片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
873 / 882
番外編・3

人魚姫と王子様(?)・1

しおりを挟む
 動物と人が混じりあった亜人トゥーリ族が治める惑星ペッコには、広大な海に囲まれた4つの大陸と群島や大小の島々がある。

 南の海はソーダヴェッタといい、人魚のトゥーリ族が治める海域だ。

 人魚たちの国は深い海の底にあるが、海域全ては人魚族のものであり、他種族が勝手に乗り込んでいい海域(ばしょ)ではない。通行は必ず決められた航路があり、それ以外は許可なくば通れないことになっている。

 それなのに、

「なぜあんなところに、人間がいるかしら?」

 マルユッカは海面に鼻まで出して、岩の上に寝ている人間を見つめた。

 ソーダヴェッタの中でも大小の島々が多く集まる場所で、特にここは珊瑚礁が多く、密猟に訪れる人間たちがいる。

 密猟にくる人間は主にヴィプネン族で、トゥーリ族の他種族達を金で雇って乗り込んでくるらしい。中には人魚族の者たちも関わっているという。

 そのことで父王は心を痛めていることを、王女のひとりであるマルユッカは知っていた。

 人魚族はトゥーリ族の中で、もっとも闘争心のない種族だ。陸(おか)の上の政には興味がなく、ただの一度もロフレス王国の王に抜擢されたことがない。

 30の種族から成るトゥーリ族は、種族の王をいただいて、ロフレス王国という種族としての統一国を持っている。他惑星を治めるヴィプネン族とアイオン族との外交の窓口としての便宜上必要な措置であり、種族の王の下には、選ばれなかった他の29種族の王たちが評議員としてついている。

 種族の王は10年ごとに代理人を立て、決闘試合をして選ばれていた。

 人魚族はただの一度も決闘試合に代理人を送ったことはなく棄権している。ソーダヴェッタの海域と国と民が健やかに生活できればそれでいい、という考えが代々続いていたからだ。

 争いを好まぬ人魚族のマルユッカは6人姉妹の末っ子で、今年で15歳になる。15歳になれば自由に海の上に遊びに行くことが許されるようになり、マルユッカはまだ自由を手に入れて1週間が過ぎたばかりだ。

 たっぷりと眩しい陽の光を浴び、海面をゆったりと泳ぐのが最近のお気に入り。

 今日は少し遠出をして、珊瑚礁のあるハハリ海域に遊びに来て、一人の人間を見つけた。

 恐る恐る、ゆっくりと近づいてみる。

 海面にせり出した岩の上に仰向けに寝そべり、一瞬倒れているのではと思ったが、気持ちよさそうに眠っているのが表情で直ぐに判った。

 もっとよく近づいてみた。

 陽の光を弾くほど綺麗な黄金の髪に、きめの細かい白肌、細っそりとした肢体で手足も長い。

「綺麗な顔……」

 無邪気で無防備な寝顔は、穏やかで優しげに見えた。

 マルユッカは人間の寝そべる岩に取り付くと、少し身を乗り出してその顔を覗き込んだ。そして手を伸ばし、長いまつ毛に縁どられた目と、薄い唇にそっと触れてみる。

 細いがよく鍛えてあるのが判る筋肉質の身体にも触れてみて、マルユッカはほんのりと頬を染めた。

「こんなに綺麗な男の人、初めて見たわ」

 人魚族にも容貌の優れた男はいっぱいいるが、目の前の男はそれをはるかに凌駕すると思えた。

「目を開いたらどんな瞳の色をしているのかしら。声は低いのかしら、高いのかしら」

 見つめているうちに、マルユッカのなかでどんどん妄想が膨らんでいく。そしてドキドキ胸が高鳴った。

 時間も忘れて男の目覚めを今か今かと待ち望んでいると、細い眉が寄せら小さな呻き声とともに、男がゆっくりと目を開いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

処理中です...