にも頓着せず、ぶつぶつと独りごちながら神妙な顔つきで考え込んでいた。
「俺様はペルラが大好きだ! ペルラはトゥーリ族のネコ人間だ。だから俺様とペルラは子供が作れない」
男は水平線を眺めながら、複雑な感情の色を乗せた声で淡々と語りだした。
「オマエたち魚人は上半身は人間だけど下半身は魚だろ、だったらネコと人間も交配出来てイイはずなんだ」
30種からなるトゥーリ族の人々は、同種族の者としか子孫が残せない。ヴィプネン族やアイオン族との交配も当然出来なかった。異種族同士で交配出来るのはヴィプネン族とアイオン族だけだ。
人魚だけが魚の特性と人間の特性を持ち、姿も半々でうまく混ざっていた。そしてなにより水陸どちらでも呼吸が可能な点が、もっとも優れていると言われている。
「時々タピオにきて、どうにか出来ないものか探してるんだケド、方法がウマク見つからないんだよなあ」
この男の人はよっぽどペルラという女性を愛してるんだ、そうマルユッカは思い、なんだかこの綺麗な男の人が可哀想に思えてならなかった。
「キレーな海だな」
ぼんやりとした口調で男が言うと、マルユッカは嬉しそうに頷いた。
惑星ペッコや惑星ヒイシにも、これほど美しい海はない、と言われている。そしてそれはソーダヴェッタに暮らす人魚たちの自慢だった。
「よし、俺様もひと泳ぎするぞ!!」
そう言って男は立ち上がると、いきなり勢いよく服を脱ぎだした。
先程までの淡い感傷は一体どこへ!? とツッコミたくなるほどの180度変貌ぶりに、マルユッカは再び頭をグルグルさせた。
男は全裸になると、岩の上に仁王立ちして両手を腰に当ててふんぞり返った。
その姿をマルユッカはまじまじと下から見上げる。
上半身は男の人魚と変わらない。だが――
下半身に奇妙なものがぶら下がっているのがえらく気になった。形といい色といい、綺麗な面立ちには到底似合わないものだなとマルユッカは唸る。
「それっ!」
男は勢いよく海に飛び込むと、わははははと笑い声をあげながら見事なスクロールで泳いでいた。
天気も良く波はいつも以上に穏やかだったので、人魚じゃなくても泳ぎやすい。
泳ぐ男の姿を楽しそうに見て、マルユッカも男に続いて海に潜った。
男の長い手足が水をかき分けスムーズに泳ぐ。しかしそれ以上に、水の抵抗を感じさせないほど静かで優雅にマルユッカは泳いだ。水の流れのような泳ぎは、人魚特有の泳ぎ方だ。
そんなマルユッカの姿を見て男は嬉しそうに微笑んだが、呼吸をするために海面にあがる。
「ぷはーっ! さすがに1分近く潜ってると苦しーな」
男の傍で顔を出したマルユッカは、無邪気な笑みを男に向けた。
その時――
大きな振動が海を震わせ、小魚が海面を跳ね踊る。
「なんか爆発でもしたな」
男は服を置いてある岩に戻ると、よいしょっと小さく掛け声をして岩に登って立ち上がった。
「南のほうになんかいるなー……」
マルユッカも南のほうを不安げに見ていると、そこへ一匹のイルカが海面に顔を出した。
「まあ、ヨーランどうしたの?」
ただ鳴き声をあげるイルカと人語を話す少女を見おろしながら、男は腕を組んで首をかしげていた。
「あのね、南の方に密漁船がきていて、自警団の人達と戦っているって」
「ほほう、密漁船かー」
なんだか嬉しそうな声で男は呟くと、ニヤリと口の端を歪めた。そして――
マルユッカは目を見張った。
男の背に突然巨大な白い翼が生えたのだ。
真っ青な空と海を背景に、柔らかそうで高貴とさえ思える翼が優雅に広がる。
「俺様が成敗してやる!!」
何度か翼を羽ばたかせると、男はまっすぐ南に向かって飛んでいってしまった。
その飛んでいく後ろ姿をびっくりしながら見送っていたマルユッカは、イルカのヨーランに促されて慌ててあとを追った。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる